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2009.06.19

小さな本の数奇な運命

20090615_044 まだ読まずに積んである100冊以上の本を思って、ひとつ深いため息をつく。本にとって読まれないということは、おそらく最悪のこと。何年も忘れ去られることも、きっと悪いことのひとつなのだろうから。そうして、長い年月を経て、廃棄されることはもっとも悪い結末である。本は読まれてこそ本というもの。読まれるために存在しているというもの。アンドレーア・ケルバーケル著、望月紀子訳『小さな本の数奇な運命』(晶文社)という本は、そんなことを伝えてくれる一冊。本が自らの人生を語るという、風変わりな形式のこの物語は、古書店の片隅で買い手が現れるのを待っているところから始まる。ヴァカンスまでに売れなければ、廃棄処分という絶体絶命の状態にあったのだった。

 身につまされる本の独白は、60年前にも遡る。新刊で書店に並んだときの晴れがましさや、初めて女性の手でページをめくられたときの喜び(どうやらこの本は男性らしい)、そして何度も訪れる持ち主との別れ、本棚の隣人たちとの関わり合い、売れてゆく本への嫉妬、リサイクルされてダンボールになる恐怖…それらはまさに生きている本の心の内を語ったものである。一冊の本の浮き沈みのある人生は、人の感情のそれとよく似ている。本棚に収まって次に手に取ってもらえる日を待ち焦がれていることを思うと、自分の本棚をじっくり見入ってしまう。乱雑に収納された自分の本棚を眺めて、何だか本たちに申し訳ない気持ちにもなったりする。本棚にすら入れていない本には頭が下がる。

 古書店で買い手がつくのを待っているこの本、屈辱的にも躍起になって自分を売り込むはめになったり、自尊心と格闘したり、古書店を訪れる客たちの手に取る本に対していちいち講釈をしてみたりする。ヘミングウェイは最高の作家だとか、スタインベックだって選択としては合格だ、とか…。客たちが自分の方に近づいてくるだけでどきどき心躍らせたり、女性というだけでかなり心弾ませたりするのである。それが何とも可笑しくて、思わずくつくつと笑ってしまう。本だから下心なんてないのだろうけれど、この本、男性の読者よりも女性の読者を求めているのである。それだからこそ、ある持ち主の一万冊目の本になったときに、自らの人生について語りたいと申し出た気がするのだ。

 そうして、ふっと思い巡らせるのは、わたしの100冊以上もの積読本たちはどんなことを思っているのだろう…ということ。読まれないまま本棚に乱雑に入っているものもあれば、そのまま積んであるものもある。何年もほったらかしにされていたり、再読しようとして積んでいたり、さまざまではあるのだけれど、やはり読まれない本は悲しいだろうなと思う。本としてこの世界に存在しているというのに、その役目を果たすことができないのだから。本は読まれてこそ本というもの。読まれるために存在しているのが、本というものなのに。何だか身につまされる思いがしたのだった。今後はもう少し一冊一冊の本に愛情を込めて接してあげたいと思う。本という本来のあるべき姿を尊重して。

4794926618小さな本の数奇な運命 (シリーズ愛書・探書・蔵書)
望月 紀子
晶文社 2004-02-25

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コメント

こんにちは、ましろちゃん。

さすがはましろちゃんのレビューです♪
読んだばかりなのに、もう一度この本読みたくなっちゃいました。

そうですね、わたしの積読本たちも
(あ~ぁ、困った所有者だ…)って溜息ついてるかもしれません(苦笑)
最近、以前にまして読書量が…(汗)

わたしは、この本を読んでいるうちに
彼の独白が、いつかの自分に重なっていって
痛いぞ、痛すぎるぞ、なんて感じていってしまったのだけど
今度は、もっと、距離を置いた視線で読んだら
もっと違った景色が見えるかな~と思います。

トラックバック、させてくださいね~♪

投稿: nadja | 2009.06.23 07:46

nadjaさん、コメント&TBありがとうございます。

この本を読むきっかけをくれたnadjaさんに感謝ですー。
一冊の本の独白なんて、すごく面白い設定!
こんな本もありなのだなぁと思って、
楽しい読書の時間を過ごさせてもらいました。

積読本はねぇ、もうわたし増えすぎちゃって、
買うの自粛してるんだけれど、
どうしても図書館で借り出してしまうの。
期限がある図書館本はどんどん読むのに、
自分の本ときたら安心して読まずに積んでしまう…
悪循環のスパイラルです(苦笑)

TB。最初うまくゆかなかったのだけれど、
nadjaさんがしてくれたら送れたみたい♪
どうもジュゲムとココログは相性が悪いみたいです…。
悲し。でもよかった!

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2009.06.23 10:52

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*小さな本の数奇な運命アンドレーア・ケルバーケル訳/望月紀子(晶文社)前代未聞、本が自らの人生を語る! 一冊の本が、古書店の片隅で買い手が現れるのを待っている。ヴァカンスまでに売れなければ廃棄処分、と宣告されて…。「本の国」イタリア生まれの知的で洒落たフィクション。     データベースより引用しました。手抜き?(笑)とにかくおもしろかった。古書店は、わたしも時々行くのだけれどこの本を読んだら、並んでいる本たちが愛おしくなってくる。翻訳の望月紀子さんは、巻末の訳者あとがきで主人公探し(語り手の本)を... [続きを読む]

受信: 2009.06.23 07:52

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