風花
考えるべきことは先送りに。時ばかりを早送りに。そうやって曖昧な状況に安住するわたしがいる。どうしたって日々は過ぎてゆく。そのことに甘えるように。ずっと続いてゆくから。たぶん、この先も。けれど、そのままでいいわけじゃない。そのまま過ぎてゆくはずもないのに、今と向き合うことができない。わたしと向き合うことができない。誰かと向き合うことなどできるはずもない。川上弘美著『風花』(集英社)の主人公・のゆりもまた、そんなふうにして生きる一人だ。夫から離婚をほのめかされてもなお、どうしたらいいのかわからず、考えることから逃げ続ける日々。それでもゆっくりではあるけれど、自分と向き合い、夫と向き合い、その思いを確かにしてゆく様が印象的。
のゆり、33歳。結婚して7年。夫婦間にあるのは、どこか空虚なざわめきばかりだ。会話らしい会話もなく、危うすぎるすれ違いの生活。そんな時知った夫の浮気。けれど、それを知ったところで言葉の出ない、のゆり。自分とも、夫とも、今置かれている状況とも、なかなか向き合えずにいる。そんな彼女の曖昧な態度は、何となく日々を生きてしまっている現代人を象徴しているようで、読んでいてぎくりとなる。何も考えずに毎日を生きることなどできないけれど、それでも難なく時は流れてしまうから、のほほんとついその流れに身を委ねてしまうわたしたちみたいなのだ。どこまでも他力本願の狡さが見え隠れするあたりに、のゆりという人物の妙なくらいの人間っぽさを感じたわたしだ。
それでも、のゆりとその夫・卓哉は互いから目を背けずに、少しずつではあるけれど、向き合うようになってゆく。じれったいまでに不器用で、どうかすると振り出しに戻ってしまいそうになる二人の関係性は、現代社会の夫婦というものが、いかに脆く危うい状態にあるのかを考えさせられる。共に暮らしていようとも、近しいようで遠い“夫婦”というものについて、身を以て知らないわたしには、計り知れない部分がたくさんたくさんあるに違いない。けれど、夫婦というものがよくわからないからこそ、主人公・のゆりの思いに寄り添うわたしは、彼女のゆっくりとした人としての成長が、心地よかったのだった。時はめぐり、わたしもめぐる。そうして、彼女の決意を胸にしまう。
![]() | 風花 川上 弘美 集英社 2008-04-02 by G-Tools |
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