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2009.02.16

肩胛骨は翼のなごり

20090214_4004 すーっと心が洗われて、ひたひたと何かを残してゆく。染み入ってゆくのは夢とも現実ともつかぬような不思議な心地。すべてが夢だったのか。それともすべて本当の出来事だったのか。ぼんやりした気持ちを抱えたまま思うことはただひとつ、“嗚呼、甘(うま)し糧”ということ。こういう物語こそ、わたしの糧となるのだということ。デイヴィッド・アーモンド著、山田順子訳『肩胛骨は翼のなごり』(創元推理文庫)には、子どもの頃思い描いたような夢の世界が広がっている。夢か幻か。はたまた現実か。透明感に満ちた文体と繊細な描写で綴られる物語は、読み手の遠い日の記憶を呼び起こし、童心に返らせる。すべてを信じ、すべてを夢見て、絶望を知らなかったあの懐かしき日々のことを。

 新しい家に引っ越してきたばかりの10歳のマイケル。サッカーと作文の得意な少年だ。引っ越したと言えども転校する必要もなく、バス通学に冒険心を掻き立てられる日々が始まるはずだった。けれど、生まれたばかりの赤ん坊の妹は重い病気を抱えて入退院を繰り返し、両親やマイケルの気持ちを悲しみにくれさせた。引っ越してきたばかりの家には古いガレージがあり、ある日マイケルは立ち入りを禁じられていたにもかかわらず、足を踏み入れ、そこでクモの巣や青蝿の死骸にまみれた不可思議な生き物を見つける。テイクアウトの中華料理とアスピリンとブラウンエールを要求する彼(スケリグ)の命を助けようと、隣人の風変わりな少女ミナと共に奮闘してゆく様子を描く物語である。

 この少女ミナが、何とも魅力的な人物である。“学校教育は子どもの自然な好奇心や、創造性、知性を抑制する”と考えている親の元に育ち、木登りが得意。鳥にめっぽう詳しく、絵がとびきり上手。そして、物語の端々でウィリアム・ブレイクの詩を朗読するのだ。ありきたりな常識にとらわれない彼女の存在は、生命力に満ち溢れ、この物語にとってはなくてはならない存在と言えるだろう。もちろん、少女ならではの幼い部分もときどき垣間見られ、何とも可愛らしい。妹の病状を案じ、スケリグを助けたいというマイケルの力強い相棒となるのである。ふたりの真っ直ぐな目が見たスケリグの存在は、様々な困難な状況下で物事を静かに見る目を持つことを教えてくれているようにも感じられる。

 スケリグ。一体、彼は何者だったのか。謎めきは謎めきのまま物語は進んでゆく。スケリグは人間の姿形をした生き物ながら、翼を持つ生き物。天使のような、それでいて悪魔のような、俗っぽさも秘めた、まさに“不可思議な存在”である。様々な物事に疲れた現代人の心の内面を象徴したような、スケリグ。夢か幻か。はたまたすべてが現実に起こったことなのか。その曖昧模糊とした部分にこの物語の魅力があるように思う。そして、マイケルという少年の目を通じて描かれるこの物語が煌めいているのは、弱き存在や小さきものへのあたたかなまなざしと、慈しみ、友情、家族の絆などが描かれているからでもある。このひたひたした読後感をいつまでも大切にしまっておきたい。

4488543022肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)
デイヴィッド アーモンド David Almond
東京創元社 2009-01-22

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≪デイヴィッド・アーモンドの本に関する過去記事≫
  ・『ヘヴンアイズ』(2007-10-24)


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コメント

ましろさん、こんにちは!
さきほどTBさせていただきましたが届きました?

スケリグは本当に“不可思議な存在”でしたね。
何だったんだろう? と思いつつ
それは重要なことではないのかも、とも思ったり…
そしてミナが魅力的でしたね!
ミナのお母さんの場面もとても素敵だったので
2人の場面をもっと読みたかったです。

ましろさんの一押しがなければ読めなかったと思うので
とっても感謝です。ありがとうございます。^^
感想はなかなかまとまらなくて苦労したんですけどね。
って、苦労した割にまだまとまってないんだけど…
まあ、これでいいことにします。(笑)

投稿: 四季 | 2009.03.16 19:44

四季さん、コメント&TBありがとうございます!
ちゃんと届いてますよ♪ご安心ください。

スケリグは本当に不可思議な存在ですよね。
ファンタジーならではの登場人物だと思いました。
そう!ミナは凄く魅力的でしたね。
そして、ミナのお母さんのような子育ても素敵!
日本ではこういう教育って実践するのが難しそうだけれど、
なんだかとても憧れてしまいました。
情操教育って、こういう感じで培われてゆくのかな…なんて思ってみたり。

四季さんがこの本を手にすることができてよかったです。
わたしも文庫化するまではなかなか手にできなかったものですから。
実はファンタジーは苦手分野だったりします。
でも、不思議と読んでしまうと読めるものですね。
四季さんの感想、楽しみに読ませていただきますねー。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2009.03.17 06:14

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