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2009.12.15

らいほうさんの場所

20091214_4004 まぎれもなく家族だった。守るべきもの、失ったものを同じにして、ただただ彼らは家族だった。どこかにいる誰か、わたしたちとよく似た。家族であるという絆は、本当は何でもよかったのかもしれない。何かを象徴するもの。よりわかりやすいかたちであるなら、なおさら。彼らが傾く先へとつながっていれば、それだけで。血のつながり、ひとつ屋根の下での日々、共に重ねてきた時間…家族であるという事実をつぶさに照らしてみれば、彼らはどうしようもないくらいに家族だった。東直子著『らいほうさんの場所』(文藝春秋)。かつて封印し、秘められ、ふれてはならないものを持つ、三姉弟が織りなす物語である。家族の小さなほころびと再生とが細やかに描かれ、独特の余韻を残してゆく。

 インターネットの占いで生計を立てている長女、市民センターで働くバツイチの次女、日雇い労働をしている大人になりきれない弟。彼らは、亡き両親が残してくれた庭付きの分譲マンションで、三人寄り添うようにして暮らしている。庭の片隅には、彼らが“らいほうさんの場所”と呼ぶ秘密の場所があり、大切にしている。だが、穏やかな暮らしはある人物の登場をきっかけに崩れ始めるのだ。小さなほころびは次第に不気味さを放ち出し、家族関係をゆさぶる。読み手であるわたしたちは、いつしか長女が考える占いの文章に引きずられるように、騒動の中に呑み込まれてゆく。彼らがかつて封印し、秘められ、ふれてはならない部分に、手探りのまま踏み込んでいることに気づくのだ。

 “らいほう”とは、“来訪”のこと。物語の中では、容易には踏み込んではいけない聖域のように扱われている。花を絶やさず、その存在を崇めるようにして。三姉弟を結びつけている“らいほうさんの場所”とは、一体何なのか…ほのかな可能性を示されるだけで、確かなことは明らかにされない。けれど、それが家族を強く結びつけていることは容易に理解できる。謎めきは終始独特な雰囲気を漂わせ、家族の問題を浮き彫りにする。そうして気づく。思えば、家族であろうとするために彼らが努めていることは、わたしたちのそれと大して変わりないと。決して奇異なことではない。どこの家族にも在り得ることとして、この物語はわたしたちにするすると沁み込んでゆくのだった。

 家族であるために、家族だからこそ、わたしたちはさまざまな思いを抱えている。僅かなほころびも、侵してはならない領域も、まるごと全部含めて。全てが愛しさのかたまりだから。まぎれもなく家族だから。その証明を解き明かすように、日々を積み重ねて暮らしている。暗黙の了解として流れがちな、ひとつひとつのことを今更ながらにこの手に広げてみれば、嗚呼とため息ばかりがこぼれてくる。こんなにも強く、こんなにも深く、わたしを募らせるものは他にないだろうと。わたしが今いるこの瞬間にも、見えない力であたたかに守られている気がするのだ。どうしようもないくらい大きな力で。どうしようもないくらい強く深く。わたしたちは、まぎれもなく家族であるから。

4163286802らいほうさんの場所
文藝春秋 2009-11-11

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コメント

こんにちは。
本当に、いつもは気づかない、あって当たり前の「家族」をひしひしと感じさせてくれる小説でした。
親子じゃなくて、きょうだいというのも新鮮でしたね(o^-^o)

投稿: かつき | 2009.12.25 12:49

かつきさん、コメント&TBありがとうございます。
思えば家族って不思議なものですよね。
あたりまえだからこそ奥深い…そんな気がします。
まじまじと自分の家族関係やきょうだい関係を振り返ってしまいました。

投稿: ましろ(かつきさんへ) | 2009.12.27 18:12

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» 『らいほうさんの場所』 東直子 [猛読醉書]
成人した三人の姉弟が共同生活を送っています。仲がいいのでしょうけれどこの小説では「何か」を隠しているように始まります。その象徴が専用庭に設けられた「らいほうさんの場所」。アラフォー長女の志津は、らいほうさんの場所に常に花をきらさず、丹精込めて手入れをし...... [続きを読む]

受信: 2009.12.25 12:51

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