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2009.05.01

パパの電話を待ちながら

20090429_041 愛に溢れたシュールでポップな不思議な童話世界は、普遍的な面白さを持って現代のわたしたちに語りかける。思わずこの目を疑うほどの驚き。そして、奇想天外のキャラクターたちが代わる代わる登場し、笑わせたかと思うと、ふっと平和の尊さを感じさせ、ほろりと涙も誘う。そんなきらめくようなショートショートを集めた、ジャンニ・ロダーリ著、内田洋子訳『パパの電話を待ちながら』(講談社)。20世紀のイタリアを代表する作家の新訳のこの一冊は、身も心も柔軟にさせてくれる。子供向けに書かれた物語ながら、その味わいはほんのりビターな味わいも含んでおり、大人になった今だからこそ味わえるものばかり。類稀なる想像力の紡いだ物語は、確かなものとして、脳内に広がってゆく。

 イタリア中を旅するセールスマンのビアンキさんは、毎日夜の9時きっかりに娘に電話でお話を聞かせる約束をしていた。お話がどれも短いのは、ビアンキさんの電話代の関係というから、なかなか面白い設定である。娘可愛さに少々長めに話してしまうこともあるから、微笑ましい。仕事がうまくいったときには、長めの話をビアンキさんはした様子。おてんばなミニサイズの女の子の話、お城をみんなで壊す話、遊びに行った先で腕や足を忘れてくるうっかり坊やの話、とんがりのない国の話、前歩きするエビの話、鼻が一人歩きしてしまう話…などなど、とにもかくにもその面白さったらない。ただのファンタジーに終わらずに、言葉遊びや平和に対する祈りのようなものも感じさせる。

 この一冊でジャンニ・ロダーリの描く世界は、絶対にあり得ない不思議なものばかりだ。けれど、その世界は作り物であっても、脳内の中にするすると入り込む。確かに起こった出来事のように、自然と受け止めさせる魅力があるのだ。言葉の魔力と言ってもいいかもしれない。読み手であるわたしたちは、その魔法にかかったまま、夢見心地でただただ読み耽る。隠された教訓などお構いなしに、物語に浸りこめばいい。声高に語らないやわらかな語り口に、自然と心地よく揺さぶられればいいのだ。ただただ読み耽り、感じる。そして、感じたままに受け取る。きっと読書というのは、それでいいのだと思う。物語を心から気の向くままに楽しむ。その自由に、その幸福に、身を委ねればいい。

 とりわけわたしが好きだった「ひとりだけれど七人」という話は、ひとりの男の子と出会って、その子は一人だけれど実は七人だったという物語である。ローマにもパリにもベルリンにもモスクワにもニューヨークにも上海にもブエノスアイレスにも男の子はいて、七人は一人に違いないから、戦争はできなかった…というもの。ここには、ひそやかに平和への祈りと、この物語に限らず、すべての物語がわたしたちであり、著者ロダーリであり、一人は全員であることを示している。全員は一人。どんなに心細くても、一人じゃない。冷たい風が吹こうが、雪が降ろうが、雨が降ろうが、わたしたちは一人で全員。そんな愉快なユーモア溢れる心あたたまる発想もロダーリならではのものである。

4062149710パパの電話を待ちながら
内田 洋子
講談社 2009-04-07

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コメント

良いですねこういうの。最近ホンワカした話に飢えているので、是非読んでみたいと思いました。

あと、お散歩中の猫が可愛い。何を見ているんだろうcat

投稿: ピコポン堂 | 2009.05.01 13:08

ピコポン堂さん、コメントありがとうございます!
とても読みやすい本なので、ぜひ手にとって見てください。
気に入ってもらえたら嬉しく思います。

猫…何を見ているのやら。
老猫なのでたそがれているかもしれませぬ。

投稿: ましろ(ピコポン堂さんへ) | 2009.05.01 20:50

こんにちは、ましろちゃん。

ロダーリは、好きとか嫌いとかを超えちゃって
惹きこまれてしまうので。。。
なかなかこっちの世界に戻ってこれなくなってちょっと困る作家さんのひとりです(笑)
でも、ましろちゃんのレビューを読ませてもらうと
読みたくてウズウズ。。。(笑)

引っ越し先決まったらすぐにお知らせにきますね~。
しばらく書いてないので、本の記事を書くのに悩みそうです(笑)

投稿: nadja | 2009.05.03 10:42

nadjaさん、コメントありがとうございます!
ロダーリ。お好きなのですね。
わたしは初ロダーリがこれでした。
確かに物語に魔法がかかっているみたいに、
こちらの世界に戻ってくるのが大変な感じかもしれませぬ。
とっても面白かったです♪

引越し先決まったら、ぜひ教えてくださいませ~。
また遊びに行きますね。

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2009.05.03 17:47

ましろさま
私はこの本を担当した編集の飯田と申します。
今、必死のプロモーションを展開しておりまして(笑)、こちらのサイトを発見して感涙にむせんでおります。
私がこの本(旧訳)に出会ったのは、3歳のころです。当時私はもちろ、母に読んでもらっていました。子供の頃のお気に入りは、バター人でした。
多くの方に、ロダーリのメッセージが(さりげなく)伝わればと願っています。
ありがとうございました。

投稿: 飯田陽子 | 2009.05.13 14:34

飯田さま、コメントありがとうございます。
まさか編集者の方が読んでくださるとは思ってもみず、
こちらもとても感激しております。
わたしにとっては初めてのロダーリ作品との出会いだったので、
このようにして新しい訳で読めることをとても嬉しく思います。
多くの方に読まれ続ける本になればよいですね。
こちらこそ、どうもありがとうございました!

投稿: ましろ(飯田陽子さんへ) | 2009.05.13 19:59

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