40 中原昌也の本

2007.05.30

マリ&フィフィの虐殺ソングブック

20070507_029 闇雲に読んだわけではないけれど、中原昌也という人の小説を言葉にするのはとても難しい。とりわけ、第一作品集である、『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』(河出文庫)に関しては。結末はあるようでないに等しく、あらすじはどこまでも広がり続け展開してゆくし、掴み所があるようでなく、読むことの意義も教訓も何も得ることができないのだから。けれど、そんな小説でも読み手を引き込む力は無限大である。引き込まれたが最後、脳内がぐるりぐるりと廻りはじめ、気づけばあらぬ方向へとかき混ぜられてしまうのである。また、物語の端々に登場する著者自身による挿絵は、この世界を皮肉るようにその目元を崩している。恐ろしい。とても。でも、クセになるのだった。

 「路傍の墓石」「血で描かれた野獣の自画像」「あのつとむが死んだ」「とびだせ、母子家庭」「つとむよ、不良大学の扉をたたけ」などなど、ほんのりと毒を潜めたタイトルの数々だけでも思わずうっとりと眺めてしまったわたしだけれど、中でも「暗い廊下に鳴り響く、寂しい足音の歌」には、ひどく混乱してしまった。型破りな小説というのは、こういうことを言うのだろうと思うほどに。物語は、小説と現実とが交錯する展開なのだが、どこまでが小説なのか現実なのかが、あまりにも曖昧なのである。それを気持ち悪く読むわたしと、心地よく酔うように読むわたしがいて、読み手自身の脳内をバーストさせるかのごとく。それでも、読み続けたわたしは完全に毒にはまってしまっていたのだろう。

 侮るなかれ。中原昌也という、この人を見よ。そんなことを思わず呟きたくなる。悪ふざけじゃなくて、大真面目に。真剣に。わたしのセンスはあてにならないものだけれど、この人のセンスはずば抜けていい、という気持ちを込めて。

4309406181マリ&フィフィの虐殺ソングブック (河出文庫―文芸コレクション)
中原 昌也
河出書房新社 2000-10

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2006.11.29

名もなき孤児たちの墓

1010102_gurenn99 内面をえぐられる。そこにある吐露。そこにある真実。そこに横たわる自分自身に。どうしても掻き立てられるそれらに、じっと耐える。耐えなければと思いながら、耐える。目を背けることも忘れて、じっと耐える。そうしている間に怒濤のように流れ込むものに、わたしは何かを掴み損ねたことを悟る。気づいたときには、もう遅い何か。もう二度と手に届かない何か。過去に失ってしまった何か。そういう類のものを悟るのだ、と。中原昌也著『名もなき孤児たちの墓』(新潮社)を読みながら、そんなことをぼんやりと感じていた。そして、自分というものの根底にある何かを、探らなければならない衝動にかられた。けれど、それは簡単に見つかるはずもなく、虚しく時間ばかりが過ぎていった…。

 表題作「名もなき孤児たちの墓」に限らず、どの作品たちの主人公も自分の内面をつらつらと呟く。心の中の声で。一人きりで。特にこの表題作の主人公の場合は、他者との関係を極限までに閉ざし、感情を押し殺している。表情は、もちろん無表情。それが他者を不快にさせないためのマナーだと、考えているような男である。それが、自分の存在をアピールするために有効な手段ではないかとすら、考えているのだ。読みながら、その男の思考というものに流されたわたしは、ふっと口元をゆるめざるを得なかった。そして、どこを見つめるわけでもなく、視線を泳がせてみた。読んでいたはずの文字はぼやけ、わたしは無になろうとした。なんだか無になれそうな気がしたのだった。

 しかしながら、そうできたからといって、なにも起こらないし変わらなかった。当たり前のことだ。それに、無になる境地にまで至るには、結構な時間が必要な気がした。むしろ、ただ病的に思われるだけのような気がしたのだった。“主人公よ、君は病んでいるぞ”なんて、言ってやりたくもなった。けれど、活字に向かってそんなことを言うのも馬鹿馬鹿しく、やっぱり虚しく時間は過ぎ、わたしは自分の愚かさを再確認しただけのことだった。読んでは思考し、思考しては読み…そんな読書をしていたら、いつまでたっても一冊を読み終えることなどできないというのに。時間の使い方そのものを見直した方がいい。そもそも、読書なんぞに耽ることは、どれほどの知恵となるものやら…云々。

 そうして、しまいには自分の思考そのものが疑わしくなってゆく。いや、疑わしいものだと思わされずにはいられない展開が、この作品自体に描かれているのだ。これまでの記憶。これまでのわたし。これまでの何もかもすべて。そう、この世の中のすべてが、何もかも疑わしいくらいなまでに。内面をえぐられたわたしは、えぐられた自分自身を見てはっとする。はっとしながら、ただ耐えることだけを強いられる。周囲にはこんなにも疑わしいことが溢れていたことに。そして、わたし自身そのものの存在の、あまりにもちっぽけな存在そのものに対して。そんなちっぽけな存在ですら、疑わしいことにも。わたしはここにいるのだっけ。ここにいてもいいのだっけ…なんて思うほどに。

4104472026名もなき孤児たちの墓
中原 昌也
新潮社 2006-02-23

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2006.11.02

子猫が読む乱暴者日記

20061102_014 とろん。とろん。とろろん、とろん。わたしは雨音の中、夢の入り口で迷ってみる。右か左か。さては真っ直ぐかと。どの道も険しけれども、幾分かは異なることを願って、ただただ祈るように進む。どうかこの悪夢が長く続かないことだけを思いながら…。中原昌也著『子猫が読む乱暴者日記』(河出文庫)の本能のままに従う感情的な言葉を読みながら。そして、憎しみただ1つだけがリアリティになる瞬間を知った。そこにある虚しさたるや、計り知れないことを。それでも、にっと笑みがこぼれる。結末の無意味さに、にっ。なんとも言えぬ展開に、にっ。未知なる感覚に、にっ、である。あまりにも剥き出しのそれらは、わたしを“にっ”とさせたのであった。

 “子猫”とタイトルには銘打ってあるが、ここに描かれているのは、決して子猫好き向きの物語ではない。何しろ猫は、あくまでもお飾りにすぎず、物語の芯にあるのは、人間の激しい欲望や過剰なる自意識というものの塊であるから。中でも、収録作品の「闘う意志なし、しかし、殺したい」は、まさにその核となる作品であるような気がする。タイトルからも伺える、その無責任さと、無意味さと、理由なき衝動。それこそが、著者の描きたい世界ではないか、と。にっ、と笑みを誘いつつも、すべての人々の心の奥底(主に妄想)を見透かすかのごとくの描き方であるからして。そして、ときには感動すら与えるものであるからして。恐るべき人だ…そう、わたしは感じている。

 けれど、著者はあとがきで云うのだ。“世の中には読むべき本が沢山ある。その事実を知らない人が間違ってこういう本を選んでしまう…”と。嗚呼、なんてことを…。これを読んでにっ、となったわたしは大馬鹿者ではないか…。それでも、大馬鹿者でも阿呆でも間抜けでもいい。わたしはこの著者の作品を楽しんだのだから。好ましいものとして読んだのだから。娯楽としての読書、万歳。無駄な時間の消費も浪費も万歳ではないか。この暴走にこそ、必読の価値があるのだから。本当に必読本となるのは、読み手の受け取り方次第で決まる。正しい読書なんぞ、どこにもないのだ。自らの力でもがいてあがいてこそ、見つかるもの。それが至福の時間というものの極みである。

 とろん。とろん。とろろん、とろん。忘れ水のごとく流れる雨音を聴きながら、脳内が柔軟にとろけてゆく感覚。甘い香りに誘われるままに、そうやって遊ぶのもときには悪くないものだ。読書でもそんな甘い夢を見られることを、どうか知って欲しい。現実とも夢とも見分けのつかぬ悪夢にうなされるよりも、ずっとずっと有意義な夢がここにはある。そう思いたいわたしは、逃避の状態にあるかもしれない。だが、たった1つでもいい。ただ1つのリアリティをどこかに見出すことができたのならば、救われる気がするのだ。つまりは自分の存在意義に。今置かれている状況に。四面楚歌の日々にも。誰にでも。いつでも。手を伸ばせば届く場所にあることに、ふと気づくことを。

4309407838子猫が読む乱暴者日記
中原 昌也
河出書房新社 2006-02-04

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2006.09.07

キッズの未来派わんぱく宣言

20060906_44001 日常というものは、たいてい気だるく過ぎゆくものだ。“軽やかに楽しく”なんていう時間の方が、思えばなんとも少ないものとして、この世界は成り立っている。一瞬の歓喜のための忍耐なんぞ、果たして一体何のためにあるのだろうか…。そんな気持ちで忙しなくモヤモヤしているときには、中原昌也著『キッズの未来派わんぱく宣言』(リトル・モア)が、最高に心地よい。きっと、最高の暇つぶしになるはずだ。最高の気分転換にもなるはずだ。今にも何もかもを放り出して、どこかへ逃げてしまいたい人。そんな人には、特別痛快な1冊になるだろう文章が、ここには満ち溢れているのだ。けれど、内容は在ってないモノとして読むなら読むべき文章でもある。何しろタッチは軽く、さらりと根底にある本音という名の毒を吐き続けるものだから。

 まず、言ってしまおう。これは102ページという、薄い1冊だ。それも、CD付きの。だが、図書館で借りたわたしは、なぜかCDを取り出せないため、悲しいかな、その趣旨を正直に述べることができない。もしかしたら、この中原昌也という人の新たなる表現というものに触れることができていたのかもしれないのに…。残念だ。先に述べたように、毒のある文章ゆえに、好き嫌いの別れる作家というに相応しい気がする。どこまでも身勝手な主観で、残酷なまでにさらりと描かれているように感じてしまったのは、作品の選択を間違ったせいかもしれないのだけれど、わたしはこういう文章が結構、いや、かなり好きである。一番薄い1冊から読み出したのは、わたしの意気地のなさゆえであるとさえ、素直に白状してしまう勢いになるほどだ。

 物語は、1人の男の主観だけで展開してゆく。それはもちろん、当然のごとくとして、偏った主観であり、いつしか、これを読んでいる読者の主観にも重なってしまう。とても口にはできない醜い想い。それが、文字として目の前に現れたとしたら、あなたならどうするだろう。例えば、“何かいいことないかなぁ”とか“おもしれぇこと、何か起きねぇかな”とか、見知らぬ誰かに一言“うるせえ”だとか。こぼしがちなこういう想いは、日常の中では、多いことだろう。むしろ、多すぎるくらいでもある。そうして日常が気だるいのは、きっとわたしたちが満たされているがゆえに、不平不満を募らせているからではないのか…?なんて、思ってしまうわけだ。だからこそ、中原昌也という人の文章は響く。本物を見極めるセンス。つまりは、真理というものを知ってやろうじゃないか、と。

 自分自身の内面の弱さというもの。暴力だけがものをいう、社会というものの動物的世界。常に自己嫌悪に陥るような地味な暮らし。人を羨ましいと思うことへの虚しさ。そして、そこにある、苦悩と後悔とに満ちた人生というもの。わたしたちが、多かれ少なかれ抱く、そのような想いは、当たり前ながら、それぞれにそれぞれの物語がある。あなただけのあなたにしかない日常が。わたしだけのわたしにしかない日常があるのと、同じように。そんな日常の中で感じること。考えること。学ぶこと。楽しむこと。悲しむこと…。そういうもの全てが、本当はたまらなく愛おしくて、たまらなく大事なもののように思えたわたしだ。まだまだ、人生、捨てたものじゃない。とりあえずは、6割くらい信じてみることから、スタートしようじゃないか。

4898151272キッズの未来派わんぱく宣言
中原 昌也 中原 昌也 他
リトルモア 2004-06-22

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