イオマンテ―めぐるいのちの贈り物
ぐるりとめぐる命のことを、思って、感じて、涙して。命を喰らわずには生きられないから、もっと思って、感じて、涙して。何しろわたしたちは、命と魂との大きな大きなめぐりの中にいるのだから。生かされて、生き抜いて。だからもっと思って、感じて、涙して。そうしてわきあがるやわらかな気持ちは、ぐるりとめぐって届いてゆく。還ってくる。あなたのもとへ。わたしのもとへ。寮美千子文、小林敏也画『イオマンテ―めぐるいのちの贈り物』(パロル舎)は、アイヌ民族の荘厳な儀式であるイオマンテを題材に、命の重さや尊さを痛いほどに感じさせる物語である。そして、肉ばかりではなく、魚も野菜も米もすべてに命があり、あらゆる物が“めぐるいのちの贈り物”なのだと気づかされる。
イオマンテ。“熊送り”というこの儀式は、つまりは熊の死を意味する。母熊のみを獲物とするアイヌの人々は、冬眠中の熊を狩る際、残された子熊を村に連れ帰り、カムイ(神)の国からの賓客として大切に育てる。そして数年後、大きく育った子熊を、カムイの国にいる母熊のもとに送り返すのだ。そうして、その肉を感謝していただく。何とも残酷に思える儀式だが、よく考えてみれば、わたしたちの多くは、その手を汚さずに多くの肉を喰らっている。それを思えば、アイヌの人々は、わたしたちよりずっと命を重んじて生きているではないか。命の見える肉を喰らうことは、云うまでもなく苦しく悲しいことだ。けれどだからこそ、命をいただくありがたさ、重みを知ってゆくのだろう。
物語は、子熊と共に育ったアイヌの少年の語りと、子熊の語りとが交互に展開し、やがてひとつの大きな物語へと繋がってゆく。少年の目に映る厳しい現実と、子熊によって語られる神話世界と…。少年と子熊との出会い、子熊との日々、イオマンテの儀式、子熊のカムイの国への旅立ち…と物語は進み、やがて老いゆくかつての少年はこんなことを口にする。“ひと粒のあわもひえも、ひと切れの肉も魚も、みんないのち。わたしたちは、いのちをたべている。いのちと魂との、おおきなめぐりのなかにいる。すべては、めぐるいのちのめぐみ”と。この思いこそ、わたしたちが忘れてはならないこと。生きる、ということ。アイヌの人々が伝え続けてきた深い深い智慧だと思うのだった。
![]() | イオマンテ―めぐるいのちの贈り物 (北の大地の物語) 寮 美千子 パロル舎 2005-03 by G-Tools |
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