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2008.12.04

殴られた話

20081203_010jpg_effected 我慢なさい。我慢なさい。我慢なさい。そう頭の中で言葉がこだまする。圧倒せんばかりの息苦しさの中には、押さえきれない感情が渦巻いている。憎しみにも似た愛情、強く根をはる怒り、癒えることを知らない悲しみ…それはどれもこれも心を痛めるに充分なわたしをつくり出す。それでも、我慢なさい。我慢なさい。我慢なさい…そう繰り返し言葉はわたしを支配する。平田俊子著『殴られた話』(講談社)には、どうしようもない男たちを愛してしまった女たちの心の葛藤が細やかに描かれている。表題作「殴られた話」「キャミ」「亀と学問のブルース」と三つの物語を収録しているが、どの女性もいずれもダメな男たちを憎みきれずに、忍耐を強いられる。我慢なさい。我慢なさい。我慢なさい、と。

 どうしてこうもダメな男たちを愛してしまうのか、我慢を強いられても耐えようと思えてしまうのか、三つの物語を読んでいるとほんの少しわかったような心地になる。いつのまにやら主人公の女性たちに寄り添っているのである。あの人(男)のことを本当に理解しているのはわたしだけだ。女性関係にだらしなくても、最後にはわたしのところに戻ってきてくれる。そんな過度な思いが少なからずとも浮気を許す女心というものだろうか。本当は別れた方がいいに決まっている。早く別れるべきだ。けれど、ずるずると相手のペースに巻き込まれて、ぐっと多くの言葉を呑み込む。別れてしまいたい。いや、別れたくない…そんな自問自答を繰り返しながら彼女たちは苦悩し続ける。忍耐の女たちである。

 表題作「殴られた話」は、決して後味のいい物語ではない。ある意味女たちの醜さ全開の物語である。いきなり殴られる冒頭からはじまって、そこに至る経緯が展開されてゆく。妻子のいる男である椎名をめぐって、女たちはそれぞれがそれぞれにかけひきのような付き合いをしている。主人公はこそこそとしか付き合えない自分の立場に悩み、椎名に言い寄られていると妄想する女の存在に悩み、そのことを椎名に言えないことに悩み、ついには“我慢しなさい”と言われてしまう。殴られたことも。何もかも。これまでのすべてを。これからのすべてを。殴られた痛みよりも、心の痛手の方が主人公にはこたえた。女への激しい憎悪、椎名への憎悪…それでも、前を見据えるしかすべのないことにも。

 「キャミ」「亀と学問のブルース」でもやはり主人公の女たちは悩ましげだ。やはりどうしようもない男たちに振り回されて我慢を強いられて、それでも憎みきれずに別れを惜しんでいる。何を目にしても、愛する男たちのことを思い出す。考える。愛さずにはいられない。別れてもなお、愛し続ける。忘れることなどできない。男性たちからみたら、こういう女性は都合のいい女、ダメな女に違いないのだが、それでも彼女たちの一途さには胸をきゅっと締めつけるものがある。結局は捨てられることがわかっていても、捨てられてもなお、言葉を反芻する彼女たちの思いの強さ、愛情の深さには頭が下がる。我慢なさい。我慢なさい。我慢なさい…わたしの中でも誰かの声が聞こえてくるような気がしてきた。

4062150409殴られた話
平田 俊子
講談社 2008-11-05

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コメント

>どうしてこうもダメな男たちを愛してしまうのか

僕も、女性にこの言葉を投げかけたい。。
(過ちを起こしたこともあるので、語る資格はないのでしょうが…)
ある意味、盲目的状態のように思えるので、少しでも自問自答して、本当の幸せとは何か納得できれば、それは本物なのではないだろうか。
女性を尊重したい。

※それにしても、本当に良く本を読まれますね。チェックしたものありますが、まだ読めていない。。今後も楽しみにしてます☆ありがとう。

投稿: かわちん | 2008.12.04 22:02

かわちんさん、こちらにもコメントありがとう!
そうそうそうなんです。
自分を棚に上げて、疑問が浮かんじゃうんですよね。
他人事だったり小説になっていたりすると、客観視できるのですが、
当の自分になってみると、盲目的になってしまう。
恋愛って、楽しい反面恐ろしくもあり、実に厄介な代物です。
女性を尊重できる男性って、とても魅力的だなと思います。

そして、お!チェックしてくださってるんですか?
ありがとうございます。
もし読まれた本があったら教えてくださいね。

投稿: ましろ(かわちんさんへ) | 2008.12.04 22:28

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