« 超・ハーモニー | トップページ | やみくも 翻訳家、穴に落ちる »

2008.08.19

わたしとあそんで

20070421_001 好奇心旺盛な女の子の目と出会って、思わず手に取った本は、淡いクリーム色を基調としたやわらかなタッチの絵で、自然の素直なぬくみを読み手に伝えてくる。女の子と生き物たちとのやりとりは、一見単調なものだが、だからこそ強く伝わるメッセージが隠されているように思えてならない、マリー・ホール・エッツ文・絵、与田凖一訳『わたしとあそんで』(福音館書店)。"わたしとあそんで。"と、生き物たちに話しかけるたびに逃げられてしまう女の子の細やかな心情の変化と、それをいつでもあたたかく見守る太陽との関係に救われ、また結末の何とも言えない幸福感に包まれる、そんな物語だ。人が自然と接するときの距離感というものについて、深く考えさせられる一冊でもある。

 朝露の光る中、原っぱに散歩に出かけた女の子は、早速出会ったばったに話しかける。"ばったさん、あそびましょ。"と。けれど、捕まえようとすると、するりと逃げられてしまう。その後に出会う、かえる、かめ、りす、かけす、うさぎ、へびもみんな"あそびましょ"の声に驚いたかのように、女の子から逃げてゆく。誰も遊んでくれないので、女の子は池のそばの石に腰掛けてしょんぼりして、じっとしている。すると、次々とこれまで出会った生き物たちが戻ってきて…という展開の物語。自然と人間との距離感というものは、人間と人間同士の距離感というものにも繋がってゆく気がして、ゆっくりじっくりと"待つ"という時間の大切さを、その姿勢を教えてくれているようにも感じる。

 小さな頃から自然に恵まれた土地で育ってきたわたしだが、大人になった今では自然との距離感というものを、ふと考え込んでしまうことがある。虫に刺されると嫌だから虫除けスプレーをしなくちゃとか、あの小道にはへびがよく出るから避けて通ろうとかにはじまり、自然に対してとにかく常にびくついている気がするのである。無邪気に原っぱでバッタや蝶々を追いかけたり、河原で水遊びをしたりした幼い頃はもう、遠い夢の彼方だ。自然をありのままに受け入れたり、接したりすることの難しさを、今更ながらに痛感する。そうして気がついてみれば、人間同士の付き合いにすら、憶病になっているわたしが顔を出すのだ。自分を解き放つべき時は、もしかしたらすぐ傍まできているのかもしれない。

4834001539わたしとあそんで (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)
マリー・ホール・エッツ
福音館書店 1968-08

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« 超・ハーモニー | トップページ | やみくも 翻訳家、穴に落ちる »

58 海外作家の本(アメリカ)」カテゴリの記事

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

絵本の中には
童話のように身近な題材を基にしながらも
現代人が忘れがちな視点や自然観を
考えさせてくれるものも多いですよね。

大人になるにつれ
自然や動植物との繋がりがごく身近な限られたものになり
小さい頃は興味を持って見ていた小動物を今はウザったく思ってしまったり
太陽の光でさえ眩し過ぎると思う自分もいます。

女の子なら尚更
興味を持った動植物とお友達になりたいーという乙女の気持ちと、
でもトゲに刺されて傷つきたくない!という思いが交錯して
心は揺れるでしょう。

夢や自然を追いかけてばかりでもいれた幸せな昔が懐かしくもありますが
では、今は・・?
小動物は形は各々違ってて嫌われやすい外見をしていても、
おそらく考える暇もなく生きることに懸命なはずです。

ひるがえって、人間は・・?
ささいなことで喧嘩したり裏をさぐりあったり、
ラッキーな事があると舞い上がったり・・・

でも、おそらく誰の心の奥底にも潜在している素直な気持ちだけはなくさずに
一歩づつ前に進みたいものですよね。

『わたしと あそんで』
 そんなことも考えさせられる作品ですね。

投稿: AJ | 2008.08.19 23:28

AJさん、コメントありがとうございます!
おっしゃるように、絵本に学ぶことは多いです。
すっと入ってくる簡潔なわかりやすい言葉で描かれている分、
解釈はさまざまに読みとることができて、
まさに“世界傑作絵本”と呼ばれているだけのことはあるなぁと思いました。
絵のタッチもシンプルだけれど、本当に素晴らしい。

日焼けなんか気にせずに、男の子も女の子も区別なく、
無邪気に自然と戯れていた頃というのは、
本当に煌めくほど僅かで、貴重な時間だったんだなぁと、
今更ながらに思い出して、ほんのりと懐かしさに耽りました。

いつからこんなに憶病になってしまったのか…。
自然に対しても、社会に対しても、人間同士の付き合いに対しても…。
例えば大人になる、社会人になる…そうなることで、
自然をどこかでおざなりにして、
目の前のことにあくせくしてしまっているのではないか。
そんな気持ちも抱かずにはいられません。

まずは一歩。それからですね。
こうして、一冊の本から学んだことで、新たな生活がはじまってゆく。
そういう気がしているわたしです。

投稿: ましろ(AJさんへ) | 2008.08.20 06:32

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/42211284

この記事へのトラックバック一覧です: わたしとあそんで:

« 超・ハーモニー | トップページ | やみくも 翻訳家、穴に落ちる »