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2009.06.20

旅するノラ猫

20090615_009 一味も二味も違った、摩訶不思議なる猫の世界。猫好きにとっては飽きることのないその未知なる世界は、さまざまに広がりを見せる。わからないからこそ想像はふくらみ、いかようにも解釈されて、わたしたちはその神秘に惹かれ続けるのだろう。これからも。この先もずっと。嵐山光三郎文、浅生ハルミン絵『旅するノラ猫』(筑摩書房)では、猫語のわかる人間が登場したかと思えば、念力で俳句を詠む猫たちが登場。集会で句会を開催したかと思えば、遠くを旅したりもする。個性豊かな猫たちと猫語のわかる人間たちとのふれあい、猫が詠む猫俳句の味わい、ノラ猫の悲しい運命というもの…などなどが丁寧に描かれてゆく。そこには猫への愛情だけでなく、著者の生きる姿勢のようなものも伺える。

 物語の中心はノラ猫のノラ。推定15歳。離れ離れになってしまった子猫を探して旅に出たノラは、飼い猫からノラ猫にならざるを得なくなってしまった。たどり着いた先は、アラシさんの家。自分の棲家とアラシさんの家とを行き来して生活している。アソウさんの家のトーちゃんという飼い猫の友だちもいて、ひそやかに俳句を詠み合う二匹。猫は薄情だというけれど、このノラは愛情がめっぽう強い。自分の子猫たちを探して長い旅に出ることになるのだ。ノラが出会う人間たちは不思議と猫語がわかる人たちばかり。猫の食事と言えど、生唾ものの料理が並ぶのが可笑しい。そうか、猫たちはこういうものを求めているのか…なんて、感心してみたりするのだ。猫の世界は嗚呼旨し、楽し、である。

 ノラの旅するのが俳句を詠むだけあって、あの「奥の細道」の旅。長距離トラックに乗り込んで、芭蕉ゆかりの地を旅する。我が子を探して三千里の旅でもある。と言っても、旅に出たい気持ちの方が優先しているような気がしないでもないけれど。さまざまな出会いあれば、別れあり。愉快なだけでは終わらない旅なのだった。楽しさも嬉しさも悲しさもまるごとひっくるめた旅。そして、その気持ちを慈しむように詠まれる猫俳句の数々。ときには仲間の猫の死を悼み、ときには季節の移り変わりを感じながら、思い思いに詠んでゆく。個性豊かな俳句の数々は、物語に添えられたイラストと共に、この物語を味わい深いものにしている。猫の世界は嗚呼なんと風流なこと。愛おしいこと…なんて思う。

 このように、猫好きにとってはなんともたまらない要素のたっぷりつまったこの物語は、猫を愛する人一読の価値あり、である。読めば、猫への愛おしさは倍増すること間違いなし、でもある。猫を見つめる視点も変化するというもの。今までとは違った猫との付き合い方が、もしかしたら始まるかもしれない。そして、ふらりと旅にも出たくなるかもしれない。そう、これは一味も二味も違った、摩訶不思議なる猫の世界。猫好きにとっては飽きることのないその未知なる世界は、さまざまに広がりを見せるのである。わからないからこそ想像はふくらみ、いかようにも解釈されて、わたしたちはその神秘に惹かれ続けるのだろう。これからも。この先もずっと。猫の世界は嗚呼なんて魅力的であること。

448081664X旅するノラ猫
浅生 ハルミン
筑摩書房 2009-05

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