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2009.04.24

ねこに未来はない

20090403_002 わたしの傍を通り過ぎていった猫たちのことを、ふと思い返してみる。つかず離れずの距離を保った猫もいれば、べったりと懐いた猫もいた。払っても払ってもしがみついてくるほどに人間好きな猫もいた。人間慣れした猫たちは、触られるのをよしとして、ときどき魅惑のポーズでわたしをくらくらさせた。人間同様にして、十人十色。10匹飼えば10通りの猫がいて、個性があって性格があることを知った。そんな猫に魅了されたわたしが“ねこ”と名のつく本を読まないわけにはいかない…ということで、長田弘著『ねこに未来はない』(角川文庫)をようやく手にした。一見、怖いタイトルの本だが、読んでみて納得。するりするりと読ませてしまう。猫の魅力を存分に語っている本である。

 この本によれば、猫という生き物には脳内の未来を知覚する部分が未発達であって、自分の将来に希望を抱くことがないという。そのかわりに、先々に対して心配や不安を感じたりすることもないそうで、猫にとっては“今”しかないということになる。つまり、猫と生きてゆく、暮らしてゆくということは、そんな刹那のひとときを一緒に過ごすということになる。そんなことを踏まえた上で、猫と暮らす日々を思い返してみると、いろいろ感慨深いものがある。隣りでスヤスヤ眠る愛猫が、とてつもなく愛おしく思えてくる。先のことを何も考えないこの生き物は、今を全うするべくして生きているのである。ただ今を、この瞬間を、わたしといると選んでくれたことが奇跡ではないかと思わせる。

 それまで猫嫌いを通してきた詩人である著者は、猫好きの女性と結婚してしまい、仔猫を迎え入れるために、引っ越しまですることになってしまう。子どもがまだいなかったこともあり、夫婦共々猫に夢中になってしまう。けれど、猫のことを何も知らない二人だけに、飼う猫を次々と行方不明にしてしまったり、死なせてしまったり…読んでいて心が痛む場面もちらほらある。けれど、四苦八苦しながら、それでも懸命に猫を育ててゆく様子をあたたかに綴った文章は、愛情に溢れんばかりで、読み手の心にすとんと届いて響いてゆく。猫のためなら、貧しくたってなんのその。猫なしの暮らしなんてもはや考えられないわたしには、共感を呼ぶ言葉や思いとたくさんめぐり会える本なのであった。

 表題作と「ねこ踏んじゃった」「わが友マーマレード・ジム」の3章からなるこの本。とりわけ、猫の本に魅せられてしまった著者について語られた「わが友マーマレード・ジム」が印象的に最後をまとめ上げている。この中で、『長距離走者の孤独』で有名なアラン・シリトーの書いた絵本『マーマレード・ジムの華麗な冒険』との出会いを思う存分語っているのだが、思わず前のめりになって読み耽っている自分にはたと気づく。ああ、我慢できない。読みたい。ぜひとも読んでしまいたい。こういう猫本への情熱を再燃させる本との出会いは、たまらないものがある。スヤスヤ眠る愛猫を横目に、読書に耽る喜びったらないのである。これまで出会ったすべての猫たちに感謝しつつ、また読み耽る。

4041409020ねこに未来はない (角川文庫 緑 409-2)
長田 弘
角川グループパブリッシング 1975-10

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 ≪長田弘の本に関する過去記事≫
  ・『人生の特別な一瞬』(2008-03-11)
  ・『人はかつて樹だった』(2008-03-18)
  ・『記憶のつくり方』(2008-04-12)
  ・『死者の贈り物』(2008-04-15)
  ・『幸いなるかな本を読む人』(2008-12-10)

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