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2009.07.25

さようなら窓

20090615_018_2 さよなら。さようなら。サヨナラ。サヨウナラ…幾度ものさよならを繰り返して、人は少しずつ確実に成長する。会いたくても、会いたいからこそ、会わない選択肢。別れたくないからこそ、別れるという選択肢。そういうものもこの世の中にはあるものだ。すべては自分が決断すること。どの選択肢が正しいかなんて、わからない。でも、わからないからこそ、迷いに迷って自分でその選択を信じることが大事なのだと思う。東直子著『さようなら窓』(マガジンハウス)は、きいちゃんと呼ばれる女の子の成長の物語である。ゆうちゃんのくれたたくさんのやさしい物語に包まれながら、一大決心をするまでの過程を、やわらかなタッチで描いてゆく。ほんのり切ない、きゅんとする別れの物語である。

 ひょんなことから一緒に暮らし始めたきいちゃん(築)とゆうちゃん(佑亮)。恋人同士の二人。ゆうちゃんは、きいちゃんが眠れないとき、いろんなお話をしてくれて、どこまでも優しくあたたかく包み込んでくれる。その優しさに甘えてばかりいてはいけないと思いつつも、ずるずると甘えてしまうきいちゃん。彼女は大学を休学し、ゆうちゃんのもとに転がり込んだ居候の身。仕事を探してみたり、実家に戻ってみたりするものの、やっぱり最後にはゆうちゃんの優しさに甘えてしまうのだ。けれど、疎遠だった実の父親が末期の癌であることを知ったきいちゃんは、ゆうちゃんと会わない決意をし、たった一人で父親を看取る。そうして、ゆうちゃんとの本当の“さようなら”が待っているのだ。

 ゆうちゃんが話してくれる不思議な話と二人が出会う人々は、最後の章の伏線のようになって、静かな余韻としてじんわり残る。「泣いた赤おに」について語り合う二人、近所に住んでいたこうちゃんちの話、ジャム作りを教えてくれたお春さんの話、転校生の少女の話、特撮の小道具をつくっていた岩ちゃんの話、ゆうちゃんの友だちの中田剛蔵の話、謎のくしゅを置き土産にくれたミリさんの話、お隣に越してくるはずだった男性の話、同じアパートに住む偽加藤さんの話…などなど。ふわふわとどこか現実離れした話ばかりながら、妙なくらいしっくりと現実と混ざり合って、独特の小説世界を作っている。そしてさようならが待っているからこそ、どれもがかけがえのない愛おしいものとなる。

 きいちゃんの抱えているもの。それは、決してゆうちゃんの優しさでは解決しない、満たされないもの。ゆうちゃんに頼りながら、ずるずるとこのまま生きてゆくわけにはいかないのだ。どっぷりと甘えるだけではなくて、地に足をつけて自分なりの人生を歩むときがくる。会いたいからこそ、会わない選択肢。別れたくないからこそ、別れるという選択肢。そういうものもこの世の中にはあるのだ。すべては自分が決断すること。どの選択肢が正しいかなんて、わからない。でも、わからないからこそ、迷いに迷って自分でその選択を信じることが大事なのだと思う。そう、わからないからこそ、新たな一歩を踏み出す必要があるように思うのだ。きゅんとせつない物語だけれど、清々しいおしまい。

4838718578さようなら窓
東 直子
マガジンハウス 2008-03-21

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 ≪東直子の本に関する過去記事≫
 ・『薬屋のタバサ』(2009-06-05)
 ・『とりつくしま』(2009-06-29)
 ・『ゆずゆずり』(2009-07-02)
 ・『長崎くんの指』(2009-07-23)


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コメント

はじめまして。「静子の日常」で検索してこちらのサイトに
導かれました。

『どっぷりと甘えるだけではなくて、地に足をつけて自分なりの人生を歩むときがくる。会いたいからこそ、会わない選択肢。別れたくないからこそ、別れるという選択肢。そういうものもこの世の中にはあるのだ。すべては自分が決断すること。どの選択肢が正しいかなんて、わからない。でも、わからないからこそ、迷いに迷って自分でその選択を信じることが大事なのだと思う。』

とても心に響きました。
とても心強く今の自分の心境にぴったりでした。
ご紹介されている本と他にも気になる本が数冊ありましたので、購入して読みたいと思います。

ありがとうございました。

投稿: mini | 2009.09.01 12:34

miniさん、はじめまして。
コメントありがとうございます!
「静子の日常」でいらしてくださったのですね。
放置気味のところ、コメントくださっったおかげで、
なんだか救われた心地になりました。
こちらこそ、ありがとうございました。

他の気になった本が気になるので、
読み終えた際には、またぜひ一言でもコメントくださると嬉しく思います。
今後もどうぞよろしくお願いします。

投稿: ましろ(miniさんへ) | 2009.09.02 14:44

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