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2009.04.21

昨日のように遠い日 少女少年小説選

20090415_022 少女だった時間や少年だった時間はもはや取り戻すことができない。それを今、大人になって改めて気づく。わたしはいつから少女でなくなったのか…その境界は曖昧だけれど、確かに今それを失ってしまったことを自覚する。けれど、本を開けば見えてくる。あの頃の日々の記憶、あの頃感じた葛藤、あの頃感じた衝動…さまざまな思いがよみがえってくる。柴田元幸編『昨日のように遠い日 少女少年小説選』(文藝春秋)には、かつて少女だった、あるいは少年だったわたしたちの面影をしのばせた物語が15篇も並ぶ。あの頃を思わせる物語の数々は、自分の中に今もなお住む少女の心を、あるいは少年の心を呼び起こしてくれること間違いなしである。昨日のように感じる、遠い日の記憶を。

 収録された作品の作家人は、バリー・ユアグロー、レベッカ・ブラウン、スティーヴン・ミルハウザーといった有名な面々から、ウォルター・デ・ラ・メア、ロシアのダニイル・ハルムス、アイルランドのマリリン・マクラフリン、イタリア出身のアルトゥーロ・ヴィヴァンテ、ボスニア出身のアレクサンダル・ヘモンら。はじまりのバリー・ユアグローの「大洋」のいかにも彼らしい奇想天外さや哀しみが心地よく、続く幼少期の思い出を切なくもほろ苦く描くアルトゥーロ・ヴィヴァンテの「ホルボーン亭」や「灯台」もなかなか面白い。少女期の危うくも難しい頃を描いたマリリン・マクラフリンの「修道者」も独特。トムとジェリーを思わせるミルハウザーの「猫と鼠」も緻密で愉快である。

 とりわけ印象的だったのは、レベッカ・ブラウンの「パン」。レズビアン小説のアンソロジーにも収録されているというこの作品は、寄宿学校での生活が描かれている。カリスマ的存在の女学生の<あなた>をひたすら見つめ続ける語り手。<あなた>が食事のたびに手にする2種類のうちのひとつの全粒粉入りのパンは、皆が<あなた>を意識して、最後にそれを残しておいた。そして、誰とも一定の距離を保ち続ける<あなた>。その<あなた>を誰よりも知っていると自負する語り手。そんな<あなた>を取り巻くほかの生徒たちが描かれ、そんな中で起こる出来事の結末がなんともひそやかに胸に響く。悲しく、虚しく、絶望的に。女子だけの世界ならではの物語がここに展開している。

 このような物語たちが一冊の本として読めることは、本当に幸せなことだと思う。現在の少女少年たちが、もしもこの本を手にしていたのなら…と思うと、ちょっぴり悔しさが浮かぶ。こんなにも斬新で、こんなにも奇想天外で、こんなにも謎に満ち満ちた世界を若い日に読めるのだから。けれど、かつて少女や少年だった大人になった今だからこそ、わかる部分も大きいだろうと思う。どこか懐かしくも新鮮で、新しい何かを見つけられる気もするのだ。本を閉じたとき、きっと誰もが思うことだろう。ああ、これはわたしの少女時代、あるいは少年時代の感覚であったと。昨日のように遠い日の記憶は、手を伸ばせばすぐ傍にあったのだと。ここにもあそこにも。あちこちに散らばっていたのだと。

4163275207昨日のように遠い日―少女少年小説選
柴田 元幸
文藝春秋 2009-03

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コメント

ましろさん、こんにちは♪

わあ、この本は面白そうですね。
ぜひいつか読んでみたいと思います。
大人になって、忘れかけていたものを、
思いがけず本の中で見つけたときって、
懐かしくて寂しいような、なんともいえない気持ちになりますよね。

今日の猫ちゃんの写真もいいですね^^
まるで人がお花を愛でながらお散歩するように歩いているのが可愛いです。
お花は牡丹かな~綺麗ですね♪

投稿: もろりん | 2009.04.21 12:48

もろりんさん、コメントありがとうございます!
はい。とっても面白かったですよ。
柴田さんのセレクトは一癖あるのですが、
そこがまたなかなかよかったです。
もろりんさんも幼き頃の記憶と対面してみてくださいませ。

花はそう、牡丹です!
今が咲き時ですね。我が家の牡丹は満開です。
猫写真、ちょっとは上達しているとよいのだけれど、
なかなかうまく撮れませぬ。

投稿: ましろ(もろりんさんへ) | 2009.04.21 14:43

ましろさん、こんにちは!
私もようやく読みましたのでTBさせていただきました。
いや、ほんと素敵ですね。
短編集が苦手とは言っても、これは全然大丈夫でしたよ。
きっと短編の方が長編よりも点数が辛く、というか
好みが煩くなりがちなんですね、私。
今回は、柴田さんの一癖あるセレクトがツボでした♪

「パン」は本当に印象的でしたね。
女子校出身なもので、あの雰囲気がものすごく身にしみます…
胸が痛くてドキドキしました。

投稿: 四季 | 2009.05.13 17:43

四季さん、コメント&TBありがとうございます!
本当にいいセレクトの短編ばかりでしたよね。
柴田さんはさすがですー!と思わせる作品ばかり。

「パン」は確かに雰囲気が身に沁みました。
そういうわたしも女子校出身なのですっ!!!
ホント胸がドキドキしましたよね。
あの感じは女子校ならではのものなのでしょうね。きっと。
男子校は男子ならではのドキドキがあるのかもしれないけれど。
レベッカ・ブラウンの作品をもっと読んでみたくなりました。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2009.05.13 20:06

ましろさん、こんにちは♪
ちょっとごぶさたしております。
この作品集いいですよね。

私は感性があんまり豊かじゃないので、ダニイル・ハルムスの詩に関しては何回読んでも良さがわからなかったのですが(汗)、それ以外の部分はほぼすくい取ることが出来たとホッとしております(笑)

私もベストは「パン」ですね。
ちなみに私は男子校です
レベッカ・ブラウンの文庫本一冊積んでるので早く読まなくっちゃと思いました。

巻末の柴田さんの説明も凄く丁寧でわかりやすかったですね。

女性が読まれたらほとんどの方が楽しめるんじゃないかな。先に“少女”がついている私なりの回答です(笑)

投稿: トラキチ | 2009.06.08 14:09

トラキチさん、コメントありがとうございました!
ホント、この作品集はよいですよね。
やはりベストは「パン」ですか。
このままレベッカ・ブラウンの多くの著作に、
どっぷりとふれていただきたい気がします。

抑制された訳が、本当に素晴らしくて、
さずがは柴田さんだわぁと思ったわたしです。
只今『私たちがやったこと』を読了。
そのうち新刊の『犬たち』も読んで、
レベッカ・ブラウンを耽読したいなぁと、
ひそかにたくらみ中です。

投稿: ましろ(トラキチさんへ) | 2009.06.08 15:49

ましろさんこんにちは♪
「昨日のように遠い日」を読み終えました。
もうすごく良かったです~~。

どの作品も個性的で素晴らしかったけれど、
私もましろさんと同じく「パン」が一番印象的でした。
レベッカ・ブラウンってすごい~。
「体の贈り物」しか読んだことがなかったのですけど、
今すぐこの人の作品をゴソっと図書館で借りてきたいです。笑。

素敵な作品を教えて下さって
本当にありがとうございました(^^)

投稿: もろりん | 2009.07.03 18:04

もろりんさん、コメントありがとうございます。
とうとう読まれたのですね!
ものすごく良かったとのこと、ほっと安堵です。

やはりレベッカ・ブラウンの「パン」は、
強烈な印象を残しますよね。
「私たちがやったこと」も「家庭の医学」もよいので、
ぜひぜひゴソっと図書館で借り出しちゃってくださいませ。
素敵な読書時間をお過ごしください。

投稿: ましろ(もろりんさんへ) | 2009.07.03 18:46

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