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2009.05.10

チリとチリリ

20090322_032 身の丈にあったちょうどよいものがちゃんとわかること。自分に合ったものをするりと選択できること。自分らしく時間を過ごすこと。それらは簡単そうに見えて、意外と難しいことなのではないだろうか。たくさんのものが溢れる中でそれらができること。それは自分自身をよく知っているからこそのものなのかもしれない。自分の身の丈を、自分に合ったものを、自分らしさを知ること。すなわち、己を知ること。どいかや著『チリとチリリ』(アリス館)を読みながら、ふとそんなことを考えた。ほとんど文字のない絵本から伝わってくるのは、ほんわかした雰囲気の中に潜む、そういったメッセージだ。素朴なやさしさに包まれながらも、いろいろなことを考えさせられたひとときだった。

 チリとチリリ。双子らしきふたりはいいお天気の日、森の中を自転車で走ってゆく。森の喫茶店へ、パン屋さんへ、ホテルへ…。それぞれの場所にはふたりにぴったりなものたちが用意されていて、ふたりはそれを受け入れる。あるいは自分たちにちょうどよいものを選んで。たとえば、森の喫茶店にはたくさんのいろいろな大きさのテーブルや椅子があり、森のパン屋さんにはさまざまなパンとジャムがあり、森のホテルにはいろいろな大きさの鍵とドアと部屋がある。ふたりはその中から自分たちにちょうどよいものを選んでゆく。身の丈にあったものを。ちょうどよいということがしっかりとわかっているチリとチリリ。ああ、いいなぁ、こういう感覚。こういう生き方…そんなふうに思う。

 そして、何よりも自分たちに見合った時間の過ごし方を知っているのが、チリとチリリ。森の中でいい香りに誘われれば、喫茶店に入る。森の景色に見入ったり、水浴びをしたり、お昼寝をしたりもする。そうして、またチリチリリと自転車で走ってゆく。好きな時間に好きなことをする。そんな自由な一日を大切にしていることがうかがい知れる展開。まさに贅沢な時間の過ごし方だと思う。けれど、それは自分をよく知っているからこその、贅沢な時間だとも思う。ちょうどよい、を知っていること。それを選べる感性や感覚を持っていること。穏やかに流れる時間を満喫するには、そういうことがとても重要なのかもしれない。自分にぴったりの充実した時間を、もっと大事にしたいと思わせる。

 また、物語に登場するどんぐりのコーヒーやれんげティー、くるみパンのいちごジャムサンド、きなこパンのくりジャムサンドなんていうのも、なかなか素敵だ。チリとチリリが選んだものとなると、それだけで美味しそうに思えるし、特別なものに思えるから不思議である。チリとチリリ。このふたりはおかっぱ頭のせいか、双子の姉妹のようにおもえていたのだけれど、よく見てみると赤いボタンの洋服の子だけ、ズボンをはいていることに気づく。男の子なのかしら。女の子なのかしら。余計な説明がない分、想像は膨らむ。また、鮮やかな色鉛筆で描かれた画は、見事なまでに繊細でやさしいぬくもりに満ちていて、やわらかに読み手を包み込んでゆく。素敵な本と出会ったと素直に思える。

4752002442チリとチリリ
どい かや
アリス館 2003-05

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コメント

ここにくるときも名前変えますね。Pepe→アグリで、これからお願いします。

最近は絵本の収穫がなくって、ちょっと淋しいかんじです。よい絵本との出会い、いいですね。

子供って中性的な美があって男の子でも女の子でも可愛いです。オトナになってから失ってしまったものも思い出せる日がくるでしょうか。

投稿: アグリ | 2009.05.10 11:44

アグリさん、コメントありがとうございます!
実はこれ、マイミクさんからのプレゼント本だったりします。
おかっぱ頭がわたしっぽいらしくって。
なかなか似ています(笑)

絵本って、大人だからこそ読み取れる何かがある気がします。
失ってしまった日々も、何らかのきっかけでふっと思い出すことも、
あるような気がしますよ。きっと。
わたしは読書の中で幼かった頃に感じた思いを追体験することが多いです。
あとは夢の中もあるでしょうか。悪夢が多いけれど(苦笑)

投稿: ましろ(アグリさんへ) | 2009.05.10 17:03

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