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2010.01.05

戦友の恋

20091225_44007 言葉で簡単に言い表すなんて、できないくらいの。深く深く、かたく結びついた縁。“友達”だなんていう響きでは、とてもとてもくくりきれない。それほどまでに強い強い結びつき。“親友”よりも“戦友”という言葉の方がしっくりくるような、互いにとって特別な関係。大島真寿美著『戦友の恋』(角川出版)は、そんな特別な存在を喪った主人公の再生の物語である。共に過ごした日々を、ゆっくりと噛み締める。せつなさと清々しさの混じり合った、まだまだ続いてゆく時間の中で、どんなに心細くても生きてゆかなければならない。喪った寂しさも、過ごしてきた時間も、何もかもを糧にして、生きてゆく、生きてゆく、生きてゆく。止まらない時間を、確かな足取りで、歩いてゆかねばならないのだ。

 6つの連作短編からなる物語は、漫画家を目指していた主人公と新人編集者だった玖美子の出会いからはじまる。玖美子は漫画の原作者としての主人公の才能に目をつけ、互いのアイデアを持ち寄って一漫画原作者としての主人公を育ててゆく。時には、お酒片手におしゃべりしながら、恋に、仕事に、共に、それぞれに、一歩一歩進んでいった。だが、玖美子は30代にして急逝。残された主人公は喪失感を抱えたまま、新しい担当者と立ち止まることなく、仕事を続けてゆくことになる。玖美子と二人で立ち寄ったお店のオーナー、夜中の焼肉仲間である元彼、玖美子に憧れていたまだ若い担当者、偶然に再会する初恋の相手など、人々とのふれあいの中で玖美子のいない日々を、時間を、噛み締めてゆく。

 1つ目の物語から、さらっと玖美子がもうこの世にいないことが明かされ、その死を悼む間もなく、物語は進んでゆく。主人公は玖美子のいない現実をただただ生き続けるしかない。一緒に歳を重ねて、おばさんと呼ばれるようになって、過ぎてしまった時を噛み締めて、いつか笑い飛ばす…そんなあたりまえのように訪れるはずだった日。一人の人間が消えた空白は簡単に言葉にならない。頭の中で繰り返し、玖美子のいない穴を埋める言葉を見つけようと、もがく主人公。やがて主人公はスランプに陥り、さらに悶々とした日々を送るようになる。玖美子との出会いによって導かれ、はじまった道をこのまま突き進むことへの疑問、心細さ、寂しさ。どうしたって戻らない、たった一人の存在を想うのだった。

 言葉で簡単に言い表すなんてできないくらいの、かたく結びついた縁だからこそ。喪ってから気づく、さまざまなものがある。誰かを亡くして残されたわたしたちに課せられたのは、共に過ごした日々を、ゆっくりと噛み締めるように生きてゆくこと。せつなさと清々しさの混じり合った、まだまだ続いてゆく時間の中で、どんなに心細くても生きてゆくこと。喪った寂しさも、過ごしてきた時間も、何もかもを糧にして、生きてゆくこと。止まらない時間を、確かな足取りで、歩いてゆかねばならないのだ。その命が果てる日まで、ずっと。ずっと。誰かの愛おしい想い出を胸に、噛み締めて、噛み締めて、噛み締めて。生きてゆく、生きてゆく、生きてゆく。そう自分に言い聞かせて、この先も歩いてゆく。

4048739905戦友の恋
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-11-27

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