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2008.11.14

公園で逢いましょう。

20081030_034 人生の岐路に立ち戻ること。自分を変えたあんなこと。こんなこと。そういうことを思い返してみるのも、ときには悪くないものだ。人は皆、赦し赦されて生きている。誰でもない自分に。誰でもない誰かに。三羽省吾著『公園で逢いましょう。』(祥伝社)に描かれる、“ひょうたん公園”に集う人々は皆、ふっと人生の岐路に立ち戻る。今まで思い出さなかったようなあの頃のことを。何かに導かれるように。何かに掻き立てられるように。思い出すときがやってくる。やわらかに紡がれる物語たちは、どこまでもやさしく、包み込んでくれるようにあたたかだ。「春の雨」「アカベー」「バイ・バイ・ブラックバード」「アカミス・キュリエ」「魔法使い」からなる、連作短編集である。

 この物語を読んで、公園という場所の魅力にまず惹かれた。もちろん、そこには煩わしい人間関係があって、ママさんたちの思惑が渦巻いている。誰も本音では会話をしない。上下関係や暗黙のルールだってある。子どもあってのコミュニケーションの場だったりもする。けれど、底に秘めたところにはそれぞれの物語があって、それぞれに抱えている問題や過去や痛みがある。確かに息づく人が存在しているのだ。物語は、そんな人のこころにほんの少し立ち入って、今この場所に至るまでの経緯を語りはじめる。それは、ささやかな出来事かもしれない。人生の岐路と呼べるようなたいそうなものではないかもしれない。けれど、それは人それぞれ。感じ取り方はさまざま。人の数だけ物語はあるのだ。

 印象的だった「春の雨」と「アカベー」。「春の雨」では、集団に属することが必然であれ偶然であれ、複数の人間が同じ時間を共有する以上、自分には役割があるのだと言う主人公。それは、学校でも職場でも、家庭でも、昼下がりの公園でも同じことだと言う。そうして、彼女がなぜ子どもたちを見守る役割を公園で担っているかを回想し始めるのだ。その苦い記憶から、本当の優しさを学んだ彼女。けれど、人はそう簡単に変われるものではないことも知っている。だからせめて見守る。自分本意なのは重々承知の上で、見守り続ける。傷つくのが怖い彼女の、せめてもの償いのような生き方。けれど、彼女は前を見据えている。先を見つめて、見つめ続けて、今日もまた生きてゆこうとしている。

 「アカベー」は、公園の中で年長になるママさんの回想録である。自分に対して怯えているようで、挑んでいるようで、謙虚で、貪欲で、無条件に信頼しきっている我が子。自分が何をしようとすべてを赦す覚悟ができているように思える我が子。そんな子どもをあやしながら、弟との間に深い溝を抱えたまま、成長してしまった彼女の転機が語られてゆく。中でも、彼女の夫となる人アカベーの言葉は力強い。“何度でも赦してやる。何度でも信じてやる”。誰にでも、は難しくても、大切な人や失いたくない人には、そうでありたいと切に思う。人は皆、赦し赦されて生きているのだから。誰でもない自分に。誰でもない誰かに。だから少しでもいい。心をひらいて、前を見据えたくなるのだった。

439663305X公園で逢いましょう。
三羽省吾
祥伝社 2008-10-23

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 ≪三羽省吾の本に関する過去記事≫
  ・『厭世フレーバー』(2005-09-29)


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コメント

こんばんは。
素敵な作品集でした。わたしはこれ!と好きな話を選びましたが、選ばなかった話もどれも印象深く、きらいじゃないです。ががっと読んでしまいましたが、もっとじっくり読みたかったな…と思う気持ちもあったりして。
アカべーのセリフ“何度でも赦してやる。何度でも信じてやる”は、実際に誰かに言ってもらいたい言葉ですね。そしてわたしも誰かに-。

投稿: まみみ | 2008.12.12 01:23

まみみさん、コメント&TBありがとうございます!
ホント、素敵な作品集でしたよね。
そうそう、最後のお話も思い出しましたよ~(笑)ありがとう。
わたしももっとじっくり読めばよかったなぁと、今少し後悔しています。
アカベーのセリフは、わたしも誰かに言われてみたいものです。
惚れ惚れしちゃいます☆もう、言われないなら言っちゃう勢いですよ。

投稿: ましろ(まみみさんへ) | 2008.12.12 10:46

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