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2008.08.22

やみくも 翻訳家、穴に落ちる

20080816_019 あっちへふらふら、こっちへふらふら。寄り道が好きなわたしは、目的も忘れてついついあちらこちらに目移りしてしまう性質の持ち主だったりする。片づけはじめたすぐ傍から、思い出に浸ってみたり、感慨深く考え込んでしまったり。そんなことは日常茶飯事である。鴻巣友季子著『やみくも 翻訳家、穴に落ちる』(筑摩書房)は、そんなタイプの人間にとっては頷くことしきりの、何とも愉快なエッセイである。翻訳家という仕事の奥深さを、異文化の境界に立たされる孤独さを、そして、何より、著者の人柄のあたたかみを感じさせるユニークな視点は、文章からじんと伝わってくる。穴に落ちることも、回り道をすることも、決して悪いことじゃない。そんな思いになってくる一冊だ。

 「愛猫」というタイトルからはじまるこのエッセイは、猫好きにはもう、食いつかずにいられない。憂鬱になって落ち込んでいるとき、なかなか筆が進まないときなど、“猫を撫でさせていただく”。この言葉だけで、どれほど猫に愛情を抱いているのかが伝わってくる。また、「誤変換」や「彫刻」では、翻訳家としての日常を、その仕事の苦労を、読み手に伝えてくれる。とりわけ、ヴァージニア・ウルフの訳に関しては、“いま、つかみにいきます”“もうすぐつかめそうです”“つかみつつあります”“つかめました”というふうに実況中継できそうなくらいの段階を経て、ようやく翻訳できるというのだ。わたしのイメージしていた翻訳のイメージとはかなり違っていただけに、とても驚いた一節である。

 帯によれば、“なにかをやりだすとすぐ、横道へ横道へとそれてしまう。”“本や映画などでは、本筋と関係のない些事・細部に目がいく。”“仕事の成果に直接関係のないことに限って力が入る。凝りまくる。”“道ばたの穴が妙に気になる。”なんてことに思い当たる人は、立派な“やみくも体質”であるそうだ。今のところ対処法はないけれど、この本を読めばきっと大丈夫。現代社会において、効率よく生きるための時間の使い方のノウハウを語る本が流通する中、この一冊は寄り道だらけの人生だって、悪くないことだと身に染みて感じさせてくれるはずだから。あとがきにもあるとおり、“寄り道は回り道にあらず”という信条で生きるのも、なかなかどうして悪くないものではないか、と思うのである。

 また、表紙をはじめ、さまざまなページに寄り道をする犬やふと立ち止まった先にある風景などを描いている、さげさかのりこさんの絵も何とも味わい深いものがある。あまりにも愛くるしいものだから、読みながら、そちらの方にもちらりちらりと目移りしてしまって、このエッセイを読むのには、随分と時間がかかってしまったわたしである。まさに“やみくも体質”人間である。けれど、時には、ゆうるりと気ままに時間を過ごすのもいいものだ。忙しなく生きる日常からかけ離れた世界へ導いてくれるこのエッセイは、今後もお気に入りの一冊として、わたしの中にいつまでも残ってゆくに違いない。そして、これを読んでいるあなたも、もしかしたら“やみくも体質”かもしれないのだ。

4480816593やみくも―翻訳家、穴に落ちる
鴻巣 友季子
筑摩書房 2007-12

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コメント

僕もやみくも体質でしょうね。あっちへふらふらこっちへふらふら・・、ときにしゃんとして真っ直ぐ気取って歩いたり。

寄り道も回り道もその人の辿る道全てが最終、幸いへと続く道程になると信じています。

投稿: Pepe | 2008.08.24 18:48

Pepeさん、コメントありがとうございます!
仲間がいてなんだかとても嬉しいです(笑)
寄り道だって回り道だって、決して無駄足ではありませんよね。
新たな思わぬ発見があったり、出会ったりしますもの。
でも、ここぞというときには、しゃんとしていたいものですね。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.08.24 22:11

ましろさん、こんばんわ
 お世話さまです。
私めも目的地以外に興味惹かれると寄り道しちゃうし目移りしちゃう場合もありますよ(~_~;)
そんで穴に落ちたりケガして痛い目に遭ったりした事もあります。受けた傷は数え切れません(+_+)
でも、めげずに前向きにチャレンジしていると時々ラッキーな事にも巡りあえます。
歩みのテンポは人それぞれ違うけど、人生に無駄というものは実は無いのだと思いますよ。
失敗と思う出来事も無駄と思えば全て無駄になるし糧だと思えば全て糧になります。
私の場合、小さい頃から・・いじめっ子や自分の中の弱気の虫との闘いや挫折の連続でしたが、
状況もいつか変わるし、自分の得意分野を少しづつ磨き・・
あとは色んな人や自然と気楽に接すればいいと思うようになってから肩の荷が少し下りました。

自分らしく生きる!のが一番だと思います。

投稿: AJ | 2008.08.25 22:50

AJさん、コメントありがとうございます。
お、こちらにもやみくも体質の方がいらしたっ!!!
なんとも嬉しい限りです。
わたしもこれまでいろんなことに直面してきましたが、
今となってみれば、すべて(とまでは言い難い部分もあるけれど)が、
今の“わたし”をつくっているんだなぁと思います。
人生、無駄なことなんてひとつもない。
そんなふうに思えば、道も自ずとひらいてくるような気さえしてきます。
自分らしくあることって、本当に大切なことですよね。
前向きな姿勢を常に心がけて、これから先、
もっともっと、自分を磨いてゆかなくっちゃと思います。

投稿: ましろ(AJさんへ) | 2008.08.26 00:37

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