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2009.03.26

生きのびろ、ことば

20090326_007 ことば。それはときに人を傷つけ、傷つけられる魔物。ことば。それは、ときに人の心をあたたかにも幸せにもする魔法。ことば。それは、今となっては、人が生きる上での必要不可欠なコミュニケーションツールのひとつ。そんな魔物にも魔法にもなり得ることばについて、ことばのプロフェッショナルである詩人たちがことばの問題について考察した、小池昌代、林浩平、吉田文憲・編著『生きのびろ、ことば』(三省堂)。13名による現代詩人と共に、読みながらことばとは何ものか、その正体を探るべく読んだ一冊である。ことばと笑い、文語、エロス、肉体、挨拶、間、方言、死語、まじない、翻訳、ネット詩まで…様々な視点でことばというものに立ち向かう現代詩人の考えに、思わず前のめりになる。

 中でもわたしが心惹かれたのは、吉田文憲による「方言」についての章。以前、わたしは自分の故郷の方言が嫌でたまらなかった。方言を知らずに育ったわたしは、幼稚園から地元の保育園に転入したときに、方言を話せないという理由で仲間に入れてもらえなかった記憶がある。標準語=気取っている都会人という構図が、田舎の子どもには根深い。祖父に方言の辞書で調べてもらいながら、話す練習をした5歳児だったわたし。今となっては懐かしい思い出だが、わざわざ方言を勉強するなんて、思えばおかしな体験である。吉田氏は方言とは、“母語、生地の言葉”と言いつつも、“懐かしい郷愁の対象ではない”と言う。“母語を求めて、むしろそこからの追放を生きる”とは実に興味深い言葉である。

 祖父が亡くなった今、わたしにとっては懐かしさを伴うものでありながら、本当の方言を知らないゆえに、吉田氏の言う意味とはまた違った追放の中を生きている。祖父が教えてくれたことば。理解できなくとも、そこにはほんのりとあたたかなぬくみがあった気がする。自分のことばをさがすとき、こうした幼少期の記憶や今まで出会った人々のことばが脳裏をよぎってゆく。方言を持っていることは、もうひとつの言語持っていること。もうひとつの世界を知っていること。自分とは一体何者であるのか。そのルーツはどこにあるのか。そして、自分が今どこに立っているのか。それを指し示す指標のようなものでもあるような気がするのだ。だから、方言をほとんど持たないわたしの世界は狭く乏しい。

 また、小池昌代さんによる「言葉とエロス」も興味深い。人はことばを持っているけれど、自然はことばを持たない。けれど、そこにはことばの予感を充分に含んでいる。そこには意味がある。そして、ことばが生まれる可能性を秘めている。そして、ああことばはここから生まれたのではないか…と思うわけである。人はことばのある世界とない世界との瀬戸際を歩いて、ことばを紡ぐのかもしれない。人はことばによって傷つき、傷つけられて生きている。だからときどき自然にふれて、ことばに頼らずに伝わる何かを感じる時間も必要なのかもしれない。“あうんの呼吸”とでも言おうか。ことばなしでもつながれる関係は、わたしの理想だ。そうして、感じるままに身をたゆたわせてみたいと思う。

4385363811生きのびろ、ことば
小池 昌代
三省堂 2009-01

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コメント

僕は小学上級のころ関東→関西だったので、方言のことでは苦労がありましたね。おかげさまで図太くなったので、今では感謝しているほどですが(笑)。

氏の「母語を求めて、むしろそこからの追放を生きる」と言う言葉は、人によって解釈が違えて良いかもしれませんね。僕は当に「追放を生きた」人なので、言葉に寛容になれたかもしれません。

投稿: Pepe | 2009.03.26 12:06

Pepeさん、コメントありがとうございます。
関東圏から関西圏だったら、すごく苦労されてますね。
わたしなんかよりもずっーと!

氏の言葉は、たぶんわたしの解釈が間違っていると思います(苦笑)
でも、そこだけ切り取ってみると、いろいろな解釈ができるから、
言葉の力ってすごいですよね。
寛容なPepeさんが、この本のどこに着眼するか知ってみたい気がします。
ちなみに、少し前にレビューを書いた『やさしい現代詩』と合わせて読むと、
詩人たちの個性がわかってなかなかよいです。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2009.03.26 16:14

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