33 嶽本野ばらの本

2008.12.15

おろち olochi, super remix ver.

20081211_001 人がたとえ何者かによって動かされている単なる駒に過ぎないとしても、生まれ落ちた瞬間からいつ喜びいつ悲しみいつ嘆くかを定められているとしても、わたしはそれでも一人の人間として、この運命を翻弄されるように生きたいと思う。その翻弄を、その一喜一憂をことごとく楽しむように笑い、大声で泣こうと思う。無為な時間が過ぎ去ろうとも、もがき足掻き続ける。それこそが愚かなる人間たる生き物であり、それこそが人間として生まれたさだめであるように思うから。嶽本野ばら著『おろち olochi, super remix ver.』(小学館)は、楳図かずお氏の不朽の名作『おろち』から、第一話「姉妹」第九話「血」及び、映画『おろち』の脚本の設定を原案に創作された新たな“おろち”の物語である。

 物語はある嵐の晩、大富豪である門前家に一人の少女が訪れるところからはじまる。少女の名は“おろち”。ある能力を使ってするりと入り込んできたおろち。この門前家には、一草(かずさ)と理沙というとても美しい姉妹がいた。世間から隔離されて双子のように育てられてきた姉妹だったが、やがて成長するにしたがって門前家に代々伝わる血筋に関する秘密を知った二人の間には溝が深まってゆく。門前家の執事である西条の語りによって展開されるこの悲劇的な物語は、おろちに向けて懺悔のように綴られ、人間の心の奥底に潜む暗い情念や悲しみ、怒り、そして多くの死について疑問を投げかける。そしておろちよ、永久の時を生きる者よ。最も罪深かったのは一体、誰だったのか…と問うている。

 門前家に代々伝わる血筋に関する秘密。それは、姉妹の絆をあまりにも簡単に引き裂くようなものである。あまりにも美しく生まれたがゆえに引き継ぐ運命。それを見守り続ける執事であり、医師でもある西条。彼が語り手になることによって、その誰よりも狂おしい愛を感じられる。いびつながら執念とも言えるほどの愛情を。家庭を顧みなかった父の跡を継いで門前家のことを託される運命を受け入れ、生涯を門前家に捧げる西条。その愚かなまでの愛情のそそぎ方は、人としたら許されない極限のものと言えよう。けれど、彼について誰がその罪深さを責められよう。おろちに語りかけるその切実な声は、もはや終焉の時を迎えようとしている。そして、歴史は繰り返される。過ちは繰り返される。

 そう、わたしたちの日々は繰り返しだ。その繰り返しこそが、人の生きる道でもある。そうして、その繰り返しとこの悲しき物語を思うとき、ふと自分の生き方を省みさせられるのだ。わたしたちの日々を司るものがあるとしたなら、その何ものかによって単に生を翻弄されているだけだとしたらどうだろう…と。こうしてこの本を手にしたことも、言葉を紡ぐこともすべてが自分の意志に反して、もう既に定められていたとしたならば…と。そう思うと、何だかすべてが虚しい。虚しいながらに、それでも生きてやろうじゃないかと思わされる。生まれ落ちた瞬間からそのすべてを定められているとしても、わたしはそれでも一人の人間として、今日もまた愚かにももがき、足掻き続けようと思うのだ。

4093862346おろち―olochi,super remix ver.
嶽本 野ばら
小学館 2008-09

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2008.01.26

幻想小品集

20070126_44003 きらめき逝くその刹那に魅せられるように、何かにすっと心奪われる。ただ単に惹かれるのではない。心の奥底から惹かれる、のである。全身全霊で。わたし、まるごと、全部で。それはまさに、命懸けでもある。周囲がどう思おうが、当人にとっては。そして、きらめきの刹那だからこそ、狂おしいほどに愛おしい。嶽本野ばら著『幻想小品集』(角川書店)は、そんな野ばら節をあちらこちらに散りばめた、短編集である。ゴシック・ロマンスと銘打たれているだけあって、その世界観は耽美でどこか痛々しく、ときに胸が張り裂けそうにさえなってくる。愛とはこんなにも痛く、孤独なものなのか。読み手であるわたしは、ただ物語に酔いしれるばかりなのだった。

 収録されている7つの短編は、睡眠導入剤に魅せられて、ある光景が頭から離れない作家の姿を描く「Sleeping Pill」、 嗜眠性脳炎という通称眠り病の研究に魅せられた主人公を描く「Somnolency」、ゴシックに目覚めて自分を解放してゆく「Double Dare」、ピアッシングによって自分を解放してゆく「Pierce」、真珠に魅せられた学者の語りである「Pearl Parable」、悪魔を信仰することで自分を支える少女を描く「Religion」、チョコホリックに娘を仕立て上げる父親を描く「Chocolate Cantata」。いずれの作品にも感じられる、ある種の孤高さに強く惹かれた。きっとそれは、大なり小なり誰もが抱え得る闇の部分を、デフォルメして描いているからなのだろう。

 人には、どうしたって他者とは相容れない部分がある。それを孤独と呼んで鬱ぎ込むか、果敢にも孤高の人となるかは、自分次第である。物語の中では、相容れないことを敢えて肯定し、迷える孤高の魂を救おうとしているのが特徴的だといえる(実際に救われるかどうかは別として)。そして、読み手であるわたしたち(つまり君)に対して、どこまでも誠実であろうとするがゆえの苦悩なるものを感じずにはいられない。だから痛い。ひどく痛い。つうんと胸に痛みがはしる。そうして、この世界が醜悪なことにも気づかされてしまうのだ。耽美な世界を目の前にしながらも、そう感じてしまうのは、あまりにもくらくらと酔いしれたからだろう。狂おしく、愛おしく。

4048738135幻想小品集
嶽本 野ばら
角川書店 2007-12

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2006.08.07

ハピネス

20060806_44043 今日という日は、わたしにとって切実な存在だ。長い遠回りをして、やっと見つけた救いとの出会いの、きっかけとなった日であるから。そこには、今なお疼かせる苦しさや悲しみ、いつまでも癒えることなく抱えなければならない深く根ざす絶望がある。それでも、今日という日を迎えるたびにわたしは思う。これでよかったのだ、と。嶽本野ばら著『ハピネス』(小学館)は、そんなわたしの心情をすべて見透かすように、ただ目の前にあった。そして、この物語の世界へとわたしをぐいぐい惹きつけ、少しも離さなかった。はじまりから、おしまいまで。そして、わたしにとっての大事な日に相応しい、勿体ないくらいに相応しすぎる物語だと。もしや、この物語はわたしのためにある…?なんて勘違いするほどに。

 実は、この作品には何も期待していなかった。というのは、前作『シシリエンヌ』に挫折しているゆえ。それまでのわたしは、新刊が出るたびに待ちわびていたかのように即買いするほどに、野ばら作品の虜だった。けれど、前作は即買いしたものの、最後まで読み終えることができなかったのだ。紡がれている言葉そのものへの不快感と、これまでの作風とのあまりにも異なる物語の世界観。ショックだった。作品に対してではなく、むしろ、それを受け入れられない自分自身に対して。だから、今回の『ハピネス』はなんとなく借り出して、恐る恐る読み始めたのだった。だが、物語ははじまりの軽いタッチから、次第に計算し尽くされたかのようにどんどん密度の濃い文章になってゆく。圧倒された。一気に読まずにはいられなくなった。

 “私ね、後、一週間で死んじゃうの”そう唐突に、さり気なく彼女から聞かされる主人公の<僕>。残された時間はもう僅かしかない。手の施しようもない心臓の病を抱えた少女は、残りの時間すべてを、ロリータとして過ごすべく、Innocent Worldの洋服を纏って<僕>に死を告げたのだった。彼女がずっとロリータに憧れつつも踏み出せずにいることを知っていたものの、彼女がそれほどに重い病気を抱えていることなど、何も知らなかった<僕>。だが、一緒の時間を過ごすうちに、彼女が必死で発作の予兆と向き合う姿を見てしまう。もはや、こっそり隠れて薬を飲むことなどできない状態にまでなっていたのだった。彼女に残された時間。それをいかに悔いなく過ごすか。それが彼女の願いであるばかりか、彼女の両親、主人公の<僕>の願いにもなってゆく。

 あらすじとしたら、よくありがちな病気モノの不幸話。でも、結末まで読み終えると、これはやっぱりタイトル通りの“ハピネス”な話だと思えるのだ。彼女の言葉を借りるとしたら、“ウルトラ・ラッキーな女のコ”と“ウルトラ・ラッキーな男のコ”の短くも深い、恋愛物語なのだ。読みながら思わずこぼれてしまう悲しみの涙は、途中で喜びの涙に変わるし、彼女の願いをどこまでも理解し、叶えてくれた人々の存在は、どこまでも温かい。その温かさは、彼女がこれまで耐えてきた芯の強さ。悔いなく生きようとする強い信念。周囲への気遣いや、慈しみの心ゆえのものなのだろう。こんなにも愛された彼女の、描かれなかったありふれた日常を思って、ウルトラ・ラッキー&ウルトラ・ハッピーに生きたくなった。この命が果てるまで。

4093861684ハピネス
嶽本 野ばら
小学館 2006-07-14

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2005.07.06

下妻物語・完

20050706_014 茨城県の下妻に引っ越してきたロリータ少女・桃子と、絶滅寸前のヤンキー少女・イチゴが出会い、2人が無二の親友になるまでの仁義(この言葉は結構好きである)と友情と笑いに満ちた物語である、嶽本野ばら・著『下妻物語』(小学館文庫)。映画化されたゆえ、多くの人が知ることになったこの本のことが、野ばらちゃんファンの乙女を名乗る私は心から好きだと言えなかった。けれど、新刊が出れば気になる訳で、Webでも読むことができた「きらら」掲載時から注目していた訳で…続編にして完結編である、『下妻物語・完』(小学館)を読んでみることにした。今回は、少々ミステリー仕立てになっている。

 ヤンキー少女・イチゴの純粋さや、バカ正直さもよいのだけれど、性格が生意気にねじ曲がり、イチゴ曰く根性が腐っているロリータ少女・桃子がいい。世の中を、人をも馬鹿にして皮肉る姿勢が、妙に心地よく、独自の強い信念を感じさせる。“女のコは意地が悪ければ悪い程、素敵である”という持論を持ち、ロココの精神を貫く生き方。人生の苦しさを軽んじて、刹那の快楽に溺れること。可愛いと酷い、美しさと醜さ、気品と野蛮、荘厳と軽薄、情熱と怠惰、純真と狡猾、潔さと執念…それらの相反するものを破綻なく同居させられること。乙女としたら、憧れを抱かずにはいられない。憧れまでいかなくても、こういう孤高な人を、私は素敵だと思う。

 多くの人が、相反するものに板挟みになり、どちらかを選択するかを決めざるをえない状況にあるというのに、桃子はそういうものには全く囚われない。桃子のいる出鱈目な不思議の国には、矛盾がなく、気紛れな自分自身の心が唯一のルール。道徳や倫理の圏外に暮らしている。そんな生き方が通用するのは、やはり物語の中だけなのだろう。いや、物語の中でも、充分に変わり者扱いで、呆れられている。けれど、そんな桃子を温かく見守り、全てを肯定してくれている存在がいるのだ。それは、祖母。“あんたの器は大きくないかもしれないけれど綺麗だ”など、名言を残している。こういう人が近くにいたら、どんなに心強いだろう。

 そして、他にもいい言葉を残している人物がいる。イチゴ(私のタイプじゃないわと言ってる桃子も)が惚れ込んでしまう元ヤンの警備員の男性である。“なれると信じる自分と、なれると信じてくれるダチがいれば、才能とか運とか関係ねーんだよ”そう、今後の選択に迷っている桃子に言うのだ。その前後は、あまりにも脳味噌が詰まっていない口ぶりだったり、キザだったりするのだが、実に救われることを言う。あぁ、先ずは自分で自分を信じることが大切だったのねと、頷いてしまう私。すぐに自分を卑下してしまう自分自身を省みるのだった。なあなあ自分よ、どんな本を読んでも、いつも省みてる割には進歩がないよな。

4093861536下妻物語・完―ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件
嶽本 野ばら
小学館 2005-07

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2005.02.08

ミシン2/カサコ

 『ミシン』のその後を描いた嶽本野ばら著『ミシン2/カサコ』。前作を読んだ人にとっては、「えっ?」「はっ?」「あの結末だったのに…」と文句が出てしまう作品であるものの、主人公の天然を通りこした常識はずれのボケっぷりと心に闇を抱えた人間の心模様とが、あまりにもさらりと描かれている不思議な作品。トーンの違う2つのものが一緒にたっぷりと詰まったこの本。好きか嫌いか著者のファンでも分かれてしまうのでは…と思われる程、型破りなものである。

 様々な話題性を持ち合わせて一気に人気を獲得し始めたミシンがボーカルを担当するバンド。その新しいメンバーとなった少女は、ミシンにより“コウモリ・カサコ”と命名される。ミシンと暮らし始めて、これまでの目立たないパンクとかけ離れた生活が一変する。両親や周囲の反対を無視して、バンドのギターリスト・カサコとして(でもほとんど弾くことが出来ないのだが…)。一方、前のギターリストである竜之介の死を引きずったまま、壊れてゆくミシン。

 「壊れていることを忘れたくて、痛み、忘れたくて、傷の上から傷を付けていくんだ。私、何してるんだろう。何で生きてるんだろうっていう疑問が足許から這い上がってきて、私を支配しちゃうの。でも、ステージでオーディエンスを前にして歌っている時だけは、そんな、不安……のようなものから逃れられる」と。病院でカサコに「死に損なったから、歌わなきゃ、仕方ないよね」と囁いたミシンは、ステージの上で歌うことでしか、竜之介の死に拠ってもたらされた喪失感や、生きることの苦しさから、逃れることが出来ないのだった。過激なステージアクト、絶叫、咆哮(ほうこう)は、自分自身を完全に破壊してしまいたいという、死への衝動から派生しているのだった。そして、新たな出来事がミシンをさらに追い詰める。

 ライヴで救護室に運ばれたのは約20名。そのうち救急車で病院に搬送されたのが2名。そして翌日、1名が死に至ってしまう。シンナー中毒の18歳の少女が酸欠に拠る窒息死。しかも、その子はミシンがよく知る熱狂的なファンの一人であったのだった。直接の原因はライヴではないが、予定されていたライヴは中止となる。

 誰よりもきっと脆くて、人の気持ちに敏感で、それが悲しいものであっても各々が持つ想いに、同調してしまうミシン。どんな人に対しても悪態を吐き、意地悪く振る舞うのは、人々が貴方に向ける期待や憧れ、そんなものに真正面から対峙すれば、抱えきれない重圧で息が出来なくなってしまうからだったのだと気づくカサコ。人の痛みを自分の痛みとして、受け入れてしまう。そして、感受性が鋭過ぎるのだった。だから、生きていく為に他者との関わりを最初から拒否するしか術を見つけられなかった。自分で自分を切り付け続けることのほうが、誰かに傷付けられるよりもマシだった。皆、人は移り気であることを知っている。でも、ミシンに忘れたり、仕方ないからと妥協することを求めるのは無理。一旦、なついてしまうと、なつかれてしまうと何時までもその人のことを大切に想い続ける。それがミシン。真っ直ぐにしか進めないのがミシンなのだった。

4093861412ミシン2 カサコ
嶽本 野ばら
小学館 2004-07-01

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2005.02.07

ミシン

 自らが乙女として生きる為に全てを犠牲にすることができる少女。流行りに左右されることなく、古いものにしか興味のない性癖。そして、エスという資質を持っている。少女が心奪われるのは同性ばかりで、エスを生涯貫いた吉屋信子の「花物語」の世界に強く惹かれている。そして、美しく儚くロマンチシズム溢れるエスの交流がかわせそうな人を求めている。そんな少女が求めていた人物そのものの美少女ボーカリストに恋い焦がれる激情を描いたのが、嶽本野ばら・著『ミシン』(小学館)である。短い小説ながら、とても深い印象を残す。

 主人公は自らのことをチビでデブで、性格が暗く、まるきりいいところがないと思っている。けれど、貴方を見つけてしまった。パンクバンドのボーカリストであるミシン。彼女こそ理想のエスの相手であった。透き通るような白い肌、少し吊り上がった大きな眼、高い鼻、薄い唇を持ったミシンは、清楚で気品のある顔立ちをしているのに、髪を思いきり立ち上げ、黒いリップを塗り、はすっぱなイメージを作り上げているのであった。ミシンはMILKの洋服を好んでいることを知り、お店に通うようになる主人公。いつの間にか、お店の人に顔を覚えられ、「ミシンさんが先程買われました」というものを買いまくる主人公。すっかり、ミシンとMILKの虜になっていく。

 そして、いよいよミシンに近づける日が来るのだった。全身をMILKで纏いライヴに行き、ミシンが、ギターを担当している竜之介と一緒に暮らしており、恋仲であることは半ば公然の秘密であることを知ることとなる。ライヴ後、会場から出てきたミシンは何と主人公とまるきり同じ服装をしていた。愛想のないミシンは俯いたままハイヤーに乗ってから、ちらりとその存在に気づき、窓を開けてにっこりと大声で主人公に向かって言う。「貴方、私と全部、お揃いね。素敵!」と。ミシンがファンに話しかけることも、笑顔を見せたことも初めてのことだった。

 そんな出来事から、主人公は登校前と下校後に参拝をするようになる。願うことは「ミシンと私が強く結ばれますように。2人がエスの関係になれますように。竜之介が死にますように」であった。偶然にも竜之介はあっけなく交通事故で亡くなり、新しいギターメンバーを一般から公募するとの発表がある。ギターの弾けない主人公は、玩具のようなギターで練習するも全く上達せず、ストリートミュージシャンのデモテープと嘘の履歴書で応募し、面接までこぎつけ、再びミシンと会うこととなる。「あの時もお揃いだったけど、今日もお揃いね」とにっこりするミシン。そこで、本当はギターが弾けないことがばれてしまうのだが、ミシンは「新しいギター、このコにするわ」と言い、「私、全然弾けもしないのに、この面接までやってきた貴方の出鱈目さが、好きよ」と囁き、素早く強く抱きしめた。

 バンドのメンバーとなり、ミシンと親しくなった主人公は、竜之介との関係について知ることとなる。「私は竜之介のギターでないと、歌えない」、「竜之介は永遠になったのよ。不変の存在になったのよ。私も永遠の世界の住人になりたい」と言うミシン。そして、竜之介の追悼ライヴで最後の曲が終わったら、ステージ上で、ギターで後頭部を思いきり殴って欲しいと主人公に願うのだった。きっちりと死ぬまで…

 ここで終わって欲しい気持ちがあるのだけれど、続編アリ。

4093860629ミシン
嶽本 野ばら
小学館 2000-10

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2005.02.06

世界の終わりという名の雑貨店

 “乙女のカリスマが懸命につむいだ魂の恋物語”と帯に書かれた嶽本野ばら著「ミシン」に収録されている映画化もされた『世界の終わりという名の雑貨店』は、何度読んでも泣きそうになる。この世があまりにも汚れているような、絶望が渦を巻いて溢れているような、生きていることがもどかしいような…そんな気持ちが湧き上がってくる。自分の仕事が嫌になり世の中に背を向けた主人公の男性と世界の隅にしか存在する権利を持たなかった少女の物語である。

 ビルのオーナーに勧められるままに「世界の終わり」という名の雑貨店を始めた主人公の男性。雑貨店を始めて1年くらいした頃、全身をVivienne Westwoodでまとった少女が毎日のようにお店に来るようになる。人を寄せ付けないような雰囲気の店に、少女はしっくり合っていた。そして、少女は50円の紙石鹸を毎回1枚買ってゆく。平日は殆ど誰も来ない店にとって、少女の存在はいつの間にか必要なもの、あるべきものとなっていた。開店時間から閉店時間まで、少女がお店にいることも多くなっていった。お店の中で寝てしまったときは、申し訳ないのか2枚の紙石鹸を買っていくのだった。少女の顔には、右半分の頬から首筋にかけて大きな黒い痣があり、少女の顔が整っていれば整っている程、抜けるような白い肌であればある程、痣は際立って映るのだった。

 けれど、ビルのオーナーの死に伴い、主人公は立ち退きを命じられることとなってしまう。自分と少女は同じもの、同じ魂を持つものだと確信した主人公の男性の口から少女に向けて発せられた言葉は“逃避行”であった。高貴な魂を有するが故に、卑屈になるしか術を持たなかった少女。全てをずっと諦めていた少女は、生まれて初めて満たされた思いを抱くのだった。結ばれるべくして結ばれた2つの魂。切な過ぎる2人の行方。ほんの少しのほんのわずかなぬくもりや希望の光を、果たして誰が奪えるというのだろうか。

 この小説の結末はあまりにも悲しく重たいものである。自分を罰することでしか生きる意味を見出せなかった少女。同じ魂を持ったとしても救いきれぬその孤独を、主人公はどうすればよかったのだろうか…。本当に大切なことを人はなぜ喪失の後のにしか気付けないのだろう。少女がそれ程までに追い詰められ、苦痛を味わう必要があったのだろうか。主人公は少女の傍にどうしてもっといようとしなかったのか。痛い。あまりにも痛い。しかし、一瞬でも2つの魂が重なったことは奇跡である。少女よりも長く生きている私はまだ出会っていないのだから。出会っていたとしたら、その存在に気付けなかったのだから。少女はある意味、幸せだったとも考えることが出来る。そう、幸せだ。この結末は、もしかしたら少女の望んだとおりだったのかもしれないのだ。

4093860629ミシン
嶽本 野ばら
小学館 2000-10

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2004.12.25

カルプス・アルピス

 若くして亡くなった画家・田仲容子さんの絵からイメージした物語が紡がれている嶽本野ばら著「カルプス・アルピス」。6つの章からなる物語は繊細で美しい。

 友人に頼まれて泳げないのにプールの監視員を代行することになる優柔不断な「僕」は、リハビリのために泳ぎに来る女性と出逢う。記憶をなくした彼女は、もう決して戻ってこない喪失したもののために、取り戻せるものは取り戻したいと語る。

 「僕」の友人は叔父の突然の事故死によって、死についての意味を考える。そして気づく。そこには意味がないことを。死はある意味、平等に事故なのだから。でも意味がない死に遺された者たちは納得できない。そう語る友人の話に、記憶を失い、父親の死へのショックと、その死が自分が原因であることを知ってしまった2つの動揺を抱えたままの彼女を思う。彼女は過去の自分の日記から事実を知り、ひどくショックを受けていた。

 そんなとき、彼女が自殺未遂したという連絡が彼女の妹から来る。奇跡的に命を取り留めた彼女は、「私はこの世界に必要のない存在なのに」とつぶやく。「僕には貴方が必要なのです…」と彼女に丁寧に誠実に正直に暖かな告白をする。こんなにも自分を必要としてくれる人がいることに彼女はきっと感動したことだろう。けれど、幸か不幸か彼女は自殺未遂後、記憶が戻っていた。そして、彼女は自分の罪深さや人を利用したことを悔いて倒れ込んだ。それと同時に「僕」はパニックに陥り、目覚めたときには「僕」の方が記憶を失っていた。

 記憶を一時的に失った「僕」に優しくしてくれる彼女と友人。このまま思い出さなければよいのに…と思ってしまう揺れる彼女の気持ち。よく通っていたというプールに通ってみたり…

 ある日、「僕」は夢の中で「彼女は今、魂を喪失している」という声を聞き、記憶を取り戻すのだった。そして、彼女と再びプールで彼女と会う約束をするのだが、待てど彼女は姿を見せない。自宅へ連絡を取ると、彼女の妹が「姉は今日、貴方と会うといって午前中に家を出たんです」と。彼女はこの日、自主的に全ての人の前から姿を消したのだった。

 肉体が滅んでも、命が絶たれても、生まれた魂は永遠にこの世界を生きていく。一番重要で大切に扱わなければならないのは、自分の魂であり、愛する者の魂。その言葉が心から離れない。そして、不器用な「僕」がいとおしい。「僕」の抱える秘密、彼女の抱える闇、暖かな田仲容子さんの絵にぴったりの物語である。

4093861269カルプス・アルピス
嶽本 野ばら
小学館 2003-10

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2004.12.24

鱗姫

 友達も一人も作らずに孤独の闇に生きる、いつでも日傘をさす少女が主人公。密やかで深刻な事情を抱えて、くすみ、シミ、小皺、ソバカスなどお肌のトラブル、老化を恐れてのことだった。屋外での体育は全て見学。全ては、きめの細かい透明度のあるつややかな白く光り輝く肌を守るために…。ここまでは、いつもの乙女ののカリスマ・嶽本野ばら著『鱗姫』。そう思えるのだけれど、そんな孤独な(というか孤独でも平気な)少女は、ある時から見知らぬ刑事を名乗る男につけまわされる日々に悩ませることになる。

 小さい頃から、いつも同じものを見て、同じものに触れ、同じことを感じてきた兄と妹の関係。美意識を持って生きること、それは世間との軋轢に悩まされ、人を孤独に追いやるものであった。けれど、少女は兄にも誰にも話せない暗い闇を抱えながら生きていた。

 その秘密は11歳の頃にさかのぼる。最初の生理が始まった後からである。それは彼女の家に代々伝わる呪わしい遺伝病であった。羨ましいくらいに美を保っている叔母もこの病気と闘っていた。綺麗な叔母は少女が病を抱えて生きていることを見抜き、鱗病について説明し、治療を薦めてくれた。人魚姫みたいに美しいのではなく、想像はなまめかしさを感じてしまう。

 鱗はぬらりとした光沢。皮膚とは全く異なる固い質感。あまりにもグロテスクであり、罪の印のように少女は黙っていたのだった。幸い、それは誰にも目撃されない場所にあり、苦痛も伴うことだった。だから、口をつぐめば済むことであった。けれど、叔母の話によると、7歳になっても発病しなければ発症いなければ大丈夫とされてきた。少女の姉は、4歳で発症し病気に見せかけて父の手によって殺されてしまった。

 鱗病は感染しないが、性交渉をもったとき、感染してしまうと言う。密かに鱗病を研究している閉鎖病棟にて、重症患者に会うときの言葉が印象的である。「生きる為には希望なんて必要ない。只、ここで朽ち果てるだけ…」と。

 少女を追う刑事は何者なのか、鱗病の治療法はあるのか、叔母の美しさの秘密とは…衝撃のラストである。

 病を抱えることは悲しい。孤独である。けれど、生きてゆける。希望や目標がないとしても。鱗病は、実存しない病気であるが、この物語のように全てをまるごと受け入れて愛してくれる人は果たしているのかしらと、想いを巡らせてしまった。そんな存在を未来を諦めたはずの私なのに。

409408018X鱗姫 (小学館文庫)
嶽本 野ばら
小学館 2003-09

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2004.11.19

ロリヰタ。

 昨日更新したブログ「ハネ」が収録されている嶽本野ばら著「ロリヰタ。」。インタビュー取材のため、スタジオを訪ねた作家の<私>は、モデルの撮影をのぞいて行く。「ロリータファッションで行こう」などという企画で、モデルの君は、ロリータの格好をさせられ、「何かが違うの」と、カメラの前に立とうとしないのだった。ロリータファッションに詳しい<私>は、急きょ、その日だけ<君>のスタイリストとなる。

 <君>との出会いによって、世界が広がった<私>。彼女と同等でいたい…そう思い、旧式の携帯から彼女とおそろいの携帯を買い換える。モデルの仕事の際に泊まるホテルで、夜な夜なトランプやおしゃべりをしていくのだった。

 かつて<私>にも愛する人がいた。僕らを切り離そうとするこの世界から脱出しようとしていた。が、彼女の手を或る時、放してしまった。彼女は亡くなり、僕は犯してはいけない過失を犯した。だから、人を好きになることができない…そう思っていた。孤独という牢獄に放り込まれたのだった。煉獄(れんごく)に生きることを余技なくされた罪深き僕のために、<君>は泣いてくれた。

 そんなささやかな幸せもつかの間。銀座の文壇バーでベテラン作家と喧嘩になり、その作家がしくんだスキャンダル記事が出てしまう。そして、愕然とする事実を知らされる。<君>は、小学4年生の9歳だったのである。

 <君>との連絡はメールで続けていた。「乙女のカリスマ作家、夜の囲い妻はなんと小学生」などという下品な見出し、淫行罪を犯しているとまで書かれてしまう。<私>は、そんなことより、君を好きになってしまっていたことに動揺を覚えた。ロリコンではなく、あくまで偶然、恋してしまった相手が小学生というだけなのであった。

 しばらくの間はマスコミ騒ぎが続き、<君>と会えない日々が続く。あるとき、<君>からのメールに応答する。わざわざ彼女と会うために20万ものホテルの部屋をとってまでも。作家なのに言葉が伝わらないことに落胆する僕のために、「言葉なんて、思ったことの全部が伝わらなくて当然なんだよ」と。何を伝えるかが問題なのではない。伝える内容よりも、伝えようとすることが重要なのだ。拙い言葉でもいい。誤解を受ける言葉でもいい、伝えようとする必死さこそが想いを運んでくれるのである。

4104660019ロリヰタ。
嶽本 野ばら
新潮社 2004-01-30

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