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2008.11.16

花束

20080717_008 花のいのちは儚くて、だからこそ美しくて慈しみたくもなる。けれど、散ってしまえばその美しさも慈しみも、あっという間に脳裏から消え去ってしまう。あまりにもあっさりと。味気ないほどに。花びらを虚しく掻き集めては、手のひらで弄ぶだけだ。木村紅美著『花束』(朝日新聞出版)に描かれる、浪人生ばかりを集めた東京郊外の女子寮の少女たちもまた、そんな花によく似ている。そこに集った二十二人の少女たちは皆、大学受験という同じ目標に向かっているのに、一年後にはそれぞれの場所へ散ってゆく。合否判定の出る時期がまちまちであればあるほどに、親密だった彼女たちの関係はそっけなくなり、密な時間を過ごした日々は、あまりにも虚しく過ぎ去ってしまうのである。

 春夏秋冬にわかれ、四人の少女たちの視点で語られるこの物語は、東京に強い憧れを持ってやってきた永原あおい、亡くなった兄の思いを引きずりながら美大受験を目指す吉川咲、奔放な性生活を送りつつも常に予備校では成績トップの貴島礼奈、長く寮に居座り続けて同性愛漫画を書き続けている謎の多き松元多英らの、それぞれに抱える心情をつぶさに描いてゆく。女の子同士ならではのガールズトーク満載で、大人でもない、かといっても子どもでない微妙な年齢の悩ましさがなんだか微笑ましい。彼女たちの揺れ動くこころ、しがらみ、憧れ、危うさなどなど、いくらゆるい寮とはいえども、浪人生という宙ぶらりんの自分たちに対しての焦りと自嘲とが入り混じった複雑な思いが読みとれる。

 吉川咲は寮生から憧れるような容姿の持ち主なのだが、その胸の奥には仲のよかった兄の死という暗い翳りが潜んでいる。フランス語で檸檬水(檸檬とハチミツと炭酸で作るらしい)を意味する、シロトンプレッセというバンドを組んでいた兄の突然死。それも、メジャーデビューが決まった直後のことだった。咲は夜な夜な兄の夢にうなされる。また、一見派手に遊んでいるように思われている貴島礼奈もまた、重苦しい悩みを抱えている。女子寮内に恋人を連れ込んでみたり、予備校講師とつき合ってみたり。それでも、トップクラスの成績をキープできる彼女には、ある弱点があるのだった。松元多英は彼女なりに、自分のこれまでの日々と決着をつけるべく、もがきあがいている最中だったりする。

 もちろん悩ましい日々ばかりじゃない。楽しい時間だってあるだろう。誰かに言われた忘れがたい言葉もあるだろう。一年という短い関わり合いの中で得たものは、数限りなくあるに違いない。寮を出てからも続く関係は限りなくゼロに近いが、もしかするとどこかで繋がっているかもしれない。二月も半ばを過ぎれば、寮生の半分はいなくなる。どこの大学に受かったのかも、田舎に帰ったのかも、話題にしにくい。その中でもプレッシャーにうち勝ち、自分の道を見つけることがここに集った彼女たちの運命だ。彼女たちは目標に向かって進むためにここに集ったのだから。けれど、中にはやむを得ない事情があって、退寮してゆくものも少なくない。悲しいかな、それもまた彼女たちの道なのだろう。

402250496X花束
木村 紅美
朝日新聞出版 2008-10-07

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 ≪木村紅美の本に関する過去記事≫
  ・『風化する女』(2007-12-07)
  ・『島の夜』(2008-03-23)


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コメント

ましろさん、こんばんわ。

11月は頻繁に読書レビューを更新されているようで
体調は以前より良いのですかね。
同じココログ友としては記事を書く刺激にもなりますし、
ましろさんの体調も心配しています。

さて、この花束という本の内容
ちょっと興味惹かれます。

花のいのちは儚くて・・というくだりは結構有名なコトバだと思うし
歌やドラマにも使われたような気もします。

物語は浪人生を集めた女子寮にスポットを当て
4人の少女たちを花に見立て彼女たちの心の葛藤を描写しつつ
様々な人間模様を描いているようですが

同じ目的を持って集まった人たちでも、
各々の置かれている状況や付き合う人間によっては
あるいは目標や目的が達成もしくは消滅した場合
いとも簡単に縁も切れてしまう・・

現実でも有りそうな出来事を
シニカルに揶揄しているような気もします。

自分が九月の旅先で出あった70才くらいのおばさんが以前、某N食堂の寮母さんをしていて、
入ってくる若い10代の女の子たちの指導には苦労した
(後にしばらくたってからの再会)という話も聞いて、
やはり微妙な年頃の女の子の心は咲き始めた花のように色とりどりで同時に脆さもあるのだなぁ と感じました。
危ない時期を乗り切れば、また安定する時期もくるのかな?

何かの縁でこの世に生れてきたオンリーワンの花の命 
それぞれの花の意義と個性を最大限生かしてほしいと願います。

投稿: AJ | 2008.11.16 22:10

AJさん、コメントありがとうございます。
頻繁といっても、まだ記事は今月4つしか書いてないのですが…(苦笑)
日々更新されているAJさんはすごいなぁと、ただただ感心することしきりです。
体調は相も変わらず悪いですが、なんとかかんとかやっております。

実はわたしはこの作品に登場するような女子寮にいた経験があるので、
かなり前のめりになりつつ読了しました。
あの頃の少女たちとはみんなほんの刹那の関係でしたが、
儚いながらに濃い時間を共に過ごしたものだから、
ときどきどうしているだろう…と、ぼんやり思い出すことがあります。
AJさんの出会った元寮母さんにも、いろいろ感慨深いものがあるでしょうね。
それぞれの場所でしゃんと生きていることを、ただただ願うばかりです。

投稿: ましろ(AJさんへ) | 2008.11.17 15:55

ましろさん、こんばんわ。

今日の新潟は冷えて山の方は雪も多少積もっているようです(+_+) 
平地でも霰や霙が舞い外はブルブル寒いです(ーー;) 
雪国の宿命とはいえ先週は快晴続きだったので身体が慣れて順応するまで体調管理には留意したいです。

私のブログはテーマに添って比較的思ったことを書けるし、
ましろさんはまず話題の本を読み更に自分が感じた事・意見などを皆さんに紹介する形の読書レビューですから私より大変だと思います。
あまり熱中し過ぎると煮詰まるので
私は時々ブログパーツで遊んだり、別の気楽なサイトや知人のブログで骨休みもしております(*^。^*)

一時期一緒だった同僚や友達のその後を知りたいと思う時もありますが、無理はしません。
縁があれば自然に出会えるでしょうし
こちらは今できることを自分の歩みで進めることを心がけています。

私めは昔も今も恥ずかしがり屋で根気も無く
自分の日記は必ず三日坊主に終わってたもん(ーー;) 
皆さんにブログを読んでもらえることだけでも有り難いことだし素晴らしいことですよ! 
時には感情のおもむくまま“やみくも”になってもいいし自分なりの素直な歩を進めましょう。


投稿: AJ | 2008.11.19 22:19

AJさん、再びコメントありがとうございます。
新潟は雪がもう降っているのですね。
平地でもそれほどまでに寒いとは…!
どうぞお体には気をつけてくださいませ。
体調管理はいつまでたっても課題であるわたしです。

いやあ、一時期は毎日のように更新していたので、
波に乗れたらもっと頻繁に更新できるとは思うのです。
でも、ここ半月くらいは本当に集中力や意欲がないもので。
なんとももどかしい日々が続いております。
4年も続けているとこういうマンネリ化した時期がくるものなのでしょうか。
ときどき無性にブログを削除したい気持ちにかられたりします。
まだ、しませんけれどね(苦笑)

投稿: ましろ(AJさんへ) | 2008.11.20 13:31

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