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2009.07.05

ゴールド・フィッシュ

20090627_012 中学時代に思い描いていた夢はなんだったろうとふと思い返す。妙に現実を直視していたわたしは、さっさと自分の限界に見切りをつけて、夢見ることを忘れていたのではなかったか。夢破れた14の夏。人生を切り替えた15の春。けれど、また挫折してなあなあに迎えてしまった高校時代…。思えば夢のない人生を歩んできたものだ。森絵都著『ゴールド・フィッシュ』(角川文庫)には、小さな頃からずっと理想の従兄の真ちゃんの夢を自分の夢のように大切にしているさゆきが主人公。さゆきの中で膨らんでゆく真ちゃんの夢。けれど、自分の夢は自分自身で見つけなければならないことを知ってゆくのだ。『リズム』の続編でもあるこの物語。さゆきは中学3年生の受験生という、難しい年頃になっている。

 中学3年になったさゆきは、高校受験を控えているにもかかわらず、ゆらいでいた。大好きな従兄の真ちゃんが音楽の道で成功しようと夢見て東京へ行った前作『リズム』。そして、前作ではいじめられっこだったテツがめっきり大人びて、さゆきよりも先に明確に自分の進むべき道を見つけているからだ。周囲の友だちも志望校を決めたり、受験勉強に打ち込んだりしているのにもかかわらず、まだやりたいことや夢が見つからないさゆきはいろんなことが手につかず、真ちゃんの夢を応援することを自分の夢のように思っていた。けれど、真ちゃんが行方知れずになり、バンドが解散したことなどを知ることになる。果たしてさゆきは自分のリズムを取り戻し、夢を見つけることができるのか…そんな物語。

 中学3年のときは、たくさん迷ってたくさん悩んで、自分と向き合う時期のような気がする。もちろん、大人になってからもたくさん迷うことも悩むこともあるだろう。けれど、無限の可能性を秘めた若い時を充実して過ごして欲しいと、ついついさゆきを応援しながら読んでしまっていた。真ちゃんのこととなると無我夢中になってしまうさゆきをたしなめるように支える同級生の幼馴染みのテツや真ちゃんのお兄さん、妹をあたたかく見守るさゆきの姉、そして時には厳しいことを言ってくれる大人がいること。さゆきの周囲は、多くの人たちによって成り立っている。そのことが、何とも微笑ましくもあり、羨ましくもある。そうして新たに気づいてゆく。ゆっくりと、さゆきなりのスローペースで。

 大人になると、どこかにおき忘れがちな夢。そして、夢は自分でつくるものであること。自分でつかまえるものであることを。大それた夢でなくてもいい。小さなささやかな夢でもいいから、夢見る気持ちを忘れてはいけないという、強いメッセージを感じる物語である。まだ15歳。人生はまだまだ長いのだ。だから、物語のおしまいでさゆきが選んだ選択に思わず、ふふっと笑みがこぼれる。そうだ。その調子。さゆきらしくていいじゃないか、と思わずにはいられないのだ。夢の見えてくる場所までたどりつけるまで、いろんな経験をして、いっぱい悩んで、思いきり泣いて、迷うだけ迷えばいい。寄り道だってしたっていいのだ。きっといつか、どの時間も無駄じゃなかったと思える日が訪れるのだから。

4043791070ゴールド・フィッシュ (角川文庫)
森 絵都
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-06-25

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