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2008.11.20

ピンクの神様

20081119_010 与えられた小さな世界でわたしたちは生きる。他人から見たら、ちっぽけに思われることに必死になって思い悩んで。それでも懸命にしがみついて、生きるすべを模索しながら這いつくばる。大きな世界にいると自負している人たちだって、いつかは小さな世界へと帰るのだ。大きな世界は永遠には続かない。だから小さな世界にいる住人を嘲笑うことなどできない。だからちっぽけな日常に思い悩むわたしたちの話に、せめて耳を傾けて欲しい。魚住直子著『ピンクの神様』(講談社)には、そんな強いメッセージが感じられる。七つの物語は、年齢も置かれている状況も異なる小学生から五十代までの女性が主人公である。だが、共通しているのは皆それぞれに人間関係に悩んでいるということだ。

 「卒業」では、就職した主人公が高校時代の友だちとのすれ違う人間関係に思い悩む。「首なしリカちゃん」では、服装を基準に幼稚園のママ友を作ろうと躍起になる。「ピンクの神様」では、いじめのリーダー格の少女がさまざまな葛藤を抱えながらも生きている。「みどりの部屋」では、転職した先での人間関係のいざこざから逃れるように観葉植物を買うことで解消しようとする主人公がいる。「囚われ人」では、かつて起こった出来事の罪滅ぼしのように息をひそめながら小さな文具店を営む主人公がいる。「魔法の時間」では、学校での自分のキャラ作りを見破られたのが気がかりで眠れない一夜の出来事が語られる。「ベランダからキス」では、傷心の主人公と同じアパートに住む人との関係を描いている。

 主人公や悩みは違えども、人間関係はいくつになってもいつまでたっても難しい。そんなことが感じられる物語ばかりだ。けれど、わたしたちは生きている以上、悲しいかな、そこから逃れることができない。もちろん、煩わしいことばかりじゃない。苦い出来事ばかりじゃない。嬉しいことだってあるだろう。楽しいことだってあるだろう。だからこそ、人と人とは結びつき、ときに離れ、出会いと別れを繰り返すのだろう。物語は、そんな出会いの絆をそっと感じさせてくれて、あたたかに包み込む結末を用意してくれている。さりげなく。そっと。ほんの少しばかりの救い。そして、何となく誰かに詫びるような気持ちを込めて。これまで傷つけてきた人たちへ。これまで別れてきた人たちへと。

 思えばわたしも随分と人を傷つけ、傷つけられ生きてきた。そういう人間関係の繰り返しの中で、成長できたかと問われてみてもあまりピンとこないのは、もしかしたらちっとも成長していない証拠なのかもしれない。けれど思う。年齢に応じた悩みは、いつだってつきまとうものであることを。そして、いつまでも根を張る悩みも尽きないものなのだということを。悩みの根は深い。人間関係が複雑であるように。人間という生き物が、複雑にできているように。だからわたしは、与えられた小さな世界で生きる。他人から見ればちっぽけな悩みに右往左往しながら、それでも懸命にしがみついて生きるのだ。そのすべを模索しながら這いつくばるのだ。今日も明日もあさっても。きっと。きっとね。

4062147882ピンクの神様
魚住 直子
講談社 2008-06-26

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 ≪魚住直子の本に関する過去記事≫
  『非・バランス』(2008-06-14)
  『Two Trains』(2008-07-26)
  『リ・セット』(2008-07-31)
  『超・ハーモニー』(2008-08-14)
  『未・フレンズ』(2008-09-22)


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