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2012.03.06

王国のない王女のおはなし

20110721_4009jpg_effected 上質なおとぎ話を読んだような、やわらかく甘い気持ちの読後感を味わった、アーシュラ・ジョーンズ文、サラ・ギブ絵、石井睦美訳による『王国のない王女のおはなし』(BL出版)。王国のない王女、という設定だけでも驚きの型破りのお話だけれど、彼女の持ち物はプリティという名前の子馬と、その子馬が引く荷台だけ、という点も型破り。ポストに入らないようなやっかいな荷物を運んで、少しばかりのお金を稼いで、どこかにあるはずの自分の王国をさがして旅している王女のお話である。周囲も王国がなくても礼儀正しい彼女を“プリンセス”として認めてはいるのだが、決して最高のもてなしをするのではなく、必ず二番目に上等なもので歓迎する。ちょっと見下された王女のお話なのである。

 この王女プリンセスは、自分の欲しい物を手に入れるために、積極的に行動しているところがとても共感が持てる。他力本願の夢物語とは違うのである。働いて、頭を使って、自分の願いを叶えようと努力を惜しまない。現代を生きるプリンセスのお手本のような、そして、それはプリンセスではないわたしたちにも通ずる何かを思わせてくれる。たとえ、どれほどまでに見下され、失礼に扱われようとも、自分の目標や夢を見失わずにまっすぐ前を見つめている姿は、真のプリンセスと言うべきかもしれない。物語の展開は思わぬところに行き着くけれど、ありきたりではない結末がなんとも幸福そうなところは、やはり安心のハッピーエンドで、ほっと安堵する。

 繊細で美しいサラ・ギブの絵は色鮮やかなページと、シルエットのみで描く影絵のようなページとで書き分けられている。とりわけ、シルエットのみの絵での効果的なピンク色や赤色の使い方が素晴らしく美しく、むしろシルエットだけのほうがより人物の内面を描き出しているようでもあり、そっと物語に寄り添う。甘い色使いなので、女性好みの絵本なのだが、決して甘すぎるということはない。物語自体が古典的なシンデレラストーリーとは違っている点もとてもよいのだが、訳文の丁寧な言葉遣いも、どこか品があってとても心地よいのが印象的である。王女プリンセスの気品と穏やかさが絵本全体から漂ってくるようでもあり、読んでいてとても幸福な気持ちに浸れる。

 物質的な豊かさを求めがちな現代社会や、裕福さを強調するかつてのシンデレラストーリーとは一味もふた味も違う結末が、とてもいい。人と運命的に出会うこと、そして心が豊かであること、それらの尊さを諭してくれるような、そんな一冊なのだ。既存の価値観にとらわれない、新しいプリンセスのかたちがここには描かれている。可愛らしい表紙に誘われるようにして手に取った絵本だったのだが、思わぬところで本当の意味での幸福を教えられたような気もした。ここかしこ、いたるところに、わたしたちの幸福はあるのだということ。そして、それは思わぬところに転がっているということ。それに気づくことのできる者だけが、きっと本物の幸福を手にするのかもしれない。

4776404893王国のない王女のおはなし
アーシュラ ジョーンズ サラ ギブ
BL出版 2011-10

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