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2010.02.05

マルベリーボーイズ

20100131_4010 しなやかに。したたかに。生き延びること。信じること。仲間を大切にすること。わかちあうこと。決して裏切らないこと。誠意を尽くすこと。一少年の芯にある思いは、彼を生かし、人を動かす。彼の持つ強みに、強く強く惹かれてゆく。ドナ・ジョー・ナポリ著、相山夏奏訳『マルベリーボーイズ』(偕成社)は、19世紀末のニューヨークスラム街で生き抜いた、ユダヤ人少年を主人公にして描かれる物語。これまで「ヘンゼルとグレーテル」「ラプンツェル」「美女と野獣」「ジャックと豆の木」「シンデレラ」といった童話をモチーフに独特の解釈で描いてきた作者が、亡き祖父をモデルに紡いだという。ドナ・ジョー・ナポリという作家の新たな魅力に、読者であるわたしたちは圧倒される。

 物語の舞台は1892年。9歳のユダヤ人少年ベニアミーノは、イタリアのナポリからアメリカのニューヨークへ密航し、たった一人きりで生き抜くことを余儀なくされる。母親の買ってくれた新しい革靴のおかげで、イタリアからの移民を手引きする仲介人パドローネから逃れ、ドムという名でニューヨーク最大のスラム街マルベリーストリートで生きてゆく。青果店の主人グランディネッティの助けを借りて、一匹狼の少年ガエターノやパドローネの下で働く少年ティン・パン・アレイらと協力してお金を稼ぐ方法を見出し、ドムは着々と自分の居場所を築き上げてゆく。少年たちがさまざまな出来事を乗り越えて仲間を信じ、知恵と勇気で懸命に未来を切り開いてゆく姿に心打たれる。

 ドムの根底にあるのは、信仰と幼い頃からの教えだ。生き延びること、信じること、仲間を大切にすること、わかちあうこと、決して裏切らないこと、誠意を尽くすこと…。誰かを出し抜くことで生きている者の多い大都会の裏では、こういうドムの姿勢は一見甘いきれいごとに映るかもしれない。けれど、決して悪い人ばかりじゃないと信じるからこそ、誰かに助けられたり、仲間との友情を育んでゆけたりもする。信じなければ、何もはじまらない。信じなければ、何も得られない。街の流儀と逆行しているからこそ、浮かび上がる彼の強み。それは、彼を生かすばかりでなく、人の心を動かすほどに力を持っていた。傷つきながらもひたむきに生きる、ドムの逞しさの根は奥深くにあった。

 信じること。それはドムのひとつの希望でもあった。真実はどうであれ、ドムは母親を信じていた。幼いドムを一人きりで密航させたという事実を押しのけて、彼の目線で描かれる母親は美しくてやさしい。“あなたは特別な子”とドムを呼んで、深く愛してくれていた。だからこそドムは、いつの日か家路にたどりつくことを夢見て懸命に生きたのだろう。けれど、ドムから離れて改めてその母親を考えたとき、読み手であるわたしたちは別の顔を思ってしまう。ドムにとってはつらくて悲しい真実を終始思ってしまう。だが、ドムは読み手の心配をよそに、自らの道を歩きはじめる。すがすがしいほど強く逞しい彼の選択と、成長と、築き上げた居場所に、どこかほっと安堵を覚えるくらいに。

4037267705マルベリーボーイズ
Donna Jo Napoli
偕成社 2009-10

by G-Tools

 ≪ドナ・ジョー・ナポリの本に関する過去記事≫
 ・『逃れの森の魔女』(2008-10-30)
 ・『わたしの美しい娘―ラプンツェル』(2008-12-02)
 ・『バウンド―纏足』(2009-05-03)


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