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2008.07.29

仮面の告白

20080729_74013 本当の苦悩というものは、じわりじわりとわたしたちに迫りくる。例えば、恋い焦がれる思いとそれに相反する嫉妬心。明日を生きる、ということへの迷いや焦り。自分の想い描いた理想と現実とのギャップ。社会的な立場における自分自身の置き所と、本来の姿をひた隠すやましさ、などなど。三島由紀夫著『仮面の告白』(新潮文庫、新潮社)を読みながら、現代社会とは時代背景こそ異なるとはいえ、その生きることに対しての、もがき足掻く姿を読むほどに、ただただ息苦しく、得も言われぬせつない気持ちになるのだった。もちろんそれは、今を生きるわたしたちの生きづらさにも通ずる。時は流れても、変わらないものがあるとすれば、そのひとつとして挙げることができるだろう。

 「仮面の告白」は、著者自身を彷彿とさせる<私>の性的な成長を中心に、青年期までを描いた作品である。男性に性的欲求を覚えつつも、やがて友人の妹園子に恋するが、彼女は別の男性と結婚してしまうのである。入隊検査での誤診から戦地に赴かずに済んだ<私>は、戦争で家族や友人たちに惜しまれながらの勇ましい死を遂げることもできずに、死への思いを募らせる場面が多く読みとれる。それでも、矛盾するように“自分は「死」から見捨てられた人間だ”と考えることを好んだ。死にたいのに死から拒まれる、という苦痛。この苦痛もまた、性的趣向が大きく関わっているように思える。戦場での死。その英雄的なニュアンスへの憧れよりも、ずっと奥深いものとしての孤独を感じさせるのだ。

 タイトルにもなっている「仮面の告白」。とはいっても、誰もが社会の中で仮面を被って生きている以上、読者であるわたしたちには、この物語についてあれやこれやと身勝手な想像をふくらませるすべしかないだろう。わたしたちだって、まっさらな素顔を誰にでも見せるわけではないのだから。この、素顔の著者と重なり、自伝的要素が強いとされる著者の代表作を改めて読み直して、セクシャリティ云々よりも、人一人がどれほどまでに数多く苦悩しながら生き、そしてそれとどう自分自身の中で折り合いをつけながら生きてゆくのか、ということを改めて痛感したわたしだ。その抱えた重荷は違えども、そのもがき足掻く姿は、今生きるわたしたちにも響き、届くものがあることは確かだ。

4101050015仮面の告白 (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社 1950-06

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コメント

こちらでは、はじめまして
『仮面の告白』積んでいます。
この本は坂本龍一(かなりのファンです)のお父様の一亀氏が編集した本というのを、20年以上前に知り、なぜか手を出せないでいました。
やっと読めるかな、と思って購入。
少し背中を推してもらった気がします。
毎回、可愛い猫ちゃんの写真があって気にいっています♪

投稿: 美結 | 2008.07.30 10:14

美結さん、コメントありがとうございます!
そんな経緯があった本だったのですね。
美結さんの葛藤と貴重な情報とを教えてくださり、感謝します。
わたしは高校時代に三島作品にはまって以来の再読で、
ずいぶん久しぶりに手に取りました。
読むのはとてもしんどい本の一冊だと思うので、
どうぞ心のおもむくままに、手にとってくださいませ。

猫写真は下手っぴでホント申し訳ないんですが、
好きなものを集めた結果今のようなブログになりました。
気に入っていただけて嬉しいです。

投稿: ましろ(美結さんへ) | 2008.07.30 22:10

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