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2009.05.03

バウンド―纏足

20090326_016 光りの射す方へ。射す方へ。その道しるべは、何かが不思議な力で導いてくれる。あるべき道へと。たどり着くべき道へと。自然と誘ってくれるものなのかもしれない。そうして、万物には陽の部分と陰の部分がある。陽の部分だけでもいけない。陰の部分だけでもいけない。相反するふたつの部分を持っているのが人間という生き物なのだということ。そのバランスを保ちながら、人は存在しているということ。ドナ・ジョー・ナポリ著、金原瑞人・小林みき訳『バウンド 纏足』(あかね書房)を読んでいると、そのことを改めて感じさせてくれる。昔から伝わる話を下敷きに独特の解釈で物語を構築する著者の中国版シンデレラは、纏足の風習と明の時代背景とで、思わぬ展開となっている。

 幼い頃に母親を亡くし、父親も亡くし、継母と姉と暮らす、シンシン。姉は、良家に嫁がせようと無理な纏足をさせられているせいでほぼ寝たきりの生活。継母も纏足だから、家事の一切をシンシンに任せ、友達と遊ぶ暇もなければ、始終機嫌の悪い継母の言うなりになっている。そんな中、シンシンの慰めとなっていたのは、水汲みのときに見つけた泉にいる美しい鯉とふれあうことや書を書くこと、詩を詠むこと。亡くなった父からの教えを忠実に守り、古き教えを学び新しいことも知るような、そんな向上心に満ち満ちた少女である。シンシンという名前には、“光り輝く”という意味があって、まさにその名前にぴったりな主人公。健気だけれど、賢くて、待つだけ少女ではないところがいい。

 シンシンが意地悪な継母や継母を信じきって言うなりの姉との貧しい生活から逃れる日は来るのか…?というのが、「シンデレラ」のお約束のラストで彩られるわけだが、そこはやはりドナ・ジョー・ナポリ。すんなりラストまで行き着くかと思いきや、一癖も二癖もある展開を用意してくれている。読み手は「シンデレラ」と聞くと、あっさりとお迎えがきて、ぴったりの靴をはいて、めでたしめでたしで終わるかと思うもの。けれど、シンシンは賢い。皇太子さまの申し出にあっさりOKをするわけではないのだ。そこが、シンシンらしい用心深さと思慮の深さ。読み手が「シンデレラ」の結末を知っているだけに、決して感動的なあっと驚くラストではないものの、胸に響くような終わり方である。

 それは、そっと虹の橋がかかったような、人と人とが信頼というかたちで繋がってゆく在り方。それがなんとも素敵でうっとりとしてしまう。人と人とが結びつくその瞬間を目の当たりにするわたしたち読み手は、幸運である。そして、光りの射す方へ。射す方へ。その道しるべは、何かが不思議な力で導いてくれるのだと悟る。あるべき道へと。たどり着くべき道へと。自然と誘ってくれるものなのかもしれない。そうして、万物には陽の部分と陰の部分がある。陽の部分だけでもいけない。陰の部分だけでもいけない。相反するふたつの部分を持っているのが人間という生き物なのだということ。そのバランスを保ちながら、人は存在しているということ。それをしんみりと知るのだった。

4251066626バウンド―纏足 (YA Dark)
Donna Jo Napoli 金原 瑞人 小林 みき
あかね書房 2009-03

by G-Tools

 ≪ドナ・ジョー・ナポリの本に関する過去記事≫
 ・『逃れの森の魔女』(2008-10-30)
 ・『わたしの美しい娘―ラプンツェル』(2008-12-02)


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コメント

私は中学生です。

この本で読書感想文をかきました。
 
なるほど・・・とおもいながら読ませていただきました。

投稿: 澪♪ | 2010.01.03 11:49

澪♪さん、コメントありがとうございます。
一癖ある物語で感想文を書かれたのですね。
お疲れ様でした。

わたしにとってドナ・ジョー・ナポリは、
今後もっと読んでみたい作家さんの一人です。

投稿: ましろ(澪♪さんへ) | 2010.01.03 14:01

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