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2012.06.25

明日は遠すぎて

20090429_006jpg_effected ときになんとも切なく、ときにコミカルに、ときにほろ苦く、ときに強い意志を持って、心深く響く物語たちがつまった、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著、くぼたのぞみ訳『明日は遠すぎて』(河出書房新社)。O・ヘンリー賞、オレンジ賞などを受賞した1977年生まれのナイジェリア出身のまだ若い作家の邦訳三冊目の本書は、2006年から2010年までに発表された九作品を収録した日本オリジナルの短編集である。ナイジェリアとアメリカを往復しながら旺盛に活動しているということもあり、それぞれの作品の世界に奥行きと幅の広さを感じ、ページをめくるほどにどんな世界が展開するのか、とても興味深く面白く読んだ。

 表題作の「明日は遠すぎて」では、少女の頃の記憶とその十八年後が交錯する。まぶしいほどの鮮烈な夏の記憶と今になって思い出される当時の記憶の中にあった、直系の長男ばかりを贔屓することへの強い反発と憎悪、初恋、芽生え始めた自意識が、切なく焦がれるほどに心にいつまでも響く。たった十数ページの物語の中に、ナイジェリアを知らない読み手にまで、物語に描かれた場所を鮮やかに伝えてくる。タイトルは、蛇にかまれると十分後にはお陀仏だからと“エチ・エテカ(明日は遠すぎて)”と言い伝えられていることから。短い物語ながら、少女の時間とその十八年後が行き来する構成が心地よく、この短編集の中で強い煌きを放って読み手を一気にチママンダ・ンゴズィ・アディーチェという作家への強い興味へと引き込んでゆく。

 そのほか、アメリカで不法滞在を続ける男性と失恋した相手を引きずる女性とのやりとりと、信仰に関して印象的な「震え」、母と娘の衝突を描く「クオリティ・ストリート」、現代アメリカとナイジェリアを行き来する著者自身の心情を端々で窺い知れる「先週の月曜日に」、ナイジェリアが舞台の「鳥の歌」と「シーリング」、アフリカ人の若い作家たちの参加するワークショップの話である「ジャンピング・モンキー・ヒル」、ナイジェリア社会の抱える問題を描く「セル・ワン」も、それぞれに違う表情で読み手を引き込んでゆく。ストーリー・テリングの名手と言われているだけにあきさせずに、ナイジェリアとナイジェリアに纏わる事象を鮮やかに切り取っている。

 最後に収録されている「がんこな歴史家」では、アフリカ人の視点で歴史が次々と刻まれてゆく様を見せられているようで、夢中になって文字を追った。奪われた土地を取り戻すために息子に英語を学ばせたいと思う母親の意図に反し、成長とともに西欧化して母親から離れてゆく息子。けれど、その息子の娘は祖母の頑固な部分を受け継ぎ、民族の誇りを見出して、その意志を継ぐことになる、というユニークな顛末を描いている。歴史を絡めて展開してゆく物語の過程自体もある種の頑固さを感じる凝った構成で描かれており、二重三重に物語に面白い含みを持たせているようにも感じられる。血を受け継ぐということの真の意味、自分が何者であるのかということをこの物語を通じて考えさせられる。

4309205917明日は遠すぎて
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼた のぞみ
河出書房新社 2012-03-13

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