12 恩田陸の本

2005.07.22

ユージニア

20050721_151 “妖しい美しさを残す作品”というのが、恩田陸・著『ユージニア』(角川書店)を読み終えての率直な感想。ほんの少し斜めに印刷された本文、凝ったつくりの装丁、代わる代わる変化する語り手。そういうものになかなか慣れることができずに、予想外に時間がかかってしまった。3日間、夢の中にまでこの本に関することが出てきて、頭の中を斜めに傾いた文字が次々とかけめぐった。もの凄いスピードで。色白で色素の薄い髪をした少女が、冷ややかな声で笑っていた。まるで私を蔑むように。些細なことにすぐに影響されてしまう私には、少々刺激が強かったのかもしれない。それもまたよし、であるが。

 物語は、K市の名家で起きた大量毒殺事件を軸にして、様々な人物が語っていく形式。読み進めていくと、語られているのは同じ時期ではないことがわかる。犯人とされる男性が自殺したことで一応終わりを迎えた事件であるが、登場する人物たちは誰もがどこかで何かを引きずっている。読み進める私自身も、いつの間にか胸にひっかかるものを感じている。同じ物事1つを語るのに、あまりに違う人々の視点と考えに振り回される。振り回されているうちに、私の中に私だけの事件の真相が少しずつ密やかに出来上がってくる。これは、果たして誰かが語ったことだったのか。私が勝手に妄想したことなのか。

 物語の前半に登場する人物が語っていることで、興味深い言葉がある。“だから言ったでしょう。事実というのは、ある方向から見た主観に過ぎないと。”である。まさに、この物語を象徴するような言葉なのではないか。そう思った。永遠に答えの出ない真実。語り手が多ければ多いほど、事実の数は増えてゆく。私の中にある事件の真相は、私の主観でしかない。時間が経てば経つほどに、輪郭はぼやけ脚色されてゆくのだろう。感情的になってゆく私を置き去りにして、物語の中の語り手は皆あまりにも淡々としているではないか。それに気づいて慌てて冷静さを取り戻した私には、物語が美しいもののように思えたのだった。

404873573Xユージニア
恩田 陸
角川書店 2005-02-03

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2005.04.24

Q&A

2005424_007 ただただ混乱した。大勢の人々が為す連鎖的なパニックには、人間の本質に潜む弱みや臆病さや冷酷さを感じた。それらは不気味な恐ろしさに満ちていて、もの凄くリアルなものとして伝わってきた。これはミステリーなのか、ホラーなのか、それともサスペンスなのか…?どれも当てはまるような。けれど違うような。この感覚は何なのだろうと戸惑う私に気づく。

 第2回本屋大賞を受賞した恩田陸さんの小説を読むべくして手に取ったのは、『Q&A』。都内郊外にある大型スーパーマーケットMにて重大死傷事故が起きる。地上6階、地下1階。少なく見積もっても約4000もの人々が、建物の中にいた。パニックを起こしたお客、逃げ出そうとする車、飛び交う様々なデマ…死者69人、負傷者116人。原因は不明。

 表紙の帯には、恐怖に目を見開いた女性のシュールなイラスト。その横には“これぞ小説!”の大きな文字と“質問と答え(Q&A)だけで物語が進行する、リアルでシリアスなドラマ。謎が謎を呼ぶ恩田ワールドの真骨頂”などとあるらしい(図書館で借りたので、残念ながら実物を読むことができない…)。うんうん、まさにそんな感じである。

 今まで読んだ本とは違う雰囲気を持ち、独特の小説世界を教えてくれる『Q&A』。“独特”と言っても、描かれているのは誰もが心の奥底に抱えているような、単に気づいていないだけのような、気づいていても知らないふりをしているような、そういう世界を描いているのだと思うのだが、普段私たちはあまり意識していない。たいていは他人事として、隅っこに追いやってしまっているのではないだろうか。

 “これからあなたに幾つかの質問をします。ここで話したことが外に出ることはありません…”そんな言葉からQ&Aという表現手段を用いて物語が進行していく本書。事件当時、現場や付近にいたと見られる関係者に聞き込みが行われてゆく。けれど、誰が、何のために、誰に聞いているのか、それがわからない。まさに宣伝文句にあるとおりの謎が謎を呼ぶストーリー展開である。

 そして、後半の“へっ?”とか“ん?”とか思わず声に出してしまいそうな湧き出る複雑な感情は何なのだろう。最後のページをめくったときに“キーッ!”となってしまったのは私だけなのだろうか。混乱の中にある怖さを感じながらも、楽しめた読書。恩田さんのおかげで、楽しい週末を過ごすことができた。そう思う。

4344409361Q&A (幻冬舎文庫 (お-7-8))
恩田 陸
幻冬舎 2007-04

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