35 田辺聖子の本

2005.02.21

ジョゼと虎と魚たち

 ずっと観たかった田辺聖子原作の映画『ジョゼと虎と魚たち』をDVDにて本日やっと鑑賞した(遅すぎですが…)。2回も。昭和時代に描かれた原作を平成バージョンにしてあるような…でも建物&セットは思いっきり昭和のままだよなぁなどと思いつつ、池脇千鶴のジョゼはかなりしっくりはまっているように見えるけれど幼過ぎではないかとも思いつつ、最後の方の顔があまりに変わっていた(一気に老けていた)ので、妙に納得して楽しんだ。くるりの音楽がとても合っていていい。じんわりと胸にずーんとくる映画であった。

 映画は映画でよかったし、小説は小説でよかったのだけれど、私の思い描いていた「ジョゼと虎と魚たち」のイメージとは少し異なっていた気がする。唯一全く同じだったのは、ジョゼが恒夫に「アタイ、好きや。あんたも、あんたのすることも好きや」という名ゼリフぐらいだろう。あとは動物園で「一番怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎を見たい、と思うてた。もし出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうがない、思うてたんや」という内容のせつない言葉がかなり忠実に原作の色を残していた。

 足が悪いジョゼは映画では乳母車に乗っており、年老いた祖母に散歩に連れて行ってもらっている。祖母曰く「コワレモノ」であるジョゼことクミコは、世間体の悪いみっともない存在として描かれ、人があまりいない時間帯にしか外へは出られない。原作では初めから車椅子に乗っている25歳の女性なのだが…。この「コワレモノ」という言葉は映画の中で一番心にグサリとくるものであった。ジョゼが人間としての扱いを受けていないような、祖母にとってはお荷物でしかないような悲しく閉ざされたジョゼの境遇を思わせるものだった。「コワレモノにはコワレモノの領分がある」というようなことまで言われ、ふとしたきっかけでジョゼと出会った恒夫との関係も終わらせてしまう。原作では恒夫が自分のことにあけくれた日々のせいでジョゼとの交流がしばらく途絶えたことになっている。

 また、ジョゼはかなりの読書家であり、サガンの小説から「ジョゼ」という名をもらっている。そして、その本は全て祖母が捨てられていたものを拾ってきた設定に映画ではなっていたのだが、原作では市役所からサービスを受けていて無料で貸し出されて読んでいることになっている。映画では、ジョゼの祖母は何の保護も受けていなかった。また、恒夫をめぐって女同士で殴り合うシーンも不自然な気がしたものの、足が悪いことを気を惹くための「武器」として考えるところは、妙に人間っぽい気がした。これは昼ドラか?とも思えるけれど…。女というものは時には様々なものを自分の武器にするのだから。他にも「あれ?」と思うところが多々ある。そこまでして身障者に対する偏見があることを描きたかったのだろうかと。それとも偏見に屈しないジョゼの心の強さを描きたかったのだろうか。きっと、どっちとも思えるようになっているのだろう。

 そして、結末についてもかなり原作と映画とでは異なっている。原作のラストは、幸福な幻想的な雰囲気を漂わせていて静かな余韻が残る(さすが田辺聖子!的な)のだが、映画版は泣けるつくりになっている(こちらもまたよし)。あまりにもあっさりとした別れ。その理由は明らかにされないまま、次の相手の元へかけ寄るちゃっかりした恒夫。そう見せておきながら、実は恒夫は……状態なのである。これが多分メインディッシュかと思わず思ってしまった。なので、書かないことにしておこうと思う。このシーンひとつであのあまりにもあっさりとした別れが余計せつなく感じさせる。そしてジョゼは、逞しく30キロもスピードの出る電動の車椅子でビュンビュン風をきって買い物をし、凛とした表情で料理を作り、前しか見ていない様子に見えてしまう。男性はきっと恒夫に感情移入してしまうから、「女って強いよなぁ」的視点でジョゼを見てしまうかもしれない。けれど、女の私はその逞しく見える背中を見て、心の中では泣いているジョゼを想像してしまう。表面には見せなくても。

4041314186ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)
田辺 聖子
角川書店 1987-01

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