24 佐藤亜有子の本

2005.09.24

抱いて、そしてそのまま殺して

20041121_030 エロティックな小説というのはたくさんあるけれど、私のツボは佐藤亜有子の描く物語。『生贄』(河出文庫)を読んでから、しばらく遠ざかっていたのだけれど、やまだないとの表紙に惹かれて手に取った『抱いて、そしてそのまま殺して』(河出書房新社)は、期待以上に面白かった。あからさまな性的描写だとかシチュエーションではなく、緊迫した空気感と狂気にも似た感情で読ませる。冷ややかな文体の中に、激しくも静かな熱があるように思う。ちょっとでも目を背けたら、何もかもが音を立てて崩れていくような危うさで。微妙なバランスを保って物語は進んでゆく。

 表題作「抱いて、そしてそのまま殺して」は、長い間絶望を感じながら生きてきた女性の物語。精神的に追い込まれていた彼女は、ネットの噂を辿ってあるエージェンシーにすがる。それは、クライアントが死んで欲しいと望む人、または自分が殺されたいと望む人のために、希望どおりの暗殺者を派遣するという仕事を請け負っているという怪しい会社。派遣者は、年齢、性別、外見的な好みまでことごとく希望を叶えてくれるという。カウンセラーの体制まで整えられているらしい。暗殺者を待ち受けているときの期待は、運命の男を捜し求めているような甘美さではないのか。男が首に手を回してゆっくりと愛するように息を奪う様を夢想する彼女…

 そのビジネスが詐欺でも本物でも、殺されてもいいと思える男の手で殺されるという希望を温め続けることができること。彼女が自らの手ではなく暗殺者による死を求めたのは、ほんのわずかな救いから。人が感じる幸福感とか将来に対する希望だとか、そういう類のものには個人差があるものだけれど、彼女が抱える闇は“死”しか求めていない。それも、確実な“死”。彼女が買ったのは幸福という名の“死”。物語はタイトルから想像できる展開とはどんどん離れてゆくのに、それでも彼女からは“死”を求める強い思いが消えることはない。始終つきまとう孤独感も。うーん、どうも私の文章ではエロティックさが伝わらない。

 もうひとつの収録作品「渇き」。もの凄く短い作品ながら、魅力的な物語。あまりに絡み合った複雑な愛の欲望を描いているから、内容の説明ができない。人と人との間には、様々な誤解と異なる認識があることを強く感じる少々怖い展開を見せる。読み手の想像に委ねた結末も妖しい。その息苦しさ、生きてゆくことへの絶望、自分の中に潜む翳りや狂気。それらにがんじがらめになってゆくような錯覚。そして、何よりも、著者によるあとがきで語られる言葉の重さ。似た思いを抱える人は多いとしても、こんなにも重なってしまうことに驚きを感じずにはいられない。これは何百回目かの精神的危機なのか。病んでるなぁ私。

4309015441抱いて、そしてそのまま殺して
佐藤 亜有子
河出書房新社 2003-05-21

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2004.12.22

生贄(いけにえ)

 1996年、「ボディ・レンタル」で第33回文藝賞優秀作を受賞し、ベストセラーとなった佐藤亜有子の2作目である「生贄」。女性ならばはまってしまう要素たっぷりの官能ホラー作品である。とにかく切ない。森の中を正体のわからない者たちから逃げる少女。グリム童話のような残酷なファンタジー。禁じられた鍵を使って次々と扉を開けてゆくときの緊張感。いつまでも続く迷宮の中に、リアルな現実が待っている。はっきり言って救いのない物語である。でも、そこが私は好きである。本の世界へと現実逃避してしまいがちな私にとって、本の世界も現実と同じように救いがないこともあるのよと、気づかせてくれるから。

 「生贄」の主人公である19歳の娼婦とは誰のことなのか、彼女はなぜ娼婦になったのか、森の中で追っ手から逃げていた少女とは同一人物なのか、彼女が犯した罪はどんなものであるのか…明らかにされないたくさんのモヤモヤとした気持ちが、心の中でうずく。20歳になれば、娼婦の生活を終えることができると信じる少女。そして、彼女を何とか救いたいと願う青年。けれど、ラストシーンは冒頭のシーンにつながり、繰り返される物語。主人公を追いつめる7人の男たちは、他ならぬ彼女自身だったのだろうか、想像の世界…?何度読んでも毎回、解釈が違う不思議な小説である。

4309405908生贄 (河出文庫―文芸コレクション)
佐藤 亜有子
河出書房新社 1999-09

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