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2008.06.07

レモンとねずみ

20070416_028 嗚呼、此処にも。其処にも。彼処にも。確かに息づく思いを感じる。ときに潔く。ときにやわらかに。ときに深い寂寥とともに。そうしてページを捲ればいつだって、言葉はすとんと降りてきて、胸の奥底にぢんと響いてゆく。言葉が言葉としてあるべき姿。それを感じさせるほどに、強い意志が漲っている。石垣りん著『レモンとねずみ』(童話屋)。著者の五冊目の詩集にあたるこの一冊は、これまでの詩集に未収録だった約三百五十篇の作品の中から、四十篇を選んでまとめられたものである。亡くなってから三年余りの時を経て出版されたこの詩集は、生前の著者の活躍を知らないわたしにも親しみやすく、生き生きとした息づかいが聞こえてきそうな気がする。

 “きのう買っておいた/サンキストレモンの一個がみつからない/どうやらねずみがひいて行ったらしい。”という一節からはじまる表題作の「レモンとねずみ」。天井裏に身に余るものを抱え込んでいったねずみと、<私>の侘びしい暮らしとの対比。そして、鮮やかなまでにつややかなレモンの存在が、際立つ一篇である。ユーモアの中にも見え隠れする寂しさのようなものを感じつつ、けれど同時に、ほのかな希望すら見逃さない凛とした強さを感じる。生きる、ということに真っ向から立ち向かう姿勢は、いつだって美しい。「洗う」という一篇もそういう姿勢を伺い知れる一篇で、しめくくられる“「明日」です。”という言葉に何とも清々しい気持ちになるのだった。

 わたしが一番心惹かれた「ゆりかごのうた」という一篇では、眠りとは、一生続けなければならないお稽古だと、著者は云う。いつか死すわたしたちは、その永遠の眠りための練習をしているのだと云うのである。思えば、毎夜毎夜こんなにも繰り返し眠りと向き合っているというのに、現代人の多くが眠り下手である。そんなわたしたちが眠れるように、深く深く眠れるように、平易な言葉でやわらかに紡がれたこの一篇は、まるで眠りに対して身構えてしまっている心を見透かしているようにも思えてくる。眠りはむつかしい。永遠に眠ることは、もっともっとむつかしい。だから今夜も眠りのお稽古をするしかない。この一篇を思い出しながら、今夜こそはよい夢をと祈る。

4887470800レモンとねずみ
石垣 りん
童話屋 2008-04

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コメント

こんばんは夜分遅くに・・・

永遠の眠りのための練習ですか
考えたことも無かったです。おもしろいですね
自分にとって眠りは罪でした
こんな眠りべたな僕は
死んでからもたまに起きてしまいそうです

読みたい!ですが
童話屋は僕の財布に大打撃を与えてゆきます
まあ、やっぱり読むんですが・・

下らない話をしました、が
良い夢を・・・・・・・・

投稿: Pepe | 2008.06.07 23:32

Pepeさん、コメントありがとうございます。
永遠の眠りのための練習は、本当にむつかしい。
素敵な発想力ですよね。
ウーンと唸らざるを得ない。
わたしも眠り下手だから、いざというときに、
ちゃんと眠っていられるのかどうか、あやしいものです。

童話屋さんは、本当にいい仕事されてます。
わたしも手元に欲しいのですが、
かなわないまま今に至っております。
今回も図書館本。
嗚呼、収入のない身のせつなさよ。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.08 06:55

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