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2009.03.02

ハブテトル ハブテトラン

20090223_020 心地よい爽快な風が吹く。風をきって懸命に走るときのあの感じ。自転車で上り坂を越えて、ようやく下ってゆくときのあの感じ。そういう爽快感が、小学五年生の男の子の視点で清々しく描かれてゆく、中島京子著『ハブテトル ハブテトラン』(ポプラ社)。“ハブテトル”とは、備後弁で“すねている”とか“むくれている”とかいう意味があるらしい。そして“ハブテトラン”とは、その否定形なのだそう。少年の心の動きが、そのナイーブな手触りがつぶさに伝わってくる。また、人のぬくもりや心の通ったコミュニケーションが恋しくなる。人って、こんなにも愛おしい。人と人って、こんなふうにも触れ合える。そんな当たり前ながらにも忘れがちな気持ちを思い出させてくれる。少年の語る日々の数々の出来事は、子ども時代に置いてきた何かを教えてくれた気がする。

 物語の舞台となるのは、広島県福山市松永地区。東京の小学校で学級委員をしていたダイスケは、担任から学級崩壊に近い状態のクラスの責任を押し付けられてしまう。そんな状況下でいつしか学校から足が遠のき、ストレスを溜め込んでしまう。そんなダイスケを見かねた両親は、祖父母のいる松永に夏休みから二学期の間だけでも転校させようと決める。ところが、広島空港に一人降り立ったダイスケを待っていたのは、ケガをした祖父に代わってやってきた風変わりなハセガワさん。そこからなんとも青春な日々がはじまってゆく。転校先の友だちとの“ゲタリンピック”参加やダイスケに好意を抱いているらしい少女との“プリントップ”を食す場面もいい。でも、なんといっても、一緒に学級委員をしていた少女の引越し先に会いに行く自転車での遠乗りが一番沁みた。

 ダイスケがずっと気にかけていたこと。それは、自分が負った心の傷や自分自身のことではなく、一緒に学級委員をしていた少女が自分のせいでぶちきれてしまい、転校にまで至ってしまったということだったのだ。少女とは幼馴染みでもあり、そっけなくなってしまったまま離れ離れになっていたことが気になっていたのだろう。だから自転車でひた走る。福山から今治まで。何時間もかけて。ただひたすらに。少女に謝るために。でもいざ再会してみると、この年代っていうのは、やはり女子の方が断然大人びている。そのあたりもリアルに描かれているから、なんだか“頑張れダイスケ!”って、応援したくなる。読みながら、もう心は小学五年の少年気分。淡くも儚いゆれる気持ちが、また味わい深い。方言も自然描写もダイスケという少年を光らせてくれているのだ。

 この物語の何がいいかと一言で言うならば、直球のストレートであるということ。少年の成長を感じながら、ゆっくりではあるけれど目の前にある問題にぶつかってゆこうともがきあがく姿がいいのである。青春ど真ん中。まだまだ子どもであるような、大人の入り口にいるような、どっちつかずの年齢のおぼつかない足取りや気持ちが感じられていいのである。ダイスケの3学期はわからない。何も問題は解決していない。けれど、夏休みと2学期を過ごした松永での日々が何らかの糧になっただろうことは確かである。もちろん、今治までの遠乗りが自信をつけたことも確かである。一見、むちゃくちゃなキャラクターのハセガワさんや魔女と呼ばれているオオガキ先生をはじめ、たくさんのあたたかな人たちとの触れ合いがダイスケの心を癒し、成長させてゆく。強く生きて欲しい。これからもこの先ずっと。そう願わずにはいられない。とにもかくにも爽快な物語だった。

4591107124ハブテトル ハブテトラン
中島 京子
ポプラ社 2008-12

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コメント

ましろさん、こんばんは♪
TBさせていただきました。
いや~、この作品も良かったです。
まだ2冊だけどはずれないですね。
安心して読めるというか、話のツボを抑えているというか。
文章自体も読みやすいし満足です。
今治へ自転車こいで会いに行く場面が本当に手に汗握りました。
3学期から広島での貴重な経験を生かしてなんとか東京で頑張ってほしいですね。

本当に小学高学年から中学ぐらいまで女子の方が大人びてますよね。

次の中島さんは『エ/ン/ジ/ン』の予定です(笑)

投稿: トラキチ | 2009.03.25 19:48

トラキチさん、コメント&TBありがとうございます!
中島京子さんの作品、かなり気に入られたご様子ですね。
この作品は本当に話のツボ、抑えてますよね。
盛り上がりもあるし、青春していて、なんともよいです。
今治へ向かう場面には、わたしもドキドキでした。
今後のダイスケが気になりますよね。
それにしても女子。大人でしょう?(笑)
このくらいの年頃は、女子の方が上手です。

『イトウの恋』にも、ぜひ挑戦して欲しいです!
これはなかなか手強いかもしれませんが。オススメです。
『エ/ン/ジ/ン』はわたしもこれから読もうと思っています。
楽しみです。

投稿: ましろ(トラキチさんへ) | 2009.03.25 20:05

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中島京子著作リストはこちら <小学5年生の少年の心の溝を軽妙なタッチで描いた秀作。> 中島京子さんの2冊目は少年少女小説。 一応、一般書の分類であろうが実際は小学高学年ぐらいから読める。 ちょうど主人公の大輔ぐらいの年齢からかな。 版元のポプラ社らしい作品だと言えそうですね。 でも一筋縄ではいかないのが本作。 主人公で小学5年生の大輔が東京を離れて広島に来たいきさつが泣けるというか重要となっているのですね。 学級崩壊の状態のクラス委員を押しつけられ、その結果喋れなくな... [続きを読む]

受信: 2009.03.25 19:40

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