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2009.01.18

太陽の涙

20081021_014 全体を漂うどうしようもなくやるせない悲しみは、幻想的で美しくも胸にいつまでもこびりつく。少数は多数に巻かれて負けてしまう。いつだって。正しい正しくないにかかわらず。そんなわたしたちの暮らしに深く根づく社会の在り方を風刺しつつも、清冽な雰囲気を壊さずに進む詩的な物語、赤坂真理著、大島梢画『太陽の涙』(岩波書店)。あたたかな海のただなかにまかれた、星座のような群島のかたすみの小さな島に暮らす<僕>の語りによって展開されてゆく。太陽から生まれた<僕>らの元に、ある日“西の鷲”の軍隊がやってきて、それを阻止するために島の秘密と引き替えに、“東の龍”と手を結ぶことによって島は生き延びる道を選ぶ。だが、その結果起きてしまう悲劇…それは誰にも止められやしなかった。

 物語は、島独特の古くから伝わる成人の儀式や、<僕>の恋、繰り返し響きわたる古の歌…などなどを通じて、死者も生者も等しく死を経て生み出されることを伝えてくる。<僕>らが、月から吐き出された一人の男によって、ここにあることを。また、太陽から生まれたことを。したたり落ちるように生まれたわたしたちの生。それは、まぎれもなく物語ならではの神話と言っていい。けれど、そうしてわたしたちがこの世に生まれ落ちたのだとしたら、一緒にしたたり落ちたものは、わたしたちに必要不可欠なものたちに違いない。タイトルに込められた“太陽の涙”の意味するところを知ったときの瞬間の心のざわめきは、わたしという存在の危うさをそっと肯定してくれているようでもある。

 この物語は、“文学とビジュアルが切り結ぶ、おとなたちへの贈り物”と題された、Coffee Booksシリーズのうちの一冊。島のまぶしさと闇を描きながらも、徹底したほどの清冽さを保っていられるのは、淡々と紡がれる詩的な文章の他に、物語のイメージを広げる視覚的な部分も大きいと思う。とにもかくにも緻密に描かれる画の数々には、ページをめくるほどにため息をつくほど、うっとりさせる魅惑が溶け込んでいるのだ。そして、ほのかな毒気をも含む。どの画も物語をリアルにも幻想的にも、読み手の想像をふくらませてくれる。見事なコラボレーションだと唸らざるを得ない。画が文章を引き立て、文章が画を引き立てる。なんとも心憎いまでに計算し尽くされた一冊のように思ったわたしだ。

4000281739太陽の涙 (Coffee Books)
赤坂 真理
岩波書店 2008-12

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