ユージニア
“妖しい美しさを残す作品”というのが、恩田陸・著『ユージニア』(角川書店)を読み終えての率直な感想。ほんの少し斜めに印刷された本文、凝ったつくりの装丁、代わる代わる変化する語り手。そういうものになかなか慣れることができずに、予想外に時間がかかってしまった。3日間、夢の中にまでこの本に関することが出てきて、頭の中を斜めに傾いた文字が次々とかけめぐった。もの凄いスピードで。色白で色素の薄い髪をした少女が、冷ややかな声で笑っていた。まるで私を蔑むように。些細なことにすぐに影響されてしまう私には、少々刺激が強かったのかもしれない。それもまたよし、であるが。
物語は、K市の名家で起きた大量毒殺事件を軸にして、様々な人物が語っていく形式。読み進めていくと、語られているのは同じ時期ではないことがわかる。犯人とされる男性が自殺したことで一応終わりを迎えた事件であるが、登場する人物たちは誰もがどこかで何かを引きずっている。読み進める私自身も、いつの間にか胸にひっかかるものを感じている。同じ物事1つを語るのに、あまりに違う人々の視点と考えに振り回される。振り回されているうちに、私の中に私だけの事件の真相が少しずつ密やかに出来上がってくる。これは、果たして誰かが語ったことだったのか。私が勝手に妄想したことなのか。
物語の前半に登場する人物が語っていることで、興味深い言葉がある。“だから言ったでしょう。事実というのは、ある方向から見た主観に過ぎないと。”である。まさに、この物語を象徴するような言葉なのではないか。そう思った。永遠に答えの出ない真実。語り手が多ければ多いほど、事実の数は増えてゆく。私の中にある事件の真相は、私の主観でしかない。時間が経てば経つほどに、輪郭はぼやけ脚色されてゆくのだろう。感情的になってゆく私を置き去りにして、物語の中の語り手は皆あまりにも淡々としているではないか。それに気づいて慌てて冷静さを取り戻した私には、物語が美しいもののように思えたのだった。
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