73 心理学・精神医学関連の本

2005.03.18

食べすぎてしまう女たち

 心の病のひとつである「過食症」について書かれたノンフィクション本であるジェニーン・ロス著『食べすぎてしまう女たち』。なぜ、食べ物と自分の世界に閉じこもり、後悔しながらもついつい食べてしまうのかについて、苦悩の日々と回復への道のりを赤裸々に明かしている体験記である。サブタイトルには、「愛」の依存症とある。過食癖に陥るのはもっぱら女性。痩せる事へのこだわりと、他者からの評価への過敏(対人恐怖)を特徴とする過食癖は、20世紀の後半から先進都市社会の中にはびこり始めた。嗜癖者は皆、「そのままでいていいよ」という他者からのメッセージに飢えている。このメッセージを「承認」といい、ときにそれは「愛」と呼ばれるらしい。だから、「愛についての病」なのである。

 親との関係で傷ついたジェニーン、母親に見捨てられた子どもとしてのジェニーンの痛みが臨床の現場で接する人々の声と重なって聞こえるようにまで変化している。過去の自分を“犠牲者の物語”から、“それでも生き残った英雄の話”に変えるというエンパワメントの過程なのだが…だから、痛みに耐えられる力を持った大人である自分に気づきはじめている、かつてのジェニーン。「愛を食べていた」ジェニーンが、愛そのものに直面できるような勇気を持ったとき、生じたモノ。それは生々しい寂しさ、怒り、不安であった。これらを受け入れることにより、人生の豊かさを楽しむようにまでなった。

 減量で人生が変わる…そんなことを多くの人たちが思ってしまう。雑誌を買えば、後ろの方のページでは“痩せてこんなに幸せになりました”的なものが必ず載っている。スリムになれば、あるいは愛を手に入れれば、やさしさが人生にもたらされると待ち望み続けたあとでは、スリムになることも、愛を手に入れることも、やさしさや美しさを約束してくれるわけではないと悟ることは大きな打撃となる。

 強迫行動は、感情レベルでの絶望の表現である。強迫の対象となる物質、人間、行動などは、私たちがこれなら絶望を追い払ってくれるだろうと信じているものなのである。絶望。自分の世界がバラバラに崩壊し、それをくい止める手段を持っていないのだという気持ちを、いつも体のどこかに抱え込んでいた。誰かのことを深く愛せば、心の痛みは消え去るはずだった。1つ残らず。一緒に寝たり、話したり、食べたりする人が出来たら、痛みは消え去るはずだと思っていたのに…

 強迫行動に溺れたい人などいない。生き延びるために、発狂しないために、自分のためになるからやるのである。食べ物は私たちにとっての愛である。私たちなりの愛されるという方法なのだ。人は去っていっても、食べ物は去らない。食べ物と愛。これまでの人生でどのように、どれだけ愛されたか、または愛されなかったかが、私たちの過食を引き起こすきっかけとなる。けれど、大人となった私たちが回復を望むのなら、遠い昔に下した自己評価、人を愛する能力、愛される意欲に関しての判断を再検討するのは、自分たちの責任となる。この判断が強迫行動と愛についての私たちの思い込みの源泉となっているからである。食べ物やその他の様々なものにしがみついていては、同時に自分自身や他人と真に愛し合うことは不可能である。心にはそんな余裕はないのである。誰もが人と愛し合うことを選び、愛し愛されることを望んでいる。そして、自分を慈しみ、面倒を見てあげる力、自分を幸福にしてあげる力を手にして。

 過食から解放されることはとても大変でムツカシイものである。必要条件として著者がいくつか挙げているので書いておく。自分にやさしさと寛大さと共感を持つようにと。さらに、努力と献身である。辛くなったとき、逃げ出さないことである。けれど、辛いときにどうとどまるかを知っているくらいなら、私たちは過食症にはなるはずがないのである。それでも諦めずに私たちは実践に励まなくてはならないのである。愛が私たちを変えるのだと信じて。

4062564777食べすぎてしまう女たち―「愛」の依存症 (講談社プラスアルファ文庫)
Geneen Roth 斎藤 学
講談社 2000-11

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2005.01.27

大人はわかってくれない

 「ふつうの女の子」にこそ、カウンセリングが役立つと考える臨床心理士の梶原千遠著『大人はわかってくれない』を読んだ。この本は、周りには霧の中の綱渡りくらいなんてことないように見せていて、本当は部屋に戻ると一人で膝を抱えているような思春期の「ふつうの女の子」たちが、カウンセリングルームで悩みをうち明ける様子と著者のアドバイスの詳しい解説付きの構成になっている。

 たわいもないやりとりの中にこそ、彼女たちが自分を探し当てようとあれこれ模索する迷いや苦悩がちりばめていると著者は言う。たわいもない話にできるだけ関心を示して聞くうちに、たわいもない話はたわいもないだけでは終わらず、その子ども固有の心の世界を見せてくれるようになるのだと。

 カウンセリングの中で「私にも同じような経験があるのです」と、個人的な事柄が重なるような言葉が出てきたのには正直驚いた。カウンセリング技法の1つではあるのだが…これはかなりのベテランでなければ、クライアントの信頼関係はあっという間に崩れてしまうだろう。人の人生というものは2つとして同じものがない。私もそうだから、ということはないし、私もそうだからわかる、ということもない。できることは、察することか、丸ごと受け止めることなどであろう。同じじゃないとわからない、というのでは、結局は誰のこともわからないのである。全く同じ人生を歩んでいる人などいないのだから。

 そのために大切なのは、思いやること。必要なのは想像し、共感する力である。そして、思いやり、想像し、共感していることを相手に伝わるように、言葉にしたり、形にしたりする、それは、非常にムツカシイことである。けれど、たいていの大人は「言わなくちゃわからないでしょう」と、そんなニュアンスで子どもを叱る。著者は「言葉は、気持ちが溢れたときに出ればいい」そんな優しさ溢れる言葉が印象的だった。言葉じゃなくても伝わることもあるのだ。

 特に興味を惹かれたのは、「基本的信頼感」について。特に心の痛さを味わうよりラクだと感じる心。これは、生まれたときから培われるはずの「基本的信頼感」の喪失から起こるという。特にリストカットを繰り返す人に多いようである。人を信じていい、生まれてきてよかった、この世界は安心できるところ、思えるようになることによって獲得される本来ならば、ごくふつうに生活していれば身につくものなのであるが、今を生きる私たちの周りでは、様々なことが混じり合い、それぞれの形になる。こうだからこうなる、という条件はないのである。

 自分を見守ってくれる人がいる。自分が自分であることを、見守ってくれている。自分に何かあったら、駆けつけてくれて助けてくれる。自分は自分でいて、人は人でいても、安心していられるように。人のことを信頼できるように。「基本的信頼感」は生まれてから最初に達するべき発達課題であるが、何かをやろうとしたり、手に入れたりするのに、遅いなんてことはない。ただちょっと時間がかかるだけ。その言葉にほんの少し安らぎを噛みしめた。

4334783082大人はわかってくれない (知恵の森文庫)
梶原 千遠
光文社 2004-09-08

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2005.01.13

診療室にきた赤ずきん

 幼いときに心惹かれた物語が、もしかしたら自分の人生を導いてきたかもしれない。人生のおりおりに鍵となったお話があったのかもしれない。人には誰にでも「自分の物語」があるのだと言い切る、大平健著『診療室にきた赤ずきん』。この本を読んで驚くのは、子供の頃に馴染みのあったお伽話や童話が、心の病を治すのに効果をあげてしまうという事実ある。大平先生は、様々な症例の患者に昔の物語を使ってぴたりとうまい具合にオモシロく痛快に導いてくださっている。そして、読み手の心をしっかりつかんで離さない。思わず、全ての言葉にうんうんと納得してしまった。

 様々な物語による治療である物語療法。一番最初に取り上げられている少女の場合は、「ねむりひめ」でスタートする、詳しくは書かないが、見事、彼女の問題は解決した。少女が自分の人生を歩み出す手助けをする。親の出来ることには限りがあり、その限りの地点から、外からやってくる他者の手助けが必要となることを教えてくださった。

 また、人はしばしば自分のことが決められない状況に陥ってしまう。自分で決定した結果、不都合が生じて後悔をすることが怖いのである。また、しばしば人はときに自分が置かれている状況をつかめなくなる。そしてまた、人間だからこそ抱える問題なのであろう。また、親密さを犠牲にしても人との葛藤を避けようとする人が現在は多いらしい。

 精神科医にとっては「原因」追求こそが仕事そのものであると大平先生はおっしゃる。丹念に「原因」を探していると、次第にふっと患者が気づくときが来るのだという。この自分で気づくという点が、医師に教えてもらうのというのでは、まるで違うのだ。一般に、患者は自分の「本当の問題」がわからないから病院へ来る。自分のことを知り過ぎているからこそ、かえって自分にとって一番重要なことが目に見えなくなっているとも考えられるのである。物語とは、精神科医が患者を映し出す<鏡>。そこには、患者の「本当の問題」がきっと映し出されているのだろう。

 そして、何より「自分の物語」を探さなくては…そう思って幼い頃に馴染み深かった物語を探してみる。思い浮かぶのは『やさしいたんぽぽ』と『スーホーの白い馬』くらいである。うーん、どちらも違うような気がする。

4101160813診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界 (新潮文庫)
大平 健
新潮社 2004-08

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2005.01.09

心理療法個人授業

 先生として日本のユング派心理学の第一人者である河合隼雄氏を招き、生徒として南伸坊氏がレポートを書くというスタイルの「心理療法個人授業」。最近の流行であるカウンセリング、心理療法、臨床心理学などについてわかりやすく丁寧に学べる本となっている。流行の波に乗って臨床心理士になるべく大学時代に心理学を学んだ私だが、心理療法の授業には挫折した過去がある。教える人が違うだけで内容がこれほどまでに違うものなのかと、考え深くこの本を読んだ。

 私の通っていた大学は1年次からゼミがあり、ユング派とフロイト派とどちらとも言い難い派に分かれていた。大学に入り立ての身分で自分は何派かなどとは決められず、私はどちらとも言い難い派のゼミに属していた。というか、そこしか合格しなかったのだけれど…。人気のある臨床心理学系のゼミは、10名前後の定員に対して軽く100名以上の希望者が殺到していた。試験はレポートと面接で、4年次以外は毎年行われる。3年次と4年次は同じゼミに所属することが決まっているので、3年次のゼミ選びはかなり慎重さが必要であった。ずっと同じ学年を指導している先生は「昨年度教えた生徒を取る予定ですから、あなたの気が済むのなら面接にいらっしゃい」などと言う始末。何派なのか、以前所属していたゼミはどこかを重視する先生の多さといったら…。自分の教え子がかわいいし、親しい先生の教え子を自分のゼミに入れたいというのが本音なのだろうと今では思う。結局、私は3年間同じ先生のゼミに所属し、青年心理学や家族臨床学を中心に好きなことを気ままに勉強した。

 さて、この本についてだが、私の知っている「心理療法」の授業とは全く違っていた。専門書と一般向けの本が違うように、この本は心理学に興味のある全ての人向けであるように思われる。河合先生は、ユング派でありながらフロイトのことも歴史の流れをふまえて話してくださり、どんな流れが心理療法をつくりあげていったのかをわかりやすく説明している。ヨーロッパに始まった医学からの流れ、アメリカに始まった教育からの流れの2つである。また、最近の考え方についてもしっかりと触れられている。“心の病は、脳内物質のせいだ”説である。「精神分析だの心理療法だので、心の病は治らない。適正な脳内物質こそが、病気を治す」というものである。しかし、もとをたどれば病気になるものをつくったのは、人間関係でもあることは事実。両方のいいところをとって、薬で治るものは薬で、それでも治らないなら心理療法で治せばよいのだと先生はおっしゃる。ちなみに私の担当医は、薬物治療のみであり、脳波検査にてどの脳内物質が過剰に分泌されているかを明確にし、病名を正式に決めたようである。

 また、興味深かったのは「心理療法と恋愛」について書かれているところであった。先生曰く、クライアントとの間に恋愛感情が起こることは、ものすごく多いそうであるのだ。特に男性のセラピストと女性の患者に起こりやすいとか。患者からしたら、自分のことをこんなに思ってくれて、こんなにわかってくれるなんて、恋人と一緒…と思い込んでしまうのが普通。そして、男性の治療者も自分が好かれていると、思いたがる傾向にあるようだと。だんだん治療者が経験を重ねていくうちに恋愛性の転移は起こらなくなるという。けれど、臨床心理学の中核にあるのは「関係性」である。だからこのようなことが起きるのは、仕方がないのだと先生はおっしゃる。この言葉に、ほうほうと思いを巡らせてしまった私であった。

4101410356心理療法個人授業 (新潮文庫)
河合 隼雄
新潮社 2004-08

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