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2008.06.23

映画篇

20080623_004 物語に秘められた力を、或いは映画に秘められた底力のようなものを、思い知らされた気がする。現実ではままならない状況でも、物語や映画の中では勇敢にも救ってくれるヒーローがいる。退屈な日常を輝かしいものに変えてくれる冒険が待っている。孤独な主人公に寄り添う誰かが必ずいる。そんな都合のいい展開に、わたしたちはなぜかほっと安堵し、心の奥底を日々潤してゆくのだろう。金城一紀著『映画篇』(集英社)は、帯にある“現実よ、物語の力にひれ伏せ”という言葉どおり、ままならない現実がフィクションによって支えられている様子を感じ取ることができる一冊である。映画のタイトルを題名にした五つの物語には、映画の果てない魅力と、著者の映画に対する熱き思いが溢れている。

 「太陽がいっぱい」「ドラゴン怒りの鉄拳」「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくはトゥルー・ロマンス」「ペイルライダー」「愛の泉」とある中で、わたしがもっとも心惹かれたのは、夫の突然の自殺からひきこもりがちになった女性が、ブルース・リーの映画などの力によって、生きる力を漲らせる「ドラゴン怒りの鉄拳」。物語の全体のトーンはダークなものでありながら、映画を通じて深まる人間関係に思わずにんまりしてしまう。そして、どの物語からも共通して感じられることは、映画と人との強い結びつきと、それを共有したときの何とも云いがたい密な時間。たとえ一緒に同じ時間に同じ映画を観なくても、観た者同士が繋がれるというのは、物語に関しても言えること。やはり、物語の力はすごいのだ。

 また、最後を飾った「愛の泉」も、なかなか心憎い物語である。おじいちゃんを亡くして精気を失ったおばあちゃんを助けるため、孫たちがおじいちゃんとの思い出の映画を上映しようと懸命に協力し合う物語である。この物語まで到達すると、それぞれの話で淡く共通していた部分がまあるく繋がったような心地になるのである。復讐劇や犯罪モノがある中で、これがもっとも微笑ましい物語でもあるから、何だかこの物語によってすべての物語(映画も)が愛おしく思えてきてしまう。それから、“映画篇”というだけあって、この一冊に登場する映画はなんと九十六本。そのうち、わたしが観たことのある映画はたったの十六本。もっと名作を観ませう。映画に疎くない方なら、屹度もっと楽しめるはず…。

4087753808映画篇
金城 一紀
集英社 2007-07

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コメント

映画は激安DVDを借りるか、テレビで見るか・・・
それでも回数は痴れています。

物語の力って果てしない。
久しぶり巨大スクリーンで
映画が見たくなってしまいました。

投稿: Pepe | 2008.06.23 19:53

Pepeさん、コメントありがとうございます。
わたしもほとんど映画館で観ることはなくて、
最近はネットで観ることも多いのですが、
レンタル派でございます。
本すら思うように読めないのに、
映画も…なんて欲張りすぎかなとも思うけれど、
もっと映画を観たくなりました。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.23 20:44

こちらからも、いつも御返信ありがとうございます。
ネットで映画・・!
考えていなかったので探してみます。

もう全く、ぜんぜん欲張りすぎなんかじゃないです。
お節介ですけどね。
どうぞお身体(心の方も)、お大事に
おねがいしますね。

投稿: Pepe | 2008.06.23 22:40

ましろさん☆こんばんは
たまに映画館へ行くと、妙に幸せ気分になってしまいます。
やっぱり大きなスクリーンはいいですよね。(*^_^*)
わたしが見たことのある映画は35本でした。
まだまだだなぁ~!

投稿: Roko | 2008.06.24 00:05

Pepeさん、再びコメントありがとうございます!
わたしはよくGyaoを利用するのですが、
ときどきものすごく好みの作品がラインナップされていて、
チェックを欠かしません。
無料という言葉に弱いわたしなのでした。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.24 06:02

Rokoさん、コメント&TBありがとうございます!
そうですね。やはり、大きなスクリーンは違いますよね。
ずいぶん行ってないなぁ…
それにしてもあの中から三十五本も観られていたとは!!!
よく映画をご覧になっている方なのでは?
わたしはどうも金城さんとは映画の好みが違うようで、
ちょっとばかりガクリとしましたデス。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2008.06.24 06:06

ましろ様
こんにちは。
「太陽がいっぱい」は私が大好きな映画の一つです。
自分の計画がうまくいったかのように見えたとき、
太陽がとても眩しそうにしていたシーンをよく覚えています。
この場合は犯罪でしたが何かをやりとげた充実感が伝わってきました。
実は今、ココログのメインページからLinkを辿ってきました。
いつもは、自分のLinkから来ますが、素晴らしい事が書いてあったので、即やってきました。
モニターの件「おめでとうございます」と言うためにです。

投稿: 銀河☆彡 | 2008.06.24 23:26

銀河☆彡さん、コメントありがとうございます。
「太陽がいっぱい」、お好きなのですね。
わたしはミーハーなせいか、アラン・ドロンの格好良さばかりに、
ただただうっとりしていた記憶ばかり。
嗚呼、恥ずかしや~
もっと映画そのものを観なくてはいけませんね…。反省。

モニターのお祝いメッセージもありがとうございます!
まさか選ばれるとは!という感じで、とても嬉しいです。

投稿: ましろ(銀河☆彡さんへ) | 2008.06.25 09:45

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