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2009.09.08

大きな木のような人

20090907_026jpg_effected 木々はわたしたちを包み込む。何百年もの間地面に根を張って息づき、そよそよと風に揺れながら見守ってくれている。言葉などなくても、いつだってやさしい。いつだってあたたかい。いつだって寄り添ってくれる。木々の存在は慰め。そして救いでもある。“人はみな心の中に、1本の木をもっている”という言葉が印象的に響く、いせひでこ著『大きな木のような人』(講談社)。美しい木々の緑に思わずため息がもれるほどに魅了された。確かにいつか見たはずの緑。親しみ感じる緑。でも、それだけじゃない。ぬくもりがあるのだ。樹齢何百年もの貫禄ある木々も花々もどれもこれもがやわらかな水彩で描かれ、心によく馴染む。何度も読み返したくなる素敵な一冊である。

 物語の舞台はパリの植物園。さえらという少女は、スケッチブックを手にして植物園に通っている。ある日、おじいちゃんの誕生日プレゼントにしたいと、植物園の黄色い花を引き抜いてしまう。そんな少女に植物学者は怒るでもなくひまわりの種を与え、さえらは大切に育てるのだった。植物学者は植物園を案内したり、植物の不思議さや魅力をさえらに語りかけたりする。すると、さえらの心にも小さな芽が育ち始める。ちょうどさえらが育てたひまわりのように。季節の移り変わりとともに様々な表情を見せる植物園の様子とさえらの心の変化をやわらかに淡いタッチで描いてゆく。さえらの好奇心と興味の広がり、植物に対する植物学者の思いなどなど、読むたびに発見がある。

 だが、夏が終わろうとする頃になると、さえらは無口になっていった。日本に帰ることになったのである。植物学者はそんなさえらにプラタナスの木を背にして語りかける。“きみは、じょうずにひまわりを育てただろう。ひまわりは、きみの心の中にしっかりと根をおろしたんだよ。ごらん、このプラタナス、250年もここで根をはってきた”と。見開きページを縦に使って描かれた大胆な構図のこの場面はとても印象深く残る。そして、静かな余韻を残してゆく。うつむき加減のさえらを包み込むような大きなプラタナスの木。250年という長い年月がこの木を逞しくしたことを思い知る場面でもある。出会いも別れも喜びも悲しみも、すべてを受け止めてひたむきに生きる姿があったと。

 一人の少女の心の成長と偉大な木々とそっと見守ってくれている植物学者。なんとも素敵な関係である。穏やかな特別な時間が流れていたのだな…そんなことを思う。さえらという少女がどんな大人の女性へと変わってゆくのか、とても楽しみになってくる。ちなみにこの“さえら”という少女の名前は、フランス語では“あちこち”という意味だそう。植物園のあちこちに出没して、植物学者や庭師をてこずらせる“さえら”=“あちこちちゃん”。物語にぴったりの名前だと思う。さえらが育てたひまわりの種を、今度はどんな子どもが育てるのだろうか。第二のさえらがあちこちに出没して、たくさんの芽を育てて欲しいものだ。そのときはプラタナスの木がきっと守ってくれる。

406132392X大きな木のような人 (講談社の創作絵本)
講談社 2009-03-19

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 ≪いせひでこの本に関する記事≫
  ・『ルリユールおじさん』(2007-08-30)


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コメント

書籍の魅力もさることながら、
エントリの文章のあたたかさにうたれました。

また読みに来ます。

読ませてくださって、ありがとう、と言いたくなるエントリでした。

ありがとうございました。

投稿: mummykinoi | 2009.09.08 15:45

mummykinoiさん、コメントありがとうございます。
拙いエントリにもかかわらず、
読んでくださってこちらこそ感謝です。
しばしブログを更新していなかったので、
これからの励みになります。
またぜひいらしてくださいませ。
お待ちしております。

投稿: ましろ(mummykinoiさんへ) | 2009.09.08 17:13

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書評を読んで、癒される、という経験をした。 [http://massiro.cocolog-nifty.com/log/2009/09/post-47f7.html 大きな木のような人] シンプルで、短くて、ストレートな内容。 奇をてらうでもなく、ただただ、その書籍の内容をまとめ、紹介したひと綴りの文章。 それなのに、まわりがシーンとして、活字が立ち上がって、木々や秋の草の穂のように揺れているような意識を与えられた。 世辞ではなく。世辞ならこんなところにわざわざ書く..... [続きを読む]

受信: 2009.09.08 21:27

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