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2009.07.04

リズム

20090326_010 わたしにかまわずに時は刻々と流れるように進み、物事は確実に変化を見せる。そんな中でどうやったら、しゃんと自分を保っていられるだろう。ゆらぐのはきっと、子どもも大人も変わらない。時はいつだって、わたしたちにかまわずに過ぎゆくものなのだから。森絵都著『リズム』(角川文庫)は、中学1年生のさゆきが主人公の物語。風みたいに、空みたいに、月みたいに、どこにいても、いつになっても、何が起こっても変わらないものが好きな一人の少女の成長を綴っている。どんなにくだらないことも煌くような十代の時。一番多感な時。そういう時を慈しむように新たな一歩を、確かな一歩を踏み出す。そして、どんなに周囲が変わろうとも、自分だけのリズムを大切にしていればよいことを知るのだ。

 さゆきには、第二の我が家と呼べるほどの親戚の家がある。そして、その家には小さな頃から慕っている従兄の真ちゃんという存在がいる。高校にも行かず、バンド活動をしている金髪の真ちゃんだが、さゆきにとっては今も昔と変わらず大好きな理想のお兄ちゃん像である。ある時、真ちゃんの両親が離婚してばらばらになるかもしれないことを知り、日々悶々と悩み続ける。ずっとそこに変わらずにいてくれる、変わらないものが好きなさゆきにとって、これはとても重要なこと。ただただ毎晩のように祈るばかりだ。そんなさゆきが、いかにして変化を受け入れてゆくのかを、物語はゆっくりとさゆきのペースで追ってゆく。ゆらぐ13歳の気持ちは、大人になったわたしにも不思議とよく馴染む。

 物語の登場人物で魅力的なのは、何といってもさゆきの担任の三木先生。まだまだ新米の先生らしいが、中学生の気持ちを汲み取るさゆきのよき理解者である。年中悩みこんでぼうっとしているさゆきをしょっちゅう呼び出すものの、特別叱るわけでもなく、あたたかなまなざしで接してくれる。さゆきを見ているとハラハラする先生は、まるで自分の中学時代を重ね合わせるように言う、“それでも、あれが不毛な時間だったとは思わないわ”と。そう、きっと悶々と悩むとことも、変化に戸惑うことも…いろんなこと何もかもが愛おしい大切な時間。ゆらいだ分だけ答えがあって、道筋があって、すうっと自分なりの道しるべができてゆく。そうしてたどり着いた先に立っている自分を、今誇らしく思いたい。

 そして、クライマックスの真ちゃんとの最後の場面は、なんだかじーんとせつない。ロック歌手を夢見るしんちゃんが、さゆきにドラムスティックを渡すのだ。そして言う、自分だけのリズムを大切にしていれば、まわりがどんなに変わっても、さゆきはさゆきのままでいられるかもしれない、と。いい言葉だなと素直に思う。つまりは、どんなに周囲が変わろうとも、自分だけのリズムを大切にしていればよいと。わたしたちにかまわずに時は刻々と流れるように進み、物事は確実に変化を見せる。そんな中でしゃんと自分を保って生きるためのひとつの手段が、さゆきにはできたのだ。大人になってもゆらぐことの多い世の中。その中を生き抜くために、彼女は今後どう成長するのだろう。楽しみである。

4043791062リズム (角川文庫)
森 絵都
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-06-25

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