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2010.01.18

園芸少年

20090410_9025 偶然か必然か。その引き寄せる力を思って、ひとつ、唸ってみる。ひょんなことから導かれ、するするとつながってゆく、めぐり合わせの不思議。どこで何がどう転び、出会うのかわからない。一見まったく接点のないように思える、性格も外見も異なる少年たち。彼らの出会いから、いつしか夢中なものを同じにして、互いをわかってゆく。少しずつ、心寄せ合ってゆく。ぎこちないながらにまっすぐな少年たちを描いた、魚住直子著『園芸少年』(講談社)は、微笑ましい彼らの成長の物語だ。それぞれの成長は、それぞれに抱える痛みをも乗り越えて、新たな一歩を確かに育んでゆく。痛みを知っている彼らの交流は、わたしたちの懐かしい記憶を呼び起こし、優しい気持ちにさせてくれる。

 高校生活を無難に送ろうと思っていた主人公の篠崎は、帰宅部になるはずだった。校舎の裏に放置されていた植木鉢に飲み残しの水をかけたところ、翌日その鉢だけ元気になっていることに気づく。春休みに出会った不良っぽい少年・大和田となんとなく意気投合して、気まぐれに植木鉢に水をやってみると、植物たちが生き生きとしてきたのだった。そんな折、部員の足りない体育系の部活からの強引な勧誘を逃れようと、園芸部に入っていると宣言してしまう。だが、園芸部は既に部員は卒業してしまい、部員は篠崎と大和田のみ。引くに引けなくなり、そのままずるずると園芸部員になった2人に、途中から相談室登校をしている庄司が加わって、それぞれの思いを抱えながら植物を育ててゆく。

 3人は三様に過去を引きずっている。篠崎は、いじめられたくない一心でいじめに加担してしまったかもしれないことを。大和田は、かつて不良だった自分自身と当時の仲間たちとのつながりを。庄司は、ひきこもりを克服するために、頭から段ボール箱をかぶらずには外に出られないことを。まったく園芸とは縁のなかった、性格も外見も違う3人。それぞれの痛みは根深くとも、彼らは植物を育てることを通じて、なごやかに心を通わせながら、少しずつわかり合える関係になってゆく。成り行き任せではじまったことが、いつしか真剣な行為に変わり、無我夢中になって痛みさえやわらげる。そうして、いつしか幾重にも強くなった自分がいると知るのだ。まだ見ぬ先に、ほのかな希望も見えてくる。

 ひとつのことに真剣になってゆくまで。その過程を丁寧に追う物語から見えてくることは、成長という名の楽しさや喜びだろうか。苦しさや痛みは芯にありながらも、するりとかき消してしまうほどに、少年たちは逞しくなる。必死に芽吹こうとする植物のしなやかなしたたかさは、少年たちの姿とよく似ている気がする。良い方にも悪い方にも転べる、その成長のとき。自らの手で明日を切り開くことを許されているときに、彼らは信じる道を選んで進んでゆく。誰もが通り過ぎる幾つもの分岐点を、自らの力で駆け抜ける。迷ったり焦ったりしながら、立ち止まったりつまずいたりしながら。しなやかに、したたかに。まっすぐに。ひたむきに。不器用な少年たちの物語は、すがすがしく吹き抜けてゆく。

4062156644園芸少年
講談社 2009-08-08

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 ≪魚住直子の本に関する過去記事≫
  『非・バランス』(2008-06-14)
  『Two Trains』(2008-07-26)
  『リ・セット』(2008-07-31)
  『超・ハーモニー』(2008-08-14)
  『未・フレンズ』(2008-09-22)
  『ピンクの神様』(2008-11-20)


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