あなたはそっとやってくる
時間はわたしたちに寄り添っている。いつも。いつだって。けれど、わたしたちと一緒に立ち止まってはくれない。時間はそのスピードをゆるめず、ときには残酷に、ときには切ないまでに走り続ける。そうして、わたしたちは過ぎゆく時間の流れにあがきながら、日々を生きるしかない。ジャクリーン・ウッドソン著、さくまゆみこ訳『あなたはそっとやってくる』(あすなろ書房)は、そんなことを強く意識させられる物語である。そして、十五歳の少女と少年の甘くもほろ苦い初恋を描きながらも、アメリカ社会に深く根ざす問題点をも浮き彫りにする。人種差別、警察の暴力、愚かな人々の偏見。抑制の効いたモノローグ形式で描かれるこの物語を読んで、はっとする何かを感じずにはいられない。
ユダヤ系の少女エリーと、アフリカ系の少年マイア。十五歳の二人はニューヨークの進学校に、それぞれに家庭の事情を抱えて通っている。出会った瞬間から惹かれ合った二人は、あっという間に恋に落ちる。まさに“同じ魂の持ち主”である二人。けれど、人種差別などは昔のこととされながらも、二人が一緒にいれば学校で多くの人から目をそらされ、街ではエリーを心配する白人の老婦人から声をかえられたりする。そういう厳しい現実の中でも、二人はゆるがない思いを胸に秘め、懸命に思いを貫こうとする。そんな中、起こってしまう悲劇。それは、まさにアメリカ社会の抱える問題である。そして、それはアメリカという国に限らず、わたしたち一人一人の心の奥底に潜む偏見にも関わってくる。
物語の冒頭部分と作中にこんな詩がある。“木立を渡る風のように、そっと/あなたがやってくるなら、/きっと聞こえるでしょう、私に聞こえるものが。/見えるでしょう、悲しみの目に映るものが。/連なる朝露のように、軽やかに/あなたがやってくるなら、/私は喜んで迎え入れましょう/それ以上は何も求めないで”。作中では、マイアがエリーにセントラルパークで教えてくれる。マイアの母親が、よく読み聞かせてくれた詩なのだそうだ。この詩を聞いたエリーは、人は生まれてきたときから出会うべき人の方へと歩いているのかも知れない…と思う。誰もが一度は通過するまばゆいばかりの初恋。きっとエリーは出会うべくしてマイアと出会い、マイアも出会うべくしてエリーと出会ったのだろう。
さまざまな社会に深く根づく問題を扱いながらも声高に叫ぶわけでもなく、終始抑制の効いた文章で綴られる語り口は、この物語をより悲劇的なものにしている。十五歳という微妙な年頃、その年齢での初恋、そしてそれに纏わる喜びとそれを失う悲しみ、それでも止まってはくれない時間の流れの愛おしさと切なさ。それらはあまりにも儚くて脆い。時間はわたしたちに寄り添っている。いつも。いつだって。けれど、わたしたちと一緒に立ち止まってはくれないのだ。時間はそのスピードをゆるめず、ときには残酷に、ときには切ないまでに走り続けるのだから。そうして、わたしたちは過ぎゆく時間の流れにあがきながら、日々を生きるしかない。だからこそ、この瞬間をつかんで、走れ!
![]() | あなたはそっとやってくる Jacqueline Woodson さくま ゆみこ あすなろ書房 2008-03 by G-Tools |
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コメント
15歳の初恋…
自分はそんな多くのことを考えていたのだろうかと振り返る。。。
時の流れに負けない?ためには、行動するしかない。(動かないことも行動であるかもしれないけれど)動けば結果が残る。
投稿: かわちん | 2008.11.29 11:38
かわちんさん、コメントありがとうございます。
15歳の頃、わたしもこの物語の少年少女たちのようには、
あまり社会に対する問題について考えてはいなかったように思います。
自分の半径1メートルくらいのことに精一杯で(苦笑)
わりと自分の殻に閉じこもっていたかな。
もっと動いていたら、今とは違う未来が待っていたのかな…?
過ぎ去ってみれば、いろいろ感慨深いものがあります。
投稿: ましろ(かわちんさんへ) | 2008.11.29 17:52
本題と関係なくて申し訳ないのですが――またいくつか、写真を頂戴しました。壁紙にします。
投稿: ジン(舘守仁) | 2008.11.30 13:45
ジンさん、ご無沙汰しております!
こんな下手っぴ写真でもよろしければ、いつでもどうぞ。
大歓迎です★
投稿: ましろ(ジンさんへ) | 2008.12.01 10:28