« カソウスキの行方 | トップページ | 君は永遠にそいつらより若い »

2008.08.08

まんまるおつきさまをおいかけて

20070416_034 闇夜にぽっかりと浮かぶ月。近づきたくて、いくら追いかけても追いかけても、遠のいてゆくばかりの、わたしたちにはなかなか手に届かない月。そんな月明かりの中、子猫がはじめて見たまんまるの月は、お腹がすいていたせいもあって、ミルクのたっぷり入ったお皿に見えてしまう。好奇心いっぱいの子猫ならではの行動がとてもユニークで可愛らしかった、ケビン・ヘンクス作・絵、小池昌代訳『まんまるおつきさまをおいかけて』(福音館書店)。モノクロのシンプルなタッチの絵も物語も、小池昌代さんの独特のリズムを感じさせる訳も素晴らしく、繰り返し何度も読んでしまった。対象年齢は3歳から、とあるけれど、大人だからこそ子猫の愛らしさが伝わってくるようにも思う物語だ。

 きっと子猫は、とにもかくにもミルクが飲みたかったのだろう。舌をのばしてみたり、ジャンプしてみたり、木に登ってみたり、ついには池にまで飛び込んでしまう。そして、何度も繰り返されるフレーズは、“こんなはずじゃあ なかったのに”である。子猫がどんどん悲惨な目にあってゆくのを、固唾を呑んで見守るしかできないのが何ともはがゆい。けれど、最後の最後に待ちかまえていた結末にほっと安堵することができるのが、唯一の救いであり、ミルクのように甘い夢みたいな物語であるという印象を受けるのだ。それも、格別に心地よい甘い夢。また、同時に月になかなか手が届かないわたしたちの厳しい現実をも示しているようにも思うのだった。

 繰り返される“こんなはずじゃあ なかったのに”というフレーズは、子ども向けの絵本とは言っても、何だか妙にこころに突き刺さる。それはきっと、世の中にこの言葉が満ち満ちているからなのだろう。人間関係における、ささやかな行き違いなんかは、とりわけ“こんなはずじゃあ なかったのに”と言いたくなる。伝わらないもどかしい気持ち、乞いながらも叶わぬ望みなどなど。自分はそんなつもりはなくても、相手に勘違いされてしまうことだってしばしばである。言葉というすべを持っていても、それはひとつの道具にすぎず、本当に使いこなせているとはとうてい思えない。愛らしい子猫の無邪気な物語から、そんなことを改めて思ったわたしだ。

4834020851まんまるおつきさまをおいかけて (世界傑作絵本シリーズ)
Kevin Henkes 小池 昌代
福音館書店 2005-10

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« カソウスキの行方 | トップページ | 君は永遠にそいつらより若い »

58 海外作家の本(アメリカ)」カテゴリの記事

69 アート・絵本」カテゴリの記事

71 猫の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/42104749

この記事へのトラックバック一覧です: まんまるおつきさまをおいかけて:

« カソウスキの行方 | トップページ | 君は永遠にそいつらより若い »