23 桜庭一樹の本

2008.03.06

ブルースカイ

20070109_020 時空を超越した果てで、あなたとわたしがつながる。例えば、女であるという概念で。例えば、男であるという概念で。或いは、ヒトであるという大きな括りでかもしれない。そうして、わたしたちがいつか見上げた空はひどく似ていて、まるきり同じかと見まがうほどに美しく目の前に在ったりするのだ。そんな夢みたいな儚いつながりを思うほどに、桜庭一樹著『ブルースカイ』(ハヤカワ文庫JA)は、脆くもしかと人と人とを結びつける物語だった。西暦1627年の魔女狩りの中にあるドイツ、2022年の“少女”が絶滅したシンガポール、2007年の日本。それぞれの時代を超えて、一人の少女が異世界へと舞い降りるのだ。その存在のあまりの淡さと、どうかすると崩れ落ちそうになるのをじっと見守りながら、切なくも美しいラストまで、引き込まれて読んだ。

 三部構成からなるいずれの物語も、“少女”に纏わる物語だ。それぞれの時代の中で少女というものの概念が変化しているのがとても興味深い。中でも、第一部の10歳の少女マリーの物語では、子どもと大人の境界線上でぐらりと揺れるマリーの心境が語られており、1627年という時代の過酷さ(過酷と思うこと自体が時代の流れか)を思い知る。“ある日とつぜん、大人になるのよ”“途中はないわ。とつぜんなるの。そのときがきたらあなたにもわかるはずよ”そういう言葉に揺らぐことのできるマリーは、ある意味少女としての素質を備えていたのだろう。中世に少女という存在はなかった…という事実に今さらながら愕然となるのは、わたしが甘ちゃんだからなのかもしれない。

 この物語の核となるのは、一番長くて熱のこもっている第一部でも、少女論や青年論が展開される第二部でもなく、一番短い第三部のように感じられる。主人公の女子高生・ソラのあまりの存在の儚さに、ただただため息がもれてしまうのである。例えば、世界とわたしをつなぐもの。例えば、誰かとわたしをつなぐもの。そういう曖昧模糊としたつながりを思うとき、少女のもがきあがく姿は、あまりにも悲痛だ。今、こうして、ここに居る、ということへの希薄さを、どうしても認めざるを得ないのは、物語の過酷さゆえのものなのかもしれないが、それでもわたしは思ってしまう。この世の中は儚い。そこに生きる人もまたしかり。けれど、だからこそ、美しく愛おしいと。

4150308209ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)
桜庭 一樹
早川書房 2005-10-07

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←励みになりますので、宜しければクリックお願い致します。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.29

赤×ピンク

20070227_017 一瞬のきらめきの刹那に生きる、少女たちの危うさにゆられながら、かつて思い悩んだいくつもの感情が疼き出す。たとえば誰かに愛されたくて、たとえば自分が何者かわからなくて、たとえば自分の居場所が見つからなくて…けれど、そのすべはいつまでもわからなくて、日々を悶々と過ごしながらも生きざるを得なくて。そんなことを思わせた、桜庭一樹著『赤×ピンク』(角川文庫)は、脆く崩れ落ちそうになりながらも、懸命に生きる少女たちの切実なる思いを、掬い取るようにして描いている。今いる場所は居心地が悪いけれど、そこでしか生きられないある種の呪縛に囚われた少女たちは、消費されるだけの日々の中で、繰り返しの日々や虚しさに耐え続ける。

 物語は、「“まゆ十四歳”の死体」「ミーコ、みんなのおもちゃ」「おかえりなさい、皐月」の三部構成からなる。それぞれの主人公まゆ、ミーコ、皐月は、廃校になった学校で行われている非合法のガールファイトのファイターたちである。自分で自分がよくわからない…そんな浮遊感の中に漂うようにして、非現実的な場所で生きることを選んでいる。それは、ある意味では逃避と呼ぶのかも知れないが、彼女たちにとっての“今を生きる”最善の策のように感じられる。ファイトで身体に受ける痛みは、わかりやすいかたちのあがきの結果であり、幼い頃から育ってしまった心の痛みをやわらげるものでもある。そして、いつか高く跳ぶための確かな一歩ともなるのだろう。

 「“まゆ十四歳”の死体」の中で、まゆがノートに言葉を書き留める場面がある。“生きていくと忘れてしまうから”そんな理由から人からのアドバイスなどを書きためているノートがあるのだ。何だかわたしはここに彼女の孤独をひしひしと感じてしまった。彼女がどういう人生を歩んできたのか、彼女がどういう日々を生きているのか、そういう彼女に纏わるあらゆることに心奪われた。危うさの中にいながらも、ひたむきな姿勢というものに、ぐぐっときてしまったのである。ミーコの生き方にしても、皐月の生き方にしてもそれは通ずるものである。そう、彼女たちは皆、ただ閉塞感の中にいるのではなく、懸命に生きようとしている。確かに今を、生きているのだった。

4044281025赤×ピンク―Sakuraba Kazuki Collection (角川文庫 さ 48-1)
桜庭 一樹
角川書店 2008-02

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←励みになりますので、宜しければクリックお願い致します。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.08.26

青年のための読書クラブ

20070811_005 時が流れても変わり得ない、或る“少女”という生き物のかたち。繰り返し、繰り返され、そうして続いてゆくわたしたちの種。たとえば、学校という名の閉ざされた乙女の園で、少女たちは集いその種を広げてゆく。ひそやかに。でも、確かな足跡を残しつつ。桜庭一樹著『青年のための読書クラブ』(新潮社)は、山の手の伝統あるお嬢様学校である聖マリアナ学園が舞台の、異端者ばかりが集う読書倶楽部の物語である。クラブには、名もない女生徒たちによって記録され続けている秘密のクラブ誌があり、そこには学園史上に残るはずの数々の事件が記されていた…。100年にも及ぶ学園の歴史を紐解きながら、少女たちの日々をまぶしく読んだ。

 タイトルにもあるように、この物語での少女たちの精神は極めて青年的である。仲間同士で<ぼく>を称して、甘い女言葉はほとんど使わないのである。そして、女の園という場所に身を置く者にありがちなように、恋愛に憧れつつも現実の異性にはひどく嫌悪している。そして、少女たちの中に意中の擬似王子を見つけたり、いわゆるエスという関係を大切にしたりしているのである。こういう女の園ならではの精神性みたいなものを、わたしはとても好ましく思ってしまう。なにを隠そう、わたし自身長く女子校にいた身。当時は、見事なまでにその雰囲気に呑まれ、周囲の少女たちに感化されたことは言うまでもなく、その精神性は今でもどこかで引きずっている。

 そして、この物語で忘れてならないのは、やはりクラブ誌に綴られている数々の事件が、文学作品に大きく関係している点だろう。「シラノ・ド・ベルジュラック」「マクベス」「緋文字」「紅はこべ」など、作品自体を知らずとも、思わずうっとりと身を漂わせてしまうのだ。もちろん作品を知っていれば、さらにこの物語を楽しむことができるに違いない。聖マリアナ学園に隠された秘密と、その行方に心躍らせながら、文学の深みにはまる展開なのである。時が流れても変わり得ない、或る“少女”という生き物のかたち。繰り返し、繰り返され、そうして続いてゆくわたしたちの種。願わくば、その種がいつまでも途絶えることなく続いてゆきますように。どうか、どうか。

4103049510青年のための読書クラブ
桜庭 一樹
新潮社 2007-06

by G-Tools

にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい。
もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

| | コメント (6) | トラックバック (4)

その他のカテゴリー

01 安房直子の本 | 01 雨宮処凛の本 | 02 池澤夏樹の本 | 03 いしいしんじの本 | 03 石井睦美の本 | 03 絲山秋子の本 | 04 井上荒野の本 | 04 稲葉真弓の本 | 05 岩阪恵子の本 | 06 魚住陽子の本 | 07 江國香織の本 | 08 大島真寿美の本 | 09 小川洋子の本 | 09 長田弘の本 | 10 荻原浩の本 | 11 尾崎翠の本 | 12 恩田陸の本 | 13 角田光代の本 | 13 鹿島田真希の本 | 14 金井美恵子の本 | 14 金原ひとみの本 | 15 川上弘美の本 | 15 川端康成の本 | 16 北村薫の本 | 17 桐野夏生の本 | 18 久坂葉子の本 | 18 倉橋由美子の本 | 19 栗田有起の本 | 20 黒川創の本 | 21 小池昌代の本 | 22 河野多恵子の本 | 23 桜庭一樹の本 | 23 酒井駒子の本 | 24 佐藤亜有子の本 | 24 佐藤友哉の本 | 25 佐野洋子の本 | 26 重松清の本 | 27 澁澤龍彦の本 | 28 島田雅彦の本 | 29 島本理生の本 | 30 清水博子の本 | 31 庄野潤三の本 | 31 朱川湊人の本 | 31 笙野頼子の本 | 32 瀬尾まいこの本 | 33 嶽本野ばらの本 | 34 太宰治の本 | 35 田辺聖子の本 | 35 谷崎潤一郎の本 | 36 多和田葉子の本 | 36 津村記久子の本 | 37 中島たい子の本 | 37 中島京子の本 | 38 中島らもの本 | 39 長野まゆみの本 | 40 中原昌也の本 | 40 夏目漱石の本 | 41 中山可穂の本 | 41 中村文則の本 | 41 楡井亜木子の本 | 42 蜂飼耳の本 | 42 長谷川純子の本 | 43 服部まゆみの本 | 44 平田俊子の本 | 44 東直子の本 | 45 古川日出男の本 | 45 福永武彦の本 | 46 星野智幸の本 | 47 堀江敏幸の本 | 48 前川麻子の本 | 48 町田康の本 | 49 三浦しをんの本 | 50 皆川博子の本 | 51 村上春樹の本 | 52 本谷有希子の本 | 53 森絵都の本 | 54 山田詠美の本 | 54 湯本香樹実の本 | 54 矢川澄子の本 | 55 吉田篤弘の本 | 56 吉本ばななの本 | 57 吉行淳之介の本 | 58 海外作家の本(アメリカ) | 59 海外作家の本(イギリス) | 60 海外作家の本(フランス) | 61 海外作家の本(イタリア) | 62 海外作家の本(ドイツ) | 63 海外作家の本(ロシア) | 64 海外作家の本(その他&分類不可) | 65 新潮クレスト・ブックス | 66 Modern&Classicシリーズ | 67 白水Uブックス | 68 エッセイ・詩・ノンフィクション本 | 69 アート・絵本 | 70 漫画本 | 71 猫の本 | 72 犬の本 | 73 心理学・精神医学関連の本 | 74 その他の本 | ウェブログ・ココログ関連 | 日記・コラム・つぶやき | 書籍・雑誌