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2010.01.19

結婚小説

20090615_046 はみ出さないように。はみ出さないように。そうやって、どこかかたちにとらわれているわたしたちがいる。自分の選択をかたちに押し込めることで、ほんのりと安心感を得たつもりになる。自分らしい選択をしないままに、何気なく流されてゆくわたしたち。はみ出さないように。はみ出さないように。そう言い聞かせては、自分を封じ込めて楽なほうへ流されてゆくのだ。中島たい子著『結婚小説』(集英社)は、かけがえのないたった一人の人と出会えた幸せを、“結婚”というかたちに当てはめないで、自分らしい生き方を探る主人公の物語だ。自分のために生きること。誰かのための生きること。そして、誰かによって生かされていること。めぐりめぐる思いを貫いて、自分自身を見つめ直してゆく。

 “結婚小説”を書こうとしたものの、潜入した蕎麦打ち合コンで急性蕎麦アレルギーになり、取材どころではなくなってしまった小説家の貴世。けれど、そこで出会ったある男性も実は取材で参加していた映像作家であることが判明。意気投合した二人は付き合うようになり、急展開。やがて結婚が見え始める。とんとん拍子に進行してゆく笑いを誘う物語の中に、考え込ませる言葉が隠れているから侮れない。“結婚”イコール、ハッピーエンドという図式への貴世の問題提起は、彼女の周囲の人々の思惑に反して、どんどんふくらんでゆく。闇雲に結婚を考えるほど浅はかでもなければ、結婚というハッピーエンドで終われる人生でもない。結婚から続いてゆく道を、歩いてゆかなければならないのだ。

 かけがえのないたった一人の人と出会えた幸せ。その幸せを“結婚”というかたちに当てはめることへの疑問。“愛するのは自然なこと。頑張ることではないわ”フランス人のパックス(結婚していないカップル)の女性が物語の中でいう。フランスでは、パックスでも結婚している場合と同じように国から子育て支援が受けられる。最近では、生まれる子どもの半数以上がパックスの子どもだという。経済的な意味でも、社会的な意味でも、先進国でありながら、カップルのかたちを自由に選ぶことが難しい日本の現状があるのだ。けれど、それだけじゃない。わたしたちの根底にある思いが自由な選択を恐れている気がしてならない。愛することは自然なこと。でも、自然のなりゆきでは生きられない。

 誰かを愛して結ばれる。それだけのことに終わらない現実。だからこそ、わたしたちはありふれた女になり下がる。はみ出さないように。はみ出さないように。そうやって、どこかかたちにとらわれている。自分の選択をかたちに押し込めることで、ほんのりと安心感を得たつもりになる。自分らしい選択をしないままに、何気なく流されてゆく。はみ出さないように。はみ出さないように。そう言い聞かせては、自分を封じ込めて楽なほうへ流されてゆくのだ。自分のために生きること。誰かのための生きること。そして、誰かによって生かされていること。その循環の中で、わたしたちはこの先続いてゆく道を、歩いてゆかなければならない。許されるかぎりを尽くして。ありふれた女なりに尽くして。

4087713253結婚小説
集英社 2009-12-04

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