48 町田康の本

2005.12.08

テースト・オブ・苦虫1

20041017_029 これはエッセイなのか小説なのか。分類に困る、或いは分類などいらない、そういう本なのだろうという結論に至ったのだけれど、やはり私としたら小説の部類に入れてしまいたい。だって、図書館の棚で小説に分類されていたことだし、そう認識しつつ読んだのであるから。けれど、自分の出した答えに自信がないものだから、そもそもエッセイってどんなものだっただろうと辞書まで引いてしまったのは、町田康著『テースト・オブ・苦虫1』(中央公論新社)を読んだゆえ。“思うままを筆にまかせて書いた文章…”なんていう意味であることを確認してみれば、これはまさにエッセイではないかと結論は揺れる。いや、これはエッセイじゃなくて、随筆という言葉を用いた方がしっくりくるのではないか。迷いに迷って、結論はただ曖昧になっただけ。

 さて、内容。40もの話を収録しているため、読み終えた時点で頭に残っているものだけについて記す。「卑屈得。世紀寒」について。駅の券売機の行列に並ぶ男の話である。自分の番がきてからいそいそと路線図を見上げて料金を確認している者たちを見下し、いやあ俺はとっくに料金は確認して小銭を手に握り、自分の番がきたらスマートにスピーディーに切符を買うぜぃ、なんて思っている男内面が描かれている。そこへ割り込みのおばさんが登場し、男の余裕ある行動の流れを乱してしまうのだ。おばさんはさておき、この男、実に気が小さい。誰かさんみたいに。誰かさんっていうのは、あの人に決まっているでしょう?私じゃないって。そう、その人その人。だから私じゃないってば。

 そう、もう別に混み合っていないレジでも、飲み物の販売機でもきっかり小銭を用意しちゃうもの。毎回お茶って決めていないと、販売機の前で格好悪くしばし迷ってしまうでしょう?通りがかりの人が“あの人、きっと優柔不断なんだよ”なんて思わないようにしなくちゃいけないわけ。既に用意していた手の中の小銭は、もちろん汗でぐちょぐちょ。まあ機械相手なら、それはあまり気にする必要はないから気楽でいいのね。でも、万が一のことがあるから、ボタンは強めに押すことを忘れない。で、問題なのが取り出し口。結構コツがいるのよ、流れるようにスムーズに取り出すのは難しいわ。“買えた”という喜びに油断してしまうのかしら。次こそはうまくやるわよ。

 夢中になって、字数がオーバーしてしまった。いけないいけない。A4サイズ1枚分って決めているのに。読み終えて2日経てば、冷静にこの本について書けるんじゃないかと思っていたのに。苦虫についての思いだとか、細かいこだわりが散りばめられた話についてだとか。粋な話、知らない人や知らない場所が苦手な男の話、「やりたいこと」と「やりたくないこと」との見事な一致について、地球へのやさしさの矛盾の話、グローバル化について…などなど、書くことがあり過ぎて語り尽くせない。字数については、私のブログポリシーだから譲れないのだ。これもまた、苦い話の1つ。ということで、おしまい。

4120033341テースト・オブ・苦虫〈1〉
町田 康
中央公論新社 2002-11

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2005.09.06

浄土

20050830_190 まず、先に言っておこう。私は、町田康の作品に何度も挫折している。著者の作り出す言葉の意味が、正直よくわからない。慣れない言葉を読むのに、どうしても時間がかかる…そんな理由から、避けていた。けれど、誰かが面白いというたびに、いつでも気にしていた。タイトルだけなら、全作品言えるほどに。そして、ふと思った。そんなに気になるならば、短い作品から徐々に慣らしてゆけばいいのではないか。もしダメなら、そのときはそのとき。短編集かぁ。それはいいかもしれない。もしかしたら、私でも最後まで読めるかもしれない。そう思って手にしたのは、町田康・著『浄土』(講談社)だった。“THIS IS PUNK!”破天荒なる物語に浸ってみせようではないか。

 ひどいことばかりが続く男の悪足掻きのようなものを描いた「犬死」、“ビバ!カッパ!”という文言に支配された男の向かう先について書かれた「どぶさらえ」、高慢な男の虚飾のはがれる瞬間を待ち望む主人公の話である「あぱぱ踊り」、建て前が存在しないすがすがしくも厄介な街を描いた「本音街」、突如として出現した巨大で恐ろしい生物ギャオスについて書かれた「ギャオスの話」、凶事も吉事も一言で断言し、口にした言葉を目の前にはらりと出してしまう力を持った神の話である「一言主の神」ありふれたオフィスで起きたとんでもなく不気味な事件を描いた「自分の群像」。7編を収録。

 どの物語も一人称の語りで進み、主人公のダメ男ぶりが妙に心地よく馴染んできた。“俺はダメな男だけれど、このダメっぷりもなかなかいいでしょう?案外格好良くないかなぁ。こういうの。あなた、決して嫌いじゃないでしょう?”そう言っているような気がした。それに加えて、著者の独特の言語感覚の斬新さ。不思議と琴線を刺激するのだ。気がつけば、ときめきと感動すら覚えていた。そして、ダメ男と著者が重なりだぶり始めたら、もう私の心はすっかり毒されてしまっていた。あぁ、もう限界だ。屁泥の中に全身を埋めるのもいい。高慢ちきな男の傍で踊ったっていい。ギャオスに踏まれてしまったって…

 いけない。暴走してしまった。冷静沈着の私としたことが。気に入った作品のことを書いて落ち着かなくては。爽快だったのは、「本音街」である。この街では、自分の思うことを正直に話すのがうまく人と交流する術である。そんな街での会話では、普段は心の中にくすぶっているだけであろう言葉が自由に吐き出される。そんなことを言ったら、相手を怒らせてしまうかもしれない。仲がこじれてしまうかもしれない。厄介な揉め事に発展してしまうかもしれない。そういうことを恐れずに、人々は会話する。現実にはあり得ないであろう本音街の世界が、何とも可笑しかった。さりげなく私も、本音を小出しにしてみますか。

4062760800浄土 (講談社文庫 ま 46-5)
町田 康
講談社 2008-06-13

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