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2009.07.03

ぶたばあちゃん

20090627_032 いつか必ず訪れる死。その逃れられない死を冷静に受け止めることはとても困難だ。けれど、悔いなく最期を穏やかに迎えるためには、冷静さは重要だ。自分の潮時を予感して、一番いい方法でこの世とさよならする。この世に生きる人とさよならする。そうできたら、どんなにいいだろう。マーガレット・ワイルド文、ロン・ブルックス絵、今村葦子訳『ぶたばあちゃん』(あすなろ書房)には、あるひとつの死の受け入れ方が描かれている。淡々とした語り口ながら、悲しみを必死に押し殺したふたりの一番いい方法での別れは、読み終えてもいつまでも胸の奥にじんと響いてくる。水彩画のやわらかな淡いタッチの絵と共に綴られる、ぶたばあちゃんと孫むすめの日々のやさしいさよならの物語である。

 ぶたばあちゃんと孫むすめは、ずっと長い間一緒に暮らしてきた。ふたりにはふたりならではの生活があって、役割分担があって、つつましやかに暮らしている。孫むすめが朝ごはんを作り、ぶたばあちゃんが昼ごはんを作る。そして、晩ごはんは一緒にしたくをするのだ。けれど、ある朝のこと、ぶたばあちゃんは普段どおりに起きてこず、孫むすめが朝ごはんを運んできたときも、眠り続けた。昼ごはんのときも。晩ごはんのときも。そうして、次の朝になると、ぶたばあちゃんはまだ回復していないのにもかかわらず、こう言う。“今日は、忙しくなるよ。わたしはしたくをするんだからね”と。何のしたくをするのか孫むすめに説明もなければ、細かなことは何にも言わないぶたばあちゃん。

 でも、いつも寄り添うようにして生きてきたふたりだから、互いに別れが近いことを察してしまう。孫むすめは、ぐっと悲しみをこらえて、ぶたばあちゃんの最後の散歩にゆっくりと付き合う。ふたり一緒に見る様々もの、景色が、やわらかにふたりを包み込むように美しくきらめく。多くの言葉がなくても伝わる思いがあること。それは、ふたりの絆の深さを物語っているようでもある。だからこそ、別れは悲しい。だからこそ、あたたかに胸に響く。ぶたばあちゃんは、最後の最後まで生きることと愛すること、与えること、受け入れること…そういったことを、生き様を通して教えてくれる。ふたりの優しい笑顔はまさに生の喜び。そして、最後の日のあっという間の時間はかけがえのないもの。

 ずっしりと重たいテーマを扱った物語。でもブタというキャラクターの愛らしさが、ほんのりと明るく物語を照らす。何よりも印象的なのは、自分の最期の日を予期したぶたばあちゃんの行動力と潔さ。なんて魅力的に描かれているのだろうと思う。そして同時に、人間はうじうじしていてこんなふうにさっぱりと死を受け入れられないだろうなぁなどと思ってしまう。ふたりの生き方を通して見えてくるのは、いつか訪れる死に対して、別れというものに対して、冷静であれ、ということだ。そうして思う存分、悔いなく生きよ、ということ。あたり前に周囲にあるもの、人々…そういったものを慈しみながら、日々を生きよ、ということ。きっと今この瞬間だって、かけがえのないものなのだから。

4751514458ぶたばあちゃん
マーガレット ワイルド ロン ブルックス
あすなろ書房 1995-10

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