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2008.07.12

くまとやまねこ

20080704_020 どうしたって朝はやってくる。明けない夜がないように。降り止まない雨がないように。そして今日の日を生きるわたしたちは、忙しさにかまけて“きょうの朝”が何よりも特別だということを忘れがちだ。共に過ごす誰かが、もしかしたら明日の朝にはいないかもしれないということに。死。それは突然ふいにやってくる。大切な誰かのもとへ。或いは見知らぬ誰かのもとへ。湯本香樹実文、酒井駒子絵『くまとやまねこ』(河出書房新社)は、ある朝大切なことりが死んでしまい、打ちひしがれたくまが、やまねこと出会ったことにより、新たな一歩を踏み出してゆく、という物語。テーマとして描かれる喪失と再生。時間の流れと共にこころがほどけてゆくのが印象的である。

 最愛の友だちであることりを亡くしたくまは、その亡骸を小さな箱に入れて持ち歩くようになった。すると、森の動物たちは箱の中身を知りたがる。そして、たいていは困り顔で諭すように言うのだ。“つらいだろうけど、わすれなくちゃ”と。いとも簡単に死の悲しみを乗り越えろと。そうしていつしか自分の殻に閉じこもるようになるくま。それでもやがて少しずつ歩き出したくまは、やまねこと出会う。このやまねこもまた、大切な人を失った悲しみをよく知っていたのだろうか。くまは、やまねこの誠意ある言葉とバイオリンの音色に、ことりとの日々を思い出し、はじめて救われるような心地になったのだった。その歩みはゆっくりでも、確かな一歩である。

 この物語を語る上でかかせないのが、酒井駒子さんの絵だ。この方の絵は、黒を印象的に使っているイメージがわたしにはあるのだけれど、この『くまとやまねこ』では、その黒の表情が際立っているように思える。くまの悲しみ。くまの孤独。くまの物思いに耽る姿…などなど。そして、ことりとの思い出を回想する場面などでは、黒の差し色としてのピンク色が煌めいているのである。そのピンクを見たとき、ああ、なんて愛らしいんだろうと思わずにはいられなかった。そして、くまのことりへの深い深い愛情をも感じずにはいられなかった。そうして、ことりの言葉を思い出す。“ぼくはきのうの朝より、あしたの朝より、きょうの朝がいちばんすきさ”と。

4309270077くまとやまねこ
湯本 香樹実
河出書房新社 2008-04-17

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コメント

こんばんは。

ほんとうに、黒で染められた落ち着いたトーンのなか、ピンク色が際立ってましたよね。
タイトルには「くまとやまねこ」しか書かれていないのに、
〈くま〉の心のなかにいる〈ことり〉の存在をずっと感じていたような気がします。
悲しいけれど、誰かを精一杯愛したくなる、そんな素敵な絵本でした。

投稿: ぐら | 2008.08.27 23:04

ぐらさん、コメント&TBありがとうございます!
酒井駒子さんの絵は、毎回黒が印象的に使われていますが、
さし色が本当に絶妙なバランスを保っているように思います。
物語といい、絵といい、素敵な一冊ですよね…。
しみじみとそう思います。
以前、酒井さんの原画展にいった日のことが、鮮明に思い出されます。

投稿: ましろ(ぐらさんへ) | 2008.08.28 00:47

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