« バウンド―纏足 | トップページ | あの庭の扉をあけたとき »

2009.05.04

三人姉妹

20090422_012 風が吹く。前向きな風が吹く。明日を見据えた風が吹く。どうしたって抗えない物事や次々と起こる出来事に翻弄されながらも、風に吹かれて前に進む。すると、気持ちのよいくらいに髪が風になびいて、今までのことすべてがまあるく納まっている。納まるべきところに。ちゃんと。すとんと。大島真寿美著『三人姉妹』(新潮社)には、そういう納まりのよい物語が並んでいる。物心ついたときは、既に当たり前のように傍にいて、ときに友だちよりも親密で、両親よりも恋人よりも頼りになるくらいのよき相談相手。お互いのことを話すまでもなく、知っている。みっともない部分も恥ずかしい部分も、まるごとすべて受け入れてくれる。意識せずとも、分かり合える。そんな三人姉妹の物語である。

 大学を卒業したものの、就職せずにミニシアターでアルバイトをしながら、映研のOBとして仲間と映画作りをしている水絵は三人姉妹の末っ子。長女の亜矢は早々お見合い結婚をして子育て中だが、ふらりと家出したりもする。亜矢と双子のように育った一学年違いの真矢は、恋心を抱かれている相手をゲイであると勘違いしたまま、自分のキャリアを積むことに熱心で、ヘッドハンティングの誘いにゆれている。そんな三者三様の姉妹だけれど、それぞれに協力し合って、さまざまな出来事を乗り越える。水絵が好きな彼とうまくいかないときも、それゆえに泥酔してしまったときも、母親がいきなり家出してしまったときも、何とも絶妙なコンビネーションで支え合い、ゆるやかな日常を過ごしてゆく。

 この物語の脇役の登場人物たちも、なかなか魅力的である。亜矢にとっては小姑である雪子さんも地味女子かと思いきや魅力的な謎めきがあるし、水絵の元バイト先でもあり映研のたまり場でもあるお店の店長のグンジさんも素敵である。そして、好きな人(真矢)にゲイだと思われたまま誤解されっぱなしのグンジさんが、ちょっと可哀想でもある。グンジさんはお店を切り盛りするくらいだから、話を聞き出すのにも長けていて、真矢とのやりとりは、水絵のもやっとした恋には、何とも刺激的に映る。愚痴を聞きながらも楽しそうに笑っている、自然な親密さで語り合っている…それが、水絵にはかなりの衝撃だった。そんなにも親密なのにも関わらず、恋愛になかなか発展しないあたりが歯がゆい。

 そうして、肝心のこの三人姉妹はと言うと…お互いのことを知り尽くしているから、あうんの呼吸ですべての物事が運んでしまう。沈黙もちっとも怖くはない。はしゃぐときは思いきりはしゃぐ。三人でいるから。三人だからこその絶妙な関係を保ちながら。そうして三人の目の前に、そっとぴゅうと風が吹く。前向きな風が吹く。明日を見据えた風が吹く。どうしたって抗えない物事や次々と起こる出来事に翻弄されながらも、風に吹かれて前に進む。すると、気持ちのよいくらいに髪が風になびいて、今までのことすべてがまあるく納まっている。納まるべきところに。ちゃんと。すとんと。三人のこれから先の人生が満ち足りたものになることを祈りながら、そっと本を閉じるわたしなのだった。

4103144319三人姉妹
大島 真寿美
新潮社 2009-04

by G-Tools

人気ブログランキングへ
本ブログ 書評・レビュー←宜しければクリックお願い致します。

|

« バウンド―纏足 | トップページ | あの庭の扉をあけたとき »

08 大島真寿美の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/44904035

この記事へのトラックバック一覧です: 三人姉妹:

« バウンド―纏足 | トップページ | あの庭の扉をあけたとき »