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2008.07.31

リ・セット

20080717_4003 ボタンひとつで、クリックひとつで、そうやって断ち切ることも可能なものが増えつつある現代社会の人間関係の構図がある。けれど、人のこころはひどく複雑にできているから、いくら縁を断ち切ろうとも、なかなかすべてを真っ白なクリアな状態に戻すことは困難だ。魚住直子著『リ・セット』(講談社)は、まさにそんなこころの葛藤を描いた一冊である。とりわけ、10代の少女たちの中に渦巻く感情の揺れや、思春期の難しい年頃ならではの友人関係のトラブル、親子間の中にも蠢く複雑な心境について、いろいろと読み手側に訴えかけてくる。人はそう簡単に変われない。変わるための大きなきっかけもなかなか見つからないけれど、それでも、自分自身の中に答えはあるのだ、と。

 どこか危うさを感じさせる母親と二人暮らしをしている中学二年の三帆は、友だちとの関係にどこか一歩引いた姿勢でいる。あるとき、近くの砂浜で父親らしき人と偶然出会うのだ。記憶もなければ、これまで一度だって気に止めたことのない父親の出現に戸惑いつつも、その生き方や人間性を理解しはじめる三帆。一方、学校では“ビミョー”と呼ばれているクラスメイトがおり、三帆が何となくつるんでいる輪の中に、懸命に入ってこようとする彼女の存在を気にしつつも、彼女のいないところでつい友人たちと一緒になって仲間はずれにしてしまっているかたちだ。三帆は決して自ら進んで悪口は言わないが、それでもいじめを止める勇気を持ち合わせてはいないのだった。

 そんな中での、父親との交流は大きかった。とりわけ、物語に登場する新生法についての話は、三帆の心を大きく揺さぶる。自分自身をリセットできれば、周囲も変わってくるかもしれない…そんな淡い期待にすがる若さが、何ともはがゆく、痛々しくもある。物語は、三帆をはじめとする何人もが、それぞれに悩み苦しみ、こころに傷を抱えて生きていることを、迷いながら葛藤しながら生きていることを伝えてくる。けれど、リセットなどそう簡単にできるものではない。そして、ときには逃げずに傷と向かい合うことも必要である。そうして、自分自身と向き合ってはじめて、成長した自分になれるのだろう。何よりも、自分らしくあるために。その歩みはゆっくりでもいい。そう思う。

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魚住 直子
講談社 2003-03

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 ≪魚住直子の本に関する過去記事≫
  『非・バランス』(2008-06-14)
  『Two Trains』(2008-07-26)

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