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2009.06.27

BとIとRとD

20090627_027 幼い頃の世界は、小さいながらにとてつもなく無限に広がっているように感じられて、ささやかなことにいちいち驚いては歓喜し、未知なる不思議にわくわくどきどきしていたような気がする。無限の扉をあけてみれば、そこはもはや別世界。大人になってからは感じることのできないものたちが、いっぱいごろごろしているのだった。酒井駒子著『BとIとRとD』(白泉社)には、幼い女の子の視点で、そのまなざしにうつるもの、心に生まれるものたちが描かれている。8編のショートストーリーが綴るのは、やわらかな夢か。はたまた女の子のリアルな現実か。その夢と現実の狭間にある不安とぬくもりとが、手に取るようにつぶさに感じられる。そして、愛らしい女の子の画が何とも言えず胸にしみる。

 「昼間の蒸気機関車」では夢の中の出来事を語り、「図書館」では大人に混じって小さな女の子が独特な方法で本を読む。「お友達」では□(しかく)ちゃんなる女の子が登場して、乳母車を押す。「12月」でも、この□ちゃんが主人公。雪を一心に見つめる□ちゃんが印象的。「幼稚園」では一人で幼稚園に行けるようになった□ちゃんが、一番乗りに幼稚園に登園する姿が描かれる。「指しゃぶり」ではどうしても指しゃぶりをやめることができない□ちゃんのことが描かれている。お母さんの工夫も虚しく、□ちゃんに根負けしてしまうところが微笑ましい。「カミナリ」では幼稚園で□ちゃん独自のカミナリについての講釈が聞ける。「スイレン」では池のスイレンがどうしても欲しい□ちゃんの健気さが可愛らしい。

 中でも、わたしが印象に残っているのは、「図書館」というショートストーリー。大人に混じって本棚を眺める小さな2歳か3歳の女の子が、“シィッ”と人差し指を立てて、見えない誰かに絵本を読んであげるお話だ。しまいには、歌まで歌ってしまうから可愛らしい。静かな図書館で女の子の声は調子よく響き、さぞや図書館はほっこりとした雰囲気に包まれたことだろう。また「カミナリ」もいい。□ちゃんがカミナリは畑ではリンゴにおちると言い張るところが何とも可愛らしいのだ。“あのね、リンゴは小さいから、小さい小さいカミナリがおちるの……”なんて言われたら、ああ、そうだね。きっとそうかもしれないねなんて、言ってしまいそうだ。幼いなりに、いや、幼いからこそ、その発想は面白い。

 また、何といっても、□ちゃんというネーミングが酒井駒子さんらしくて素敵だ。タイトルになっているBとIとRとDにちなんで、どの画にも鳥が登場していることも見逃せない。蒸気機関車を見つめる女の子の頭上に、本を読む女の子の傍に、乳母車を引く□ちゃんの傍にだって、ちゃんと鳥はひそやかにいる。そっと見守るように。主張し過ぎないくらいのさり気なさで。そうして、短い文章にぎゅっと濃縮された小さな女の子の世界は、想像力に満ち溢れて、どこまでも無限に広がっていると感じさせてくれる。黒い色を多用した画は、どこかノスタルジックでもあり、小さな女の子という人物に深みや奥行きを持たせているようにも感じられる。とにもかくにも愛おしい本。この言葉に尽きるだろう。

4592761359BとIとRとD
酒井 駒子
白泉社 2009-06

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