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2010.02.02

クク氏の結婚、キキ夫人の幸福

20100131_4009 誰かと関係を持つことに、どうしたって痛みは付きまとう。その関係が深まれば深まるほどに、わたしたちは無傷ではいられない。想えば想うほどに、わたしたちはずたずたになる。痛みをともなってはじめてわかる、その傷の深さ。その想いの深さに、わたしたちは自分でも気づかなかった自分自身を見る。佐野洋子著『クク氏の結婚、キキ夫人の幸福』(朝日新聞出版)。「クク氏の結婚」「キキ夫人の幸福」の2篇を収録している。ここで描かれる男女関係は、誰かを愛することの痛みに満ちている。著者独特のユーモアは、その痛みをもてあそぶようにごろりごろりと転がしてしまう。痛快という言葉がよく似合う物語は、わたしたちの胸の奥をちくりちくりと刺激してゆく。

 「クク氏の結婚」は、同時に3人の恋人がいるクク氏の物語。細かなことには何の感想も持たずに、何とはなしに彼女たちと付き合っていた。女房に家を追い出されたときすら何の感想も持たず、失ってはじめて何となく惜しい気がした。そんなクク氏が果たしてちゃんとした暮らしを手に入れられるのか…。流れるままに、流されるままに。そういういい加減なところも、よい加減に思えてしまうくらいに、どことなく憎めないクク氏。たぶん、クク氏と付き合ってしまう女性たちは皆、そうやって彼を許してしまうのだろう。甘い蜜を吸えるのは、いつだって想われている方だ。けれど、その立場が逆転してしまうことだって、この世の中にはあるのだ。そんな関係の妙が面白い。

 もうひとつの物語、「キキ夫人の幸福」。キキ夫人はキキ氏と二度目の結婚をした。2人は失敗した結婚者の持つ互いへのいたわりを充分に持ち、細心に注意を払ってそうっと暮らしていた。ところがある日をさかいに、キキ夫人はキキ氏とその元恋人との過去の姿が見えるようになってしまう。キキ夫人の目の前で、あまりにも濃密な日々が繰り広げられてゆく…。キキ夫人にしてみれば、あまりにも残酷な日々。けれど、長く続く結婚生活の中ではむしろ幸せでいられる時間なのかもしれない。来る日も来る日もはらはらドキドキして、嫉妬心をギラギラとたぎらせていられるのだから。キキ氏への焦がれるような気持ちこそが、ある意味キキ夫人の幸せのかたちの表れなのだろうか。

 人が誰かと関係を持つことに、どうしたって痛みは付きまとう。その関係が深まれば深まるほどに、わたしたちは無傷ではいられない。想えば想うほどに、わたしたちはずたずたになる。痛みをともなってはじめてわかる、その傷の深さ。その想いの深さに、わたしたちは自分でも気づかなかった自分自身を見る。たとえば、誰かを想って。たとえば、誰かを愛して。それにともなう痛みを知って。わたしたちは強くなる。強く強く、愛を知る。そうして、幸せの意味を、幸せのかたちを、さまざまに見出しはじめる。誰かを想えば想うほどに。誰かを愛すれば愛するほどに。痛みをこえて、生きてゆける。どうしたって痛みからは逃れられないから。どうしたって無傷ではいられないから。

4022506482クク氏の結婚、キキ夫人の幸福
朝日新聞出版 2009-10-07

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