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2009.07.14

ジャック・プレヴェール 鳥への挨拶

20090529_052jpg_effected 大人になりきれなくてもいいじゃないか。いつまでも子どもでいたっていいじゃないか。子どものままの視線で、わたしなりの視線でさまざまなものを見て、感じて、思って、考える。背伸びする必要などどこにもない。ありのままの自分で、ありのままの感性で、物事を見つめる。ただそれだけでいい。そうして自然と見えてきたもの、浮かんだものは、わたし自身の何よりも強みになる。そんなことを思わせてくれる、20世紀フランスの最大の詩人ジャック・プレヴェールの言葉たち。高畑勲編・訳、奈良美智絵による『ジャック・プレヴェール 鳥への挨拶』(ぴあ)は、21世紀になっても世界中で読み継がれているプレヴェールの詩と奈良美智の絵が不思議に響きあう、魅力的な一冊である。

 表題にもなっているとおり、プレヴェールの詩には鳥が多く登場する。自由を求めて、大空を飛び廻る鳥のごとく生きられたら…そんなプレヴェールの思いを強く意識させられるぴったりの表題だと思う。ときには残酷なまでに真実を伝え、ときにはユーモアを込めて言葉遊びを楽しむ。そして、率直に伝えたいことを語り出す。そんな詩やお話の数々を収録。「灯台守は鳥たちを愛しすぎる」では、どんなふうにしても幾千羽もの鳥たちが死んでしまう。火に向かって飛ぶ鳥たちをどうにかしようと、さまざまな犠牲を覚悟で灯台のあかりをみんな消してしまう。けれど、幾千羽もの鳥を乗せた貨物船が難破することになってしまうのだ。救う命あれば、救われない命がどこかに必ずあることに愕然となる。

 「花屋にて」では、ある男が花を買う。男がポケットからお金を探ると同時に、急に心臓に手を当てて倒れてしまう。男が倒れると同時に床に転がるお金と、落ちる花束。花屋の女は立ちつくして、為すすべもなく、ただ死んだ男とだめになった花束と転がり続けるお金のことを見つめている。どこから手をつけるべきなのかわからずに。これは、リアルな感情を伝える詩だと思う。こういう時、すばやく行動できる人こそ人生経験を積んだ大人なのかもしれないが、ただただ立ちつくす花屋の女は正直だ。真実味がある。もはや救えない命が目の前にあること。そこには、自分の無力さや弱さ、儚い人間の命と花の命が一瞬にして浮かび上がる。そして、同時に自分が今ここに生きている、ということも。

 戦争の悲しさを綴る「家庭的」。母親は編物をする。父親は事業をする。当然のこととして息子は戦争をする。何の疑いもなしに命が続くと思っている家庭の光景。戦争が終わったら、父親の事業を自分もするだろうと思っている。けれど、母親が編物を続けるように、父親が事業を続けるように、戦争も続き、息子は戦死してしまう。彼の命は続かない。そしてやがて、墓地のある暮らしが当然のことになる。悲しいかな、母親と父親の暮らしは続いてゆくから。簡素な言葉で紡がれた言葉に、強く重くのしかかる。皮肉ったようなタイトルも、すべてがわたしたちのすぐ目の前にある、現実を照らし出す。目を背けたくなるようなことも。あますところなく伝える。プレヴェールは鋭い観察者だと思う。

4835616359ジャック・プレヴェール 鳥への挨拶
奈良 美智 Jacques Pr´evert 高畑 勲
ぴあ 2006-07

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コメント

もう30年も前のことで訳者も誰か忘れてしまいましたが、

雨は空から降るんじゃない・・・鳥も僕らとおなじ地上の生きもの・・・

という一節がありました。
想像をふくらませ、そして、心を柔らかくしてくれるプレヴェールの言葉でした。

投稿: natsukusa | 2009.08.22 08:08

natsukusaさん、コメントありがとうございます。
遅くなりましてごめんなさい!

プレヴェールの言葉に早くから親しんでいらっしゃったのですね。
わたしは友人を通じて最近になって知ったばかりです。
いつか手元に置きたいと思っています。

投稿: ましろ(natsukusaさんへ) | 2009.09.02 14:38

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